2.調査開始
聡美は警視庁新宿警察署の資料課で横田家の捜査資料を見ていた。
捜査資料によると、横田の夫が亡くなったのは、今から一週間前の二月二十六日金曜日の夕方。仕事から帰ってきた横田が挨拶が返ってこないのを不審に思って家の中を調べると、和室で首を吊った夫の遺体を発見したという。
所轄の捜査員は現場の状況と遺書の存在から自殺と判断した。
当時の現場の状況はこうだ。
和室で夫が首を吊って亡くなっており、部屋には首に縄をかける際に倒したと思われる椅子と、遺体の側の畳の上には遺書があった。室内に争った形跡はない。
遺体には吉川線も無かったことから、事件は自殺と断定し、それ以上の捜査はされなかったという。
聡美は捜査資料を閉じ、棚へと戻した。
さて──と、資料課を出る聡美が次に向かったのは捜査一課だ。
聡美は捜査一課の木島 義人という、探偵業法改正前から懇意にしている警部に声をかけた。
聡美は高校時代、木島警部と男女の交際をしていた。しかし、木島警部が警察学校へ入校したことと、それが原因でなかなか会えないことから、気持ちが薄れて別れたのである。別に嫌いになったとか、そう言う訳ではなかった。
よりを戻そうとも思わなかった。
聡美は木島警部に横田家で得た情報を報告した。
「他殺ね……。パソコンの学習機能だけでは証拠が薄いな。一応、再捜査係に情報は上げとくけど、直ぐには動けないだろうね」
「やっぱりそうか。じゃこっちで調べるよ。夫人の依頼だしね」
「ああ」
聡美は捜査一課を出ると、新宿署を後にした。
トレノに乗り、横田家へ戻る。
「横田さん、旦那さんの交友関係洗いたいので、旦那さんの携帯電話を貸していただけますか?」
「わかりました」
横田が夫の携帯電話を用意する。
「拝借致します」
聡美は夫の携帯の電話帳のデータを全て自分の携帯に赤外線でコピーした。
「どうもありがとう」
と、携帯を返却する聡美。
「それじゃ、何かわかったらまた来ますね」
そう言って横田家を後にして、写した電話帳データを調べるため、夫の使っていた携帯キャリアを訪ねる。
携帯キャリアで通話記録を受け取り、それを見てみると、電話帳に記録されていない番号との通話記録が、亡くなる前にいくつかあった。
聡美は通話記録に残されたその身元不明の電話番号から住所を辿ろうとしたが、飛ばしの携帯だったために所有者が判明しなかった。
聡美は突撃を試みた。
身元不明の番号に電話をかけたのだ。
「はい?」
相手が応答するが、無視する聡美。
「何だよ?」
だが無言。
「何か言ったらどうなんだてめえ!? 用があるからかけてきたんだろうがよ!」
「……………………」
「この俺様を誰だと思ってんだ!? 磯貝組の銀城だぞ!」
「磯貝組の銀城さんですか」
「何だ? 女か?」
「あなたと直接会ってお話がしたいのですが、可能ですか?」
「ああ、構わねえけどよ。俺もそんな暇じゃないんでね。明日の夜でいいか?」
「構いません」
「わかった。じゃ、新宿公園にいるからよ。時間は何時でもいい。待ってるからな」
聡美は電話を終えて携帯をしまった。