3.麻酔科医
麻酔科。
万丈目医師はいない。
「万丈目さんがどうかされたんですか?」
「いや、ちょっとね。万丈目さんにお会いしたいので、連絡先を教えていただけないでしょうか?」
聡美は万丈目医師の連絡先を入手した。
「どうもありがとう」
聡美は万丈目医師の家へ向かった。
ピンポーン──インターホンを鳴らす。
すると、男性が出てきた。
「どちら様で?」
「こういうものです」
聡美は手帳を提示した。
「探偵?」
「モルヒネ紛失の件でお話を伺えないでしょうか?」
「モルヒネ? あんた俺を疑ってんのか? 逮捕したきゃ証拠を持ってこい」
「わかりました。そうさせていただきます」
聡美は頭を下げると、病院に戻った。
院内で聞き込みをしていると、万丈目医師が当直明けの時にスーツケースを持って帰ったという目撃証言が得られた。
聡美は、万丈目医師がスーツケースにモルヒネをぶち込んで持ち去ったと推測するが。
「さて……」
聡美は万丈目医師が当直の日を狙って、病院を張り込んだ。
夜明けと共に、万丈目医師がスーツケースを手に出てくる。
聡美は万丈目医師をカメラで撮影した。
追跡する聡美。
万丈目医師は聡美に気づくこともなく、家まで辿り着く。
やがて、万丈目医師が家から出てきて、どこかへ向かう。
辿り着いたのは、磯貝組の事務所だった。
(まずいな……)
そこに川本が現れた。
「坂上さん?」
「吉田さんじゃないですか」
「こんなところで何を?」
「万丈目さんを追いかけてきたんですよ」
「万丈目医師ですか?」
「知ってるの?」
「薬事法違反でマトリが動いてますよ」
「モルヒネ?」
「どうやら万丈目医師はここにモルヒネを運んでるみたいです。あ、自分が言ってたってのは内緒で」
川本はそう言って事務所に入っていった。
(あの人、まだ潜入してるんだ)
入れ違いに、万丈目医師が出てくる。
聡美は見つからないよう物陰に隠れ、その場をやり過ごした。
病院に戻る聡美。
「院長、万丈目医師は磯貝組にモルヒネを運んでるみたいです」
「磯貝組?」
「はい。理由はわかりませんが、麻薬捜査官の情報なので確かかと」
「それじゃ、真相を知った横川さんは口封じに?」
「恐らくは。しかし、証拠がありません。薬事法で立件は可能でしょうが、殺人の立件は難しいかと」
「遺体の解剖をしてみてはいかがでしょうか? 幸い、ここは病院ですし、遺体安置室があります。横川さんのご遺体はそこで保管されてますよ」
「それじゃ、お願いしてもいいですか?」
聡美は手術室へ移動した。
医師が横川の遺体を解剖する。
解剖の結果、遺体からモルヒネが検出された。
被害者は眠らされて落とされたのだろう。
聡美は万丈目医師を訪ねた。
「またあんたか。証拠はあったのか?」
「あなた、磯貝組にモルヒネを運んでますね?」
「なっ……!?」
「それだけじゃない。横川さんという方を口封じに殺しています」
「そんな事件記者の男なんて知らない」
「事件記者の男?」
「あ……」
聡美は手錠を取り出し、万丈目医師の手にかけ、中野署へ連行した。
中野署での取り調べで、犯行の全てを自供する万丈目医師。
殺人と薬事法違反で送検される万丈目医師だった。




