せつめい!!(けい○んのノリで)
スズちゃんが泣き止み、落ち着いた後、自分達はその場で野宿をする事にした。
もう、日が傾いて暗くなり始めていたからだ。
ただでさえ暗い森の中、二人を抱えて進むのは、あまり賢いとは言えない。
落ちてきた崖にちょうど雨風しのげそうな小さな窪みがあるので、そこで夜を明かす事にした。
二人を窪みに移動した後、近くに落ちていた枯れ枝や 木片、枯れ葉などを集める。
腰の巻き付けていた斧で枝や木片を加工し、真っ直ぐにした枝を、平らにならした木片に当て、手で回転させる。
昔、旅先で会ったボーイスカウトの人に習った、キリモミ式という着火法だ。
本当はユミギリ式という、もう少し道具を加工したものの方がより早く火がついて良いのだが、正直忘れた。
それに、この着火法のデメリットである、
・ 回すのに力がいる。
・ かなり長い時間休まずやらなくてはいけないため、すぐ疲れる。
などはどれだけ全力出し続けても疲れない今の自分には、あまり関係ない。
しばらくすると、木片から煙が上がり、火種が出来た。
それに枯れ葉を当て、火を大きくして焚き火の完成である。
「すごい……」
「魔法も魔導具も使ってないのに……」
一部始終を食い入るように見ていた二人が、感嘆の声を上げる。
褒められて、思わず顔がにやける。
骸骨だから、表情筋ないけど。
「あのっ……」
「ん?何?」
ようやく一息ついた時、スズちゃんが小さく話し掛けてきた。
さっきまで泣いていたため、まだ目元が赤い。
「その……ありがとうございます。色々と助けて頂いて……」
スズちゃんがペコリと頭を下げてきた。
小さいのに、しっかりした子だ。
「大丈夫、気にしないで。それに、まだ助かった訳じゃないし……」
絶賛迷子中ですし。
「いえ、そんな事はありません。スズ達だけだったら、今頃どうなっていたか……それに、チエの首輪も外して頂いて……本当に感謝してもしきれません」
首輪……あの赤靄の事か。
思い切って聞いてみよう。
「あれは一体何なの?」
「あれは……[服従の首輪]といって、奴隷が持ち主から逃げないようにするためのものです。持ち主から遠く離れたり、言う事を聞かないと奴隷を殺す、忌まわしい呪いです……」
スズちゃんが吐き捨てるように言う。
口にするのも腹立たしい、そんな様子だ。
「一度付けられたら最後、奴隷が死ぬか、持ち主が解除するかでしか外れない、恐ろしいものなのですが……」
「えっ!?そうなの!?」
その割りには、何かあっさり壊れたんですけど……?
「はい。本来はそうなのですが……もしかして、知らなかったのですか?」
「いや、全然」
首と手を振って答える。
そんなやばいモノだったなんて今始めて聞いた。
「というか、呪いとか、今始めて知ったし」
「そうなのですか!?」
スズちゃんが目をまんまるくして驚いている。 いや、そもそも、わからない事だらけだしなぁ……
ここが何処なのか、とか。
「てっきり、知っているものとばかり……」
「ん?なんで?」
不思議がるスズちゃんに問いかける。
すると、
「だって、貴方様は貴族の方ですよね?」
との衝撃発言が飛び出した。
…… んんっ?貴族?自分が?いやいや、自分の家は至って普通の中流家庭ですよ?
どうやらスズちゃん、何かえらく勘違いしているようだ。
「いやいや、自分、貴族とかじゃないよ?」
とりあえず、否定する。
「えっ……!では、まさか、王族の……!!」
「いや違うから。王族とかでもないからね?」
なんか勘違いが悪化した。
っていうか何?この流れ?コント?
「ですが、ならどうしてアンデッドの姿に……?てっきりお忍びのため、姿を変えているものとばかり……」
「あ~まぁ話せば長くなるんだけど……」
そう言って、自分はこれまでの出来事を話し出してみた。
………………
…………
……
「~で、今に至るって訳で、色々大変だったんよね」
とりあえず、崖から落ちて、目が覚めたら骸骨になり、そして今に至るまでを語って聞かせた。
言葉にすれば数分だけど、実際とんでもないねコレ。
思い出すだけで涙が出ちゃう。
骸骨だから涙腺無いけど。
「……では貴方様は」
「サヨリでいいよ、もしくはサヨちゃんでも可」 「……サヨリ様は一度お亡くなりになり、アンデッドとして復活なさってから、魔獣と闘いながら、森をさまよい続けていたと……?」
あら、つれない。
「そういう事、後、様は付けなくていいよ」
ようやく誤解が解けた事に、ホッとする。
だが、本題はここからだ。
「とりあえず、次はこっちの聞きたい事聞いていい?さっき聞いた通り、自分わからない事だらけだからさ。ここが何処なのかとか、自分を襲ってきたあの生き物達は何なのか、自分……アンデッド?が何なのかとか、そして……君たちに何があったのかとか」
「……わかりました、ではまず……」
そう言ってスズちゃんとチエちゃん、二人でたどたどしくも説明してくれた。
まず、自分達がいるのは、魔導国家アルバスのはずれの町、ローディアの北東に位置する"リバリー大森林"の森の中だという。
そして、自分を襲ってきた生き物ー魔獣は、ゲームや漫画なんかによく出てくるモンスターと、ほぼ同じようなモノでいわば野性動物のようだ。
次にアンデッドだが……コレは魔獣とは違い、どちらかといえば自然災害に近いらしい。
なんでも、魔力の濃い場所に放置された死体が魔力を吸い、自然とアンデッドとなるのらしいのだが、魔獣と違い、魔力で動いているだけなので、知性も何も無く、何故か生きている物なら無差別に攻撃するという質の悪い物らしい。
最初、スズちゃんが自分を問答無用で攻撃してきたり、喋った時にやたら驚いていたのは、どうやらこの辺りが理由らしい。
最後にスズちゃんとチエちゃん、二人について。
二人は共に両親を亡くしており、チエちゃんのお婆ちゃんと暮らしていたらしい。
だが、一年前にお婆ちゃんが亡くなり、それからは二人、町から少し離れた森の中の家で、薬草や小さな魔獣の皮を売って暮らしていたのだそうだ。
ところが先日、狩りからスズちゃんが帰ると、見知らぬ男達がチエちゃんを連れ去ろうとしている。
止めようしたが、返り討ちにされ、気絶しているうちに馬車で運ばれた。
途中、何とか目を覚まし、スズちゃんが手足を縛ってた縄を噛みきり、隙を見て二人で逃げ出したのだそうだ。
「そして、逃げ出した先でサヨリ様に出会ったのです」
長い説明の最後にスズちゃんがそう言って結んだ。
自分は、あまりの情報量で思わずため息が出た。
魔導国家……魔獣……アンデッド……そして、二人の境遇……どれも凄い話だ。
間の抜けたため息が自然と出てくる。
「ですが、サヨリ様に出会えた事は何よりも幸運でした。スズ達だけではきっと、逃げ切れなかった……」
「いや~、そんな事ないと思うよ?現に人拐いの馬車からは二人で逃げてる訳だし」
すると、スズちゃんはいいえ、と首を横に振った。
「そんな事はありません。馬車から逃げられたのは、ただ運が良かっただけです。それに……」
スズちゃんが視線をチエちゃんに移す。
「スズだけでは、チエの首輪の呪いを壊せなかった」
じっとチエちゃんを見るスズちゃんの目に、うっすらと涙が滲む。
両親を亡くし、引き取ってくれたお婆ちゃんも死んでしまったスズちゃんにとって、最後の家族と言えるチエちゃん。
そのチエちゃんの死が、スズちゃんにとって、何よりも怖かったのだろう。
「もし、チエが死んでしまったら、スズは……」 「スズちゃん……」
「ですから、サヨリ様には感謝してもしきれません……本当にありがとうございます」
「……私も……本当にありがとうございます。スズちゃんも……本当に、ありがとう」
「チエ……」
「スズちゃん……」
……いい話だなぁ。
本当にお互いに大切に思っいあっているんだろう。
その様子に心打たれる。
しかし、許せませんな。
こんないい子達を捕まえて、奴隷にしようなど……あまつさえ、死ぬような呪いまで……
思わず憤っていると、ふと、ある事を思うい出し、それとなく聞いてみる。
「そう言えば、二人は魔法とか使えるの?」
自分の質問に、二人の顔が暗くなる。
えっ?もしかして、地雷踏んだ?
「スズ達は……使えません……いえ、スズ達だけだけでなく、スズ達以外の殆どの魔族・魔獣は、魔法やスキルが使えません」
……んん?どゆ事?
なんだか自分の持っている魔族のイメージとずいぶん違うような……?
普通、魔族っていったら、なんか、人間より魔法とかに長けているイメージが……?
スキルも使えないって言うし……?
それに、なんで魔獣まで……?
「……どうゆう事か、教えてもらえるかな?」
「……はい」
自分の質問に対し、スズちゃんが、語り出した……