3.偽名
聡美は銀城の素性を調べていた。
近所での聞き込み、警察のデータベースの閲覧など。
それらで得られた情報では、銀城は磯貝組のためとなれば、殺人など平気で犯すような輩であることがわかった。
だが、銀城は代議士の父親の影響力で、人を殺してもそれを揉み消しており、逮捕されたことは一度もなかった。
待ち合わせの夜、聡美は新宿公園を訪れた。
警察のデータベースで顔は確認しているため、ベンチに座っている人相の悪い男が銀城であることは直ぐにわかった。
「銀城さんですよね? お待たせしてすみません」
「お? おめえ可愛いな」
「単刀直入にお伺いします。横田さんをご存知ですか?」
「横田? 知らねえな」
「この人なんですがね?」
聡美は横田の夫の写真を見せた。
「こいつは……」
「知ってるんですね?」
「こいつは峯岸 優斗っていう名だぞ」
「峯岸 優斗……間違いありませんか?」
「ああ。うちの組の構成員だ。こいつがどうかしたか?」
「先週、何者かに首を絞められて殺されたんです」
「そういえば、先週から見なくなったけど、こいつ死んでたのか」
「この件にはあなたは一切?」
「ああ。って、あんた何なんだ? 刑事か?」
「いいえ。民間人です」
「そうかよ。んで、何でこいつのことなんか嗅ぎ回ってんだ?」
「実は峯岸さんの知り合いに殺害犯を特定してくれと頼まれていまして」
「そんなの警察にやらせればいいだろ?」
「それが警察は現場の状況と遺書の存在から自殺と断定しているんですよ」
「そうか。だが、俺は何も知らねえぞ。そんなことより、おめえ俺の女にならねえか?」
「お断りします」
笑顔で答える聡美。
「銀城さん、峯岸さんと仲のいい構成員はいますか?」
「吉田っちゅうチンピラがいるが? そいつ、峯岸と一緒にうちの組に入ったんだ」
「その吉田さんにお会いすることはできますか?」
「ああ、いいぜ」
「じゃ、明日にでも」
「ああ。じゃな」
銀城は去っていった。
(横田さんの夫が峯岸という偽名を使う理由。考えられるのは……)
聡美は事務所に戻った。
事務所の電話で横田宅へかける。
「はい、横田です」
「探偵の坂上です。つかぬ事を伺いますが、旦那さんのご職業は何でしょう?」
「無職です」
「はい?」
「ですから、無職です」
「そうですか。どうもありがとう」
聡美は電話を切った。
(無職の旦那。偽名での暴力団への所属。やはりあの職しか思い付かない)
聡美は寝室へ移動して眠りに就いた。
翌朝、聡美の携帯に銀城から電話がかかってきた。
「もしもし?」
「銀城だ。吉田と一緒に昨日の場所にいるから来てくれ」
聡美は新宿公園に直行した。