1.ストーカー
聡美は事務所で新聞を読んでいた。
コンコン──と、ドアがノックされる。
聡美は扉を開けた。
そこには、小学生くらいの女の子が立っていた。
「どうしたの?」
「お母さんが帰ってこないの」
「どういうこと?」
「昨日、家を出たきり。連絡もないの」
「書き置きとかなかったの?」
「うん」
「そっか。それじゃ困るよね」
「お姉ちゃん、優秀な探偵さんなんでしょ? お願い、これでお母さんを捜して!」
そう言って女の子は封筒を渡してきた。
封筒の中には千円札が一枚入っていた。
(交通費が高くつくな)
「捜してくれるよね?」
「もちろんよ」
「本当?」
「本当よ。だから、君の名前、教えてくれるかな?」
「荻島 エリだよ。六歳」
「お母さんの名前は?」
「みのり」
「みのりさんね。幾つかな?」
「二十五歳」
「そっか。お母さんは何時頃家を出たのかな?」
「八時頃だったと思う。買い物してくるって言って出て行ったの」
「そう。家、教えて」
聡美はエリを86の助手席に乗せ、彼女の家まで車を駆る。
「家の中見せてもらっていい?」
「いいよ」
エリが家の鍵を開けた。
中に入る聡美。
「お父さんいないの?」
「いるよ。こっち」
エリに和室に案内され、聡美はそこで仏壇を見た。
仏壇にはエリの父親だという人物の写真が置かれている。
「お父さん、今、写真の中の世界にいるの。お仕事が終わるまで帰ってこれないんだって」
(亡くなってるってことはまだわからない年頃なのね)
「じゃ、失礼して少し見るね。お母さんの部屋は?」
「あの部屋」
エリが指を差す。
聡美はその扉を開けて中に入った。
部屋を捜索する聡美。
机を調べてみると、日記帳が出てきた。
(女性の日記を見るのはあれだけど、状況が状況だもんね)
聡美は日記帳を開いた。
(ふむふむ、なるほど)
日記帳を閉じる。
(日記帳は日々の出来事が書かれていたけど、失踪の手掛かりになるものはなかったなあ)
他も探してみるが、しかし、手掛かりは見付からない。
「エリちゃん、お母さんに最近、何か変わったことはない?」
「そういえば、何度か警察署に行ってたよ」
「警察署?」
「うん。私もついてったことあるよ」
「部署はわかる?」
「生活なんとかだって」
(生活安全課……、みのりさんは怯えていたんじゃないかな)
「警察署行ってみようか」
聡美はエリを連れて新宿署の生活安全課にやってきた。
「あら、坂上さんじゃない」
生安の女性警官が声をかけてきた。
「これは三島さんじゃないですか」
三島 優子。生活安全課の刑事だ。年齢は三十半ばだ。
「あの、荻島 みのりさんのことで教えて欲しいことあがあるんですけど」
「荻島さん? そういえば何度か相談に来てたわ。ちょっと待ってて」
三島刑事がデスクのパソコンを操作した。
プリンターが起動する。
「はい」
三島刑事はプリンターから出てきた用紙を聡美に渡した。
「これは……」
用紙にはエリの母親がストーカー被害の相談をしていた記録が書かれていた。