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異世界ドクロは自由がお好き‼  作者: 寿限夢
始まりの森
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この大空に~♪翼を広げ~♪

 走り出して三十分ほどたった。

 目の前はあいかわず鬱蒼とした森ばかりである。

 道らしい道なんて無い、獣道をただひたすらに走っていた。


 背中に背負ったチエちゃんは、落ちないよう小さな体でしっかり掴まっている。

 すぐ後ろを走るスズちゃんも、弱音一つ吐かずに懸命に走っていた。

 自分は、背中に背負ったチエちゃんに負担がかからないよう注意しつつ、後ろのスズちゃんが離されないよう、速度を落として走っている。


 子供とはいえ、人ひとり背負って走っているのにまったく疲れないこの身体に、自分はあらためて感謝した。


 そして、思い出した。



 ……忘れてた……自分も迷子だった。



 無いはずの汗腺から、冷や汗が垂れたような気がした。

 ヤバい、三十分も走っておいて今さら「道わからない」じゃすまされない。

 ゴメンですんだら警察はいらんのだ。


 「きゃっ!?」


 本気でどうしようか考えてた矢先、後ろから声がした。

 振り返るとスズちゃんが転んで倒れていた。

 慌てて駆け寄る。


 「大丈夫?!怪我は無い?」

 「はい…大丈夫です。このくらい……っ!」


 立ち上がろうとして、スズちゃんが小さく呻く。

 足首をひねったらしく、華奢な足首が赤く腫れていた。

 これでは走れそうにない。


 「チエちゃん、ちょっと一回下ろすね」

 「はい…?」


 チエちゃんを一度背中から 下ろし、スズちゃんの隣に並べる。


 「二人とも、ちょっとごめん!!」


 「「きゃっ!」」


 右手にチエちゃん、左手にスズちゃんを抱き抱え、持ち上げる。

 持ち上げられた二人が自分の頭にしがみついた。

 かなり無理のある体制だが、どうにか立てた。


「ちょっとつらいかもしれないけど、我慢して掴まってて!!」


 そのまま二人を抱えたまま走りだす。

 だが、いくら疲れない身体でも、二人も抱えて走るのはやはり厳しい。

 不安定でバランスをとるのが難しいのだ。

 重心が左に寄ったり右に寄ったりするのを、修正しながら走る。

 思った以上にスピードが出ない。


 いっそ無重力だったら、走るの楽なのになぁ……


 そんな事を考えながら、目の前の倒木を跳び越えようとした、その時、




 『スキル[自由]により、重力の制限・拘束を解除します。』



 「……えっ?」


 カガさんの無機質な声が響く。


 踏み出した右足が、地面を蹴った。


 次の瞬間、凄まじい速さで自分の身体は、上空斜め前方へと撃ち出されていた。


 「のわぁぁぁぁああっ!!」

 「「きゃああぁぁぁぁああっ!」」


  あまりの速さに思わず叫ぶ。

 チエちゃんスズちゃんの二人も、突然の加速に悲鳴をあげながら、振り落とされないよう自分にしがみついた。

 凄まじい速さで景色が変わり、木の頂上を越え、遂に森の上空へと躍り出た。




 そこには、絶景が見えた。




 さんさんと光輝く太陽。


 どこまでも続く青い空。


 遥か彼方に聳え、連なる険しい山脈。


 そして、眼下に広がる深い森。



 その景色に一瞬、我を忘れた。

 だが、今はそれどころじゃない。


 自分、飛んでる!!


 なんか知らんが空を飛んでる。飛行機とかじゃない、自分で。

 そう言えば小学6年の時、空を自由に飛ぶのが夢だったなぁ…。同級生にその話をした時、何故か可哀想なものを見る目で見られたけど。

 何故だ、解せぬ。


 「スゴい!!飛んでる!スズ達、空飛んでるよ!!」

 「…すごい…綺麗…」


 抱き抱えた二人、スズちゃんが興奮してはしゃいでる。

 対してチエちゃんは、はじめて見るだろう景色に見とれていた。

 二人のそれぞれピュアな反応に、思わず心が暖かくなった。




 だが、すぐにその暖かい気持ちは、ある疑問で氷点下に達した。




 「…あの」

 「ん~なに?チエちゃん♪」

 「これ、どうやって降りるんですか?」




 「……えっ?」


 ………………

 …………

 ……  

 ……しまったぁぁぁぁぁ!!



 なんか色々衝撃的だったり、感動的だったりで忘れてた!!

 そう自分たちは今、物凄く高いところを飛んでいる。

 いや、正確には、飛んでる、じゃない。

 滑空している。

 わずかにだが少しずつ下に落ちている。

 もし、このまま地面に激突すれば……


 ヤバイよヤバイよ!!

 というかそもそもどうやって飛んだのかわからないのに着地なんてわからないよ

!!

 ヤバイ、焦って思考が上手くまとまらない。 



 そんな自分にさらに壁が立ち塞がった。


 文字通り、壁。いや、崖である。

 断崖絶壁の岩肌が目の前に聳え立っていた。


 ぶつかる!


 慌てて腕に抱いた二人を、より強く抱き締める。

 身体をひねり、崖に対して背中を向ける。


 せめて、二人だけでも……!!



 来るべき衝撃に備えた……そして、


 トンッ


背中に、衝撃が走った。

 だが、やってきた衝撃は、想像していたものとは違い、恐ろしく軽いものだった。

 例えるなら、指先で軽く押したような……そんな軽さだった。


  驚いているこちらを他所に、身体はゆっくりと、下に降りて行く。

 そして、ぶつかった崖の下の少し拓けた部分にすとんっと軽く着地した。


 ……助かった?


 起きた事の衝撃に、しばし放心していた。

 その時、


 「うぅっ!」

 「っ!チエ!!」


  突然チエちゃんが苦しみ出す。

  抱き上げていた二人を慌てて下に降ろし、チエちゃんを横にした。

 横になったチエちゃんにスズちゃんが駆け寄る。


 「そんなっ!?まさかっ!!」

 「どうしたのスズちゃん!?」


  駆け寄ったスズちゃんが声を上げる。

 見てみると、チエちゃんの首に、赤い靄が蛇のように絡みついていた。


 「くっ……ぅうあっ!!」

 「服従の首輪!!そんな、チエ!!」


 赤い靄に締め付けられたチエちゃんが苦しそうに呻く。

 スズちゃんは泣きながらチエちゃんの首の靄を掴もうとしる。 

 だが、靄には実体がないのか 、その手は空を切るばかりだった。


 「チエ!!チエ!!やだ!!やだぁ!!」


 スズちゃんの悲痛な泣き声に ハッとする。


 呆けている場合じゃない!!


 横になったチエちゃんを、抱き起こす。

 無駄だと思いつつも、赤い靄を掴もうと手を伸ばしてみた。


 すると、



 パキャッ



 軽い、乾いた音がした。


 それと同時に赤い靄がボロボロと崩れていく。

 硝子の破片のように崩れたソレは、地面に落ちると、溶けるように消えていった。


 ……あれ、何か結構簡単に壊れた。


 スズちゃんは、信じられないって顔してこっちをみてる。

 赤い靄がとれたチエちゃんも、さっきまで苦しそうだったが、今は落ち着いていた。


 「大丈夫?もう辛くない?」

 「あっ……はい、大丈夫……です」


 まだ若干ぼぅっとするのだろう、 チエちゃんが途切れ途切れに返事をする。


 「チエ!!」


 いままで呆けていたスズちゃんがチエちゃんに抱きついた。


 「スズちゃん……」

 「良かった……本当に……良かった……」

 「うん……ごめんね……心配かけて……」


 抱きついたスズちゃんが泣き出した。

 泣き出したスズちゃんを、子供をあやす母のようにチエちゃんが抱きしめていた。


 仲良き事は、素晴らしきかな。

 ともあれ 、チエちゃんが無事で、本当良かった……。

 二人の友情に心打たれる時だった。




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