3.危機一髪
聡美は貸し倉庫屋にやってきた。
「何でしょう?」
「警察の方から来ました」
「警察? 例の事件のことで?」
「遺体を発見した方の前の利用者を教えてもらおうと思いまして」
「前の利用者ね。ちょっと待って下さい」
オーナーがパソコンを操作する。
カタカタとキーボードを打つ音が聞こえる。
「ああ、これだ」
オーナーがモニターを聡美に見せる。
画面には個人情報が記載されている。
「岩淵 武雄?」
住所は渋谷になっていた。
解約したのは先週だった。
「なるほど」
「ねえ、刑事さん」
「あ……私、刑事じゃないです」
「刑事じゃない?」
「民間人ですよ」
「でも警察から来たって」
「誤解されましたか。警察の方と言ったんですよ」
「そんな個人情報保護法違反だべさ」
聡美は探偵手帳を見せる。
「探偵? 警察手帳に似てますね。おもちゃですか?」
「今年に改正された探偵業法で、探偵は資格制になり、手帳が支給されることになったんです」
こんなのも合法ですよ──と、拳銃をチラ見させる聡美。
「……………………」
「とりあえず、これメモしますね」
聡美はモニターの情報をメモ帳に書き記した。
「どうもありがとうございました」
聡美は会釈をすると、貸し倉庫屋を出て携帯を取り出した。
電話帳から三島刑事を選んでかける。
「はい、三島です」
「坂上です。荻島 みのりさんなんですけど、殺害されたそうです」
「え!?」
「それでお訊ねしたいんですが、みのりさんの相談内容にあったストーカーって、岩淵 武雄じゃありませんか?」
「ええ、そうよ。岩淵がストーカーってわかって厳重注意をしたんだけどねえ」
「逆上して殺害されてしまった」
「う……」
「三島さんの方から、エリちゃんに巧く説明しといてもらえますか?」
聡美はそう言い放って電話を切った。
「さて」
聡美は86に乗り、岩淵の家を訪ねる。
ピンポン──インターホンを押した。
中から太った醜い顔の男が出てくる。
「どちら様?」
「岩淵 武雄さんですか?」
「そうだけど、あなたは?」
「探偵の坂上です。あなたにお話があって来ました」
「探偵さんが何の用?」
「あなた、荻島さんをご存知ですね?」
「え? そんな女知らない。その人がどうかしたんですか?」
「実はとある貸し倉庫の倉庫内で遺体で発見されたんですよ」
「殺されちゃったんですか。それはお気の毒に。でも、それが僕と何の関係が?」
「単刀直入に伺いましょう。荻島さんを殺したのはあなたですね?」
「ノー! 僕はみのりを殺してない!」
「みのり? 荻島さんのファーストネームはみのりと言うんですか?」
「え? あ……、いや……」
「それにあなたは荻島さんと出しただけで女と答えています。どうして女性とご存知で?」
「さんって言ったから女だと思ったんですよ」
「あなたはみのりさんのストーカーをしていましたよね? 相談に乗った生活安全課の刑事が証言していました。あなたに忠告をした、と。これでもまだ言い逃れをしますか?」
「鍵はどうしたんだよ。かかってたんだろ? 速報ニュースに載ってたぞ」
「それは倉庫を解約する前に合鍵を作れば解決します。みのりさんの殺害は計画的なものだったのではないですか?」
「くっ、くそー!」
岩淵が拳を振りかぶった。
聡美は飛来した拳をガードしつつ後退した。
「デブの割には俊敏ね」
「デブじゃない!」
岩淵が聡美に詰め寄る。
聡美は岩淵に蹴りを浴びせて怯ませる。
「あんたふざけてると死ぬよ?」
聡美は懐から拳銃を取り出した。
「そんなハッタリ僕には効かない!」
パン!──聡美は銃口を岩淵の足元に向けて引き金を引いて弾丸を放った。
驚いて立ち止まる岩淵。
「ほ、本物!? 拳銃の所持は違法じゃないのか!?」
「今年から私立探偵は拳銃の携帯ができるようになったのよ」
聡美は手錠を取り出した。
「荻島 みのりさん殺害容疑であなたを逮捕します」
聡美が岩淵に手錠をかけようと近付いた刹那、彼が足払いをかけた。
「うわ!?」
聡美はひっくり返り、反動で拳銃が転がった。
(まずい!)
聡美は拳銃に手を伸ばそうとするが、時既に遅し。岩淵が拾い上げていた。
「僕の元に辿り着いたのはお前だけ。お前を殺せば僕は逃げられる!」
岩淵が銃口を聡美に向け、引き金に指をかける。
パン!──と、銃声が鳴り響いた。
(死んだわ!)
そう思った次の瞬間、岩淵は銃を持っていた右腕を損傷し、痛みに耐え兼ねて銃を落とした。
「いってえ!」
岩淵は傷口を押さえた。
銃声のした方を見ると、木島警部の姿があった。
「義人くん!?」
「なんか胸騒ぎがして心配だったからお前の後をつけてきた」
数人の刑事がやってくる。
「連行しろ」
刑事たちが岩淵を連行していった。
「やっぱり一人は危険だな。助手でも雇ったらどうだ?」
「そうね。考えとくわ」
立ち上がり、拳銃を拾って懐に戻す聡美。
「ありがとう」
聡美はそう言って86に乗り、事務所へと戻っていった。




