表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ドクロは自由がお好き‼  作者: 寿限夢
始まりの森
9/60

違う……自分はロリ○ンじゃ無い

 「ふぅ……終わり」


 突っ込んで来た最後の五匹目に止めを刺し、一息ついた。

 最初の一匹から、大体、五・六秒位か?

 我ながら手慣れたものだ。

 始めて闘った時は、かなり手こずったのに。

 自分で自分を誉めながら、モスウルフの頭から斧を引き抜く。

 ぶちゅっ、と言う音を立てて、斧が抜けた。

 その場で斧を振り、付いた血を飛ばす。

 ……やっぱり、切れ味が悪くなってる。

 血塗れの斧を見てそう思う。

 元々あった錆に、血と脂が染み込みつつある。

 多分、もうあまり持たずに完全に切れなくなるだろう。

 まぁ無理もないか。

 この三日、少なくとも百匹以上切り殺してるのに、まともな手入れひとつしていないのだ。

 むしろ、良く持っているほうだと思う。


 気を取り直して、スズちゃんチエちゃん二人の方を見る。

 二人とも言われた通り、その場から動かなかったようだ。

 ただ、二人共ボーッとした顔で、こちらを見ている。

 やっぱり、怖かったかな?


 「二人共~無事~?」

 「……」


 …… あれ?おかしいな?

 腰に斧を結わい付けながら、二人に声を掛けるが、反応がない。


 「……お~い?お二人さ~ん?」


 試しにもう一度声を掛けてみる。


 「……ハッ!」

 「はっ、はい!!スズ達はらいじょうぶれすっ!」



 ようやく気が付いたようだ。

 スズちゃんが慌てて返事をして、思いっ切り噛んだ。

 ちょっと可愛い。

 そんな事を考えながら二人の前に戻った。




 そんな時、事件は起こった。





 「うぉっ?!」

 「きゃっ?!」



 二人の前に辿り着く数歩手前、思いっ切り転けた。

 多分、石か何かにつまづいたのだと思う。

 気が抜けていた自分は、バランスを失い、つんのめる様に転けた。

 別に転ぶ事自体は問題じゃない。

 どうせ痛みなど感じないのだから。



 問題は、転けた先にスズちゃんがいた事だ。




その結果が、こちら。





 十歳前後の少女の上に覆い被さる骸骨(享年二十九歳)の図。

 しかも、左手は少女の胸の上。

 小さくて、柔らかな膨らみの感触を、布越しに感じた。




 ガチで時が止まった。


 ………………

 …………

 ……



 ……おまわりさん、僕です……


            僕がやりました……


 でも、聞いてください……


         わざとじゃないんです……




 だから、お願いします刑務所だけはああああぁぁぁぁぁぁっっっ!!!




 ぱきんっ




 『スキル[自由]により、スキル・魔法・進化の封印・拘束を解除します』




 混乱する自分を他所に、空気を読まないカガさんの声が響いた。

 それと同時に、何かが壊れる音がした。




          *




 「あっ……」


 カガさんの声と共にスズちゃんが小さく声をあげた。

 それを聞いて、我に帰ると同時に、今の自分状況を思い出す。

 顔から 、無いはずの血の気が引くのを感じる。


 「ごっ!!ごめん!!」


 慌てて飛び退き、土下座した。

 こんな小さな子になんて事してくれちゃってんの自分!!?

 ヤバい、泣いちゃったらどうしよう……

 罪悪感で胸が一杯になる。

 もう、駄目だ……殴られても何されても文句言えない……自首しよ……

 混乱する思考の中、覚悟を決める。

 そして、訪れるであろう裁きの時を待つ。


 ………………

 …………

 ……?

 ……あれ?

 何も、来ない?


 不思議に思って顔をあげてみる。

 見ると、スズちゃんが自身の胸を見つめ、固まっていた。

 どうしたのだろう?

 まさか、怪我でもしてしまったのだろうか!?


 「あの……スズちゃん?」

 「……消えた」

 「えっ?」

 「消えた……封印が消えた……!!呪いが解けた!!!」

 「「……えええっっ!!」」


 な、なんだってーー!!

 チエちゃんと二人、あわててスズちゃんの胸元を見る。

 そこには、先ほどまであった魔方陣が綺麗さっぱり無くなっていた。


 覗きこむ時、綺麗な桜色の何かが見えた気がするが、気のせいだ。


 「ひゃっ !!」


 今度は、突然スズちゃんが声をあげた。

 そして、キョロキョロと辺りを見回している。


 「どっどうしたの?スズちゃん?」

 「なっ何か急に頭の中に声が……!」


 親友の奇行にびくびくしながらチエちゃんが訊ねる。

 ん?声?それってまさか……?


 「……ひょっとして、『ぱんぱかぱ~ん♪』って言ってない?」

 「っ!!それです!!」


 スズちゃんがコクコクと首を振って答えた。

 やっぱりアタゴさんか……っていうか、あの『ぱんぱかぱ~ん♪』は自分だけじゃなく、もしや万国共通なのだろうか?


 「他にはなんて言ってる?」

 「はっ、はい……えっと……」


 スズちゃんがジッとして目を閉じる。

 聞き逃さないよう、アタゴさんの声に耳を傾けているようだ。

 少しして、スズちゃんが目を開けた。

 どうやら、終わったようだ。


 「なんて言ってた?」

 「……えっと(オーガ)族固有スキル、[怪力]と[身体強化]を得たって……」


 [怪力]と[身体強化]か……なんか強そうだな。

 というか、スズちゃん、やっぱり(オーガ)だったんだ。頭に角あるし。


 「とりあえず、試してみたら?」

 「試すって……どうやって……?」

 「とりあえず、ほいっ」


 適当な大きさの石を拾い、手渡す。

 大きさはちょうど握りこぶしくらいだ。

 スキルが[怪力]ってくらいなら、ひょっとしたら叩いて割れるかもしれない。

 まぁ、仮に割れなくても……


 ばごんっ


 ……えっ?


 「あっ割れました!!」

 「スズちゃん、凄い!!」


 手渡した直後、スズちゃんが石を握り潰した。

 しかも、片手で。

 正直、予想外です。


 「……すごい……すごい!すごい!!すごい!!!やった!!スキルだ!!やったぁ!!」


 スズちゃんが、そこらじゅうをぴょんぴょん飛び跳ねながら喜んでいる。

 本当に嬉しいのだろう。

唖然としていた自分も心がぴょんぴょんしてくる。


 ん?っていうか足の怪我は?


 「スズちゃん、足の怪我は?」

 「あっ大丈夫です!!もう、ちっとも痛くありません!!」


  マジで?


 とりあえず、呼び寄せ、腫れていた方の足首を見てみる。

 見ると、最初から腫れていなかった様に綺麗になっていた。

 どうやら、回復力まで強化されているみたいだ。


 「それだけじゃないんです!!スズ、なんだか、すっごく体が軽いんです!!見てて下さい!!」


 そう言ってスズちゃんがその場でジャンプした。

 たいして力を入れた様子も無かったのに、スズちゃんの体は、優に五メートル以上の高さまで飛び上がっていた。

 オリンピック選手も真っ青の跳躍力だ。

 こりゃ、凄い。


 「サヨリ様!!」


 つい見とれていたら、いきなりスズちゃんに話かけられた。

 なんだか、異常にキラキラした目でこちらを見ている。

 あまりのキラキラっぷりに、思わずたじろぐ。


 「なっ何かな?」

 「サヨリ様が呪いを解いて下さったんですよね!?」

 「えっ?まぁ……多分?」

 「スズ、このご恩は一生忘れません!!本当に、ありがとうございます!!」


 そう言ってスズちゃんが凄い勢いで頭を下げてきた。

 なんだか自分、もの凄くリスペクトされてる。

 っていうか、あれやっぱり自分がやっちゃったのか?

 でもどうやって……?

 あっでも、さっき転んでスズちゃんの胸を触っちゃった時、何かが壊れる音とカガさんが何か言ってたような気が……?

 もしかして、その時?いや、でも、まさか……ねぇ?


 ここ数年で、恐らく一番脳味噌を働かせていた、その時。


 「そうだ!!サヨリ様、チエの呪いも解いてもらえませんか?」


 スズちゃんから衝撃発言が飛び出して来た。


 「へっ?」

 「ス、スズちゃんっ!?」


 いきなりの提案だったので不意を突かれた。

 思わず間抜けな声が出る。

 チエちゃんも同じだったらしく、親友の発言に驚き、あたふたしている。


 「ス、スズちゃん……わ、私は……」

 「厚かましいのはわかっています!でも、御願いします!チエの呪いも解いてあげて下さい!!御願いします!!」


 そう言って、スズちゃんがまた頭を下げてきた。

 その姿勢は、真剣そのものだった。

 ……参ったね……こんな風に頼まれたら、断れないじゃない。

 仕方がない。一丁やってみますか!


 「……分かった。とりあえずやってみるね」

 「っ!!ありがとうございます!!」


 スズちゃんは笑顔でお礼を言い、また頭を下げた。

 そして、チエちゃんの手を引いて、自分の前に座らせた。

 目の前に座らされたチエちゃんは、何故だか小さく縮こまっている。

 頭の猫耳と相まって、正に借りてきた猫の様だ。


 「では、サヨリ様!よろしくお願いします!ほら、チエも!」

 「ス、スズちゃん……」


 チエちゃんが、若干泣きそうな顔でスズちゃんに呼び掛ける。

 どうやら、相当怯えているようだ。


 「怖くないから大丈夫!サヨリ様に任せておけば、大丈夫だから!」

 「で、でも……」

 「スズも付いてるから!ねっ?」

 「……いっ、痛くない?」

 「うん、痛くないよ!」

 「じゃ、じゃあ……」


 スズちゃんの励ましに意を決したチエちゃんが、自分に視線を移した。

 まだ若干不安なのだろう、大きな翡翠色の瞳を潤ませ、上目遣いでこちらを見る。

 ……何故だろう、妙な罪悪感を感じる……


 「あ、あの……」

 「うん?」

 「お、……お願いします……」

 「う、うん」

 「やっ……やさしく……して下さい……ねっ?




 ……何、この空気……?

 始めて感じる妙な感覚に、むず痒さを感じる。 

 そんな自分を余所に、チエちゃんは頬を赤く染めながら、おもむろに着ていた服の裾を捲りーー


 「……チエちゃん」

 「はっ、はい……」

 「……別に、服は脱がなくても良いんだよ?」

 「……えっ?」


 脱ぎ出したので、とりあえず止めた。

 お腹を出した姿勢のまま、チエちゃんは固まった。


 「スズちゃんの時もそうだったけど、多分、服の上からでも問題無いと思う」

 「……えっ?えっ?」

 「……チエ」


 スズちゃんが、何故だか可哀想なものを見る目で、チエちゃんを見ていた。

 チエちゃんは、最初訳が分からないと言う顔だったが、すぐに顔を真っ赤にして ……


 「……きゅうっ」


 倒れてしまった。


 「っ?!チエ!!」

 「チエちゃん!?」


 この後 、むちゃくちゃ介抱した。





        *





 「異世界か……」


 ポツリと一人、呟く。

 自分は今、少し前に倒したモスウルフ達の身体から、生えていた苔を剥いでいる。

 何故、こんな事をしているのかと言うと、何でもこのモスウルフの苔、薬の材料になるのだそうだ。

 教えてくれたのはチエちゃんだ。


 あの後、倒れてしまったチエちゃんを起こしてから、呪いの解除を行った。

 服の上から、軽く胸の中心に触れる。

 すると、カガさんの声と共に、何かが壊れる音がした。

 すぐに確認すると、見事に呪いの印は無くなっており、 思いの外、あっさりと成功してしまった。

 そして、チエちゃんも無事『ぱんぱかぱ~ん♪』のアタゴさんの声を聞き、スキル獲得に成功したのだ。


 成功して良かった……もし、失敗していたら、只のセクハラ野郎である。


 チエちゃんが手にいれたスキルは以下の通り。


 惑猫耳族(リリス・キャット)固有スキル [ 感覚強化 ] [ 速度強化 ]


 の二つに加え、更に、[ 薬草学 ] [ 毒・麻痺耐性 ] の何と四つも手に入れていた。




 ただ、少し疑問だったのはチエちゃんの種族名、惑猫耳(リリス・キャット)だ。

 何でも、チエちゃんの家の種族は本来猫耳族(ミーア・キャット)らしく、 惑猫耳(リリス・キャット)なんて種族は聞いた事も無いようだ。

 これには二人も首を傾げていた。

 だがまぁ、 ひょっとしたら知らないだけで、単に名前が違うだけなのかも知れないので、気にしないでおこう。


 話しを戻そう。

 チエちゃんが手にいれたスキル [ 薬草学 ] これの能力は『全ての薬草・毒草の鑑定・及び調合』という、なかなか破格のスキルだった。

 何故、こんなスキルを手にいれられたのかと言うと、答えはチエちゃんのお祖母ちゃんにあった。

 何でもチエちゃん、スズちゃんと出会うずっと前からお祖母ちゃんの家で、薬作りのお手伝いをしていたらしい。

お祖母ちゃんが亡くなった後も、狩りはスズちゃん、薬作りはチエちゃんが担当していたとの事で、どうやら原因はそれのようだ。

 [ 毒・麻痺耐性 ]もまた、長い間、様々な薬草や毒草に携わってきた事に由来するようだ。

 元々、スキルなんて無くても、大体の薬草の区別はついたのだそうが、スキルの補助により、今ではその薬草の効能・品質・最も適した調合法及び管理法から、何と何を混ぜればいいのかさえ、一目見ただけで解るらしい。


 [ 薬草学 ] 、凄すぎる。


 そのスキルによれば、モスウルフの身体の苔は、高濃度で抽出すると、上級回復薬になるらしい。更には、抽出した後のカスは、乾燥させ、お湯に濾して飲むと、喉薬にもなるのだそうだ。

 苔のまま患部に塗りつけても下級回復薬と同等の効果が得られるのだそうだ。


 モスウルフ……お前、実は凄い奴だったんだな……


 この三日間で三・四十匹くらい殺した、全てのモスウルフに、黙祷する。


 ちなみに、早速チエちゃんの足にはそのモスウルフの苔が塗られている。

 何でも明日の朝には綺麗に治るらしい。


 それにしても、塗る時は大変だった。

 くすぐったがりなのかチエちゃん、塗る度に「あっ……」とか「んんっ……!」とか小さく声を上げて、身を捩るのだ。

 塗り終わった頃には、全身汗まみれ、顔は紅潮して、肩で息をしていた。

 目もトロンってしてたし……そんなにくすぐったかったのか?


 そんなこんなで、二人には先に休んでもらい、自分はモスウルフの苔剥ぎをする事にした。

 最初、二人共手伝うと言ってくれた。

 どこまでも、良い子達である。

 だが、明日も早くから動き出すつもりなので、今のうちに寝て、明日に備えなさい、と出来るだけ優しく言って休んでもらった。

 最初は渋々といった感じだったが、やはり疲れていたのだろう、横になった途端、二人共すやすやと眠ってしまった。

 小さな二つの寝息が、聞こえてくる。


 それにしても、今日一日だけで色々な事があった。

 二人に出会って……空を飛んだり…………この世界の事を聞いたり……モスウルフ倒したり……転んで、スズちゃんの胸を……


 ゲフンッゲフンッ!!


 ふっ、二人の呪いを解いたりと、随分濃厚な一日だった。

そして、この世界の事……魔法……スキル……魔族……魔獣……それに、呪い……

 薄々感付いていたが、やはりそうだ。



 ここは……異世界だ。



 自分が生きてきた世界とは違う、別の世界。

 剣と魔法のファンタジー……それがここだ。


 「くふっ……くふっふふふふふ……」


 思わず笑いが漏れでる。

  二人が寝てて良かった。

 今の自分は、相当ヤバそうな奴に見えるだろう。

 元の世界でさえ、笑い方が化け物染みていると言われたくらいだ。

 ん?そういえば今はもう人間じゃないんだっけ?なら、いいや。

 しっかし、死んで目覚めてみたら異世界って……しかも身体は骸骨とか……なにそれ?



 最っ高に、笑える!!



 こんな経験、誰にでも出来る事じゃない!!

 こんな、こんな面白い事、滅多にある事じゃない!!

 最高にハイって奴だ!!!

 まだある!

 この世界には、自分が知らない事が、まだまだ沢山、星の数程ある!!

 それら全て、知りたい……行きたい……見たい……聞きたい……感じたい!!

 ああ、明日からが楽しみでしょうがない!!


 そんな感じに、一人、ハイテンションになりながらモスウルフの苔を剥ぎ、夜は更けていった。


























評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ