閑話その四 ポコ君の受難
……父さんへ、元気にしてますか?
と、言っても、旅立ってまだ三カ月くらいしか経って無いっすけど。
……オイラの方は、実はあまり大丈夫とは言えないっす。
えっ、何故かって?
それは……、
「あぁ、ゴラっ!!」
「おぉ、ゴラっ!?」
こんな状況っすから。
「オラっ、速く持ってる物出せや、こら!!」
「痛い目みたく無いなら、とっとと言う通りにしろや、こら!!」
……なんかからまれたっすーー!!!
えぇっ!? なんすかこの状況!? 何だってオイラ、こんな事に目に合ってるっすか!?
「おいこら聞いてんのか!?」
「なんとか言えや、こら!!」
うわぁっ、なんか髪逆立てたモヒカンの強面二人が、物凄い睨んで来るっす!
てっ言うか近い!! 顔近いっす! ついでに物凄く、口くさいっす!!
えぇっ? 何だってこんな事になっちゃったかって!? それはすっね、今から十分くらい前まで遡るっす!!
*
ガランッガランッ、
『こんにちはーっす!』
……あれは今から十分前の事。
オイラは一人、チエちゃんの作った匂い消しの香水や回復薬、その他もろもろを持って、卸し先の冒険者ギルドに来ていたっす……。
『ご依頼の商品の補充分、持って来ましたー!』
『あら、ちょうど良かった! もうすぐ無くなりそうだったのよ! 今お支払いするから、ちょっと待ってて!』
そう言って奥に引っ込んで行ったギルドの受付嬢さんを待ってる間、オイラは近くの椅子に座って、故郷のローディアと比べて、ずっと広くて綺麗なギルドの中を見渡しながら、時間を潰していたっす。
(やっぱりこっちの方がずっと広いっすね~。それに掃除も行き届いてるのか、ずっと綺麗だし。それに……)
『へ~、そんなにスゴかったんだ~! その子~!』
『そりゃもう! 凄いなんてもんじゃなかったよ! あの魔族の子!』
(ん? 魔族?)
すぐ近くのテーブルから聞こえて来た話に、自然と耳が傾いたっす。
見てみるとそこには、三人の女の子の冒険者の人がいて、手に持ったお茶を飲みながら、テーブルで雑談していたっす。
『だってさ! あの大っきなホーンベアを、片手で投げ飛ばしちゃったんだよ!! なんて言うか、こう、木の棒を振り回すみたいに!』
『えぇっ! 片手ですかっ!?』
『そう!! で、投げ飛ばしたホーンベアを、バーン! と、岩に叩きつけたかと思ったらさ! 今度はその倒れてる首を右足で思い切り、ズッシーン! って踏み付けて、トドメをさしてたんだよ!!』
茶髪の女の子が、身振り手振りを加えなてがら、栗色の髪の子に話しかけてるっす。
その様子を、栗色の髪の子は目をまん丸にしながら、聞き入っていたっす。
そして、その話を聞いていたオイラはと言うと……、
(へっ……、へ~、そっ、そんな魔族がいたんっすね! いや、奇遇っすね! オッ、オイラ達みたいな魔族が、すっ、すぐ近くにいるなんて!!)
内心、めちゃくちゃ動揺してたっす。
実はオイラ達、スキルや魔法が使える事は、出来る限り隠す事にしてるっす。
理由は、魔族なのにスキルや魔法が使える事が知れたら、妙に勘ぐって詮索する人がいるだろうし、もしその過程で、サヨリさんがアンデッドだって知れたら、大騒ぎになるのは、目に見えているっすから。
(いやきっと大丈夫! 一応あの二人には、あまり目立たない様、口をすっぱくして注意しといたし! あれでもこの間、外に出てたスズちゃんが『捕ってきた!』とか言ってデッカいホーンベアを……。いやいや、きっと偶然! 偶々っす!!)
『それで、どんな子だったんですか? その子?』
『えっとね……、背はちょうど、私の胸くらいまでだったから……大体、百二十セントくらい! で、おでこに角が二本ちょこんと生えてて、眼がキリッとしてた!』
(だっ、大丈夫! まだセーフっす! 背の低い魔族ならいくらでもいるし! 角が生えてるのだって……)
『あと、変わった服着てたよ。白い袖口の大きな上着に、紅色のゆったりしたズボン。確か、昔読んだ本に出てきた、鬼族の服と、同じじゃないかな?』
それまで静かに相槌を打ってた黒髪の女の子が、合いの手を入れて来たっす。
(いやまだっす! まだセーフ! まだセーフっすよ! きっと偶々! 偶然! 見た目よく似た鬼族の子が、近くにいただけで……)
『そうそう! あと、変わった形の剣を持ってた! なんて言うかこう……微妙に曲がってると言うか、それでいて、持ち手の部分が、普通の剣より長くって……』
『前に護衛した、アレクサンドラの商人さんが持ってた、片刃のシャムって言う剣に似てたけど、少し違うかな? あれよりもずっと曲線は緩やかだったけど……』
『あっ! 覚えてる、覚えてる! 確か、【刀】とか【カタナ】って言うんだよね!』
(アウトぉぉぉっ!!!)
その言葉を聞いて愕然としたっすね。
鬼族とか服装までは良かったっすけど、スズちゃんの持ってるあの剣は、スズちゃんの家以外だと、魔族しかいない魔大陸にしか無いらしいっすから。
(えぇ~、何してるっすかスズちゃん! あんなに目立たない様言っといたのに! あんなに! 必死に! お願いしたのにぃぃぃっ!!)
『はいっ、お待たせしました……って、なんか顔色悪いけど、大丈夫?』
『あっ……いえ……大丈夫っす。ただちょっと、精神的に疲れただけっすから……』
『そう? あんまり無理しちゃダメよ? はいっ、とりあえずお代! 今日はもう帰って、ゆっくり休みなさい』
『はい……心配おかけしました……』
そうして、精神的に疲れたオイラは、ギルドを後にして、学院へと帰ったっす。
ところが帰り道の途中、大通りから少し外れた道を通ったところでこの強面二人に、やれ肩がぶつかったとかなんとか言われて、現在に至るっす。
もう何なんすかね! 嫌がらせっすか! こっちはもう、精神的に疲れきってるのに!
「無視してんじゃねぇぞ、こらっ!」
「俺と兄貴から逃げられると思ってんじゃねぇぞ、こらっ!!」
うぎゃぁぁぁっ!!
強面(弟)の方がぐいぐい体を押し付けて来たっす!
オイラを壁に押し付けて、ぐいぐい迫って来るっす!!
くさい! すんごく汗くさい!! 鼻がもげるっすーー!!
「はっ! そいつは無理ってもんだ! てめえはもう、俺達必殺の【圧迫囲み】で捕まってるんだからよ!」
「こいつから逃れた奴はいねぇ! 潰されちまう前に、てめえが持ってる匂い消し、早くよこしな!!」
これ、技だったんすか!?
確かにこの臭さは、ある意味凶器……って、今この二人、匂い消しの事言ったっすか!?
「てめえがあの匂い消しの香水を持ってるのは、調べがついてるんだよ!!」
「俺達はそれを使って大儲け! ついでにこの体臭ともおさらばして、モテモテになるって寸法よ!!」
聞いてもいないのにいきなり語り出したっす!? と言うかその計画、めちゃくちゃ大ざっぱじゃないっすか!?
「この体臭のせいで、生まれてこの方女と手を繋いだ事もなかったが、それとも今日でお別れよ!」
「分かったら早く匂い消しを渡せ!! この際金はいいから、せめて匂い消しだけでも!!」
なんか悲しい事言い出したっすーー!?
しかもなんか二人共、既に泣きそうな顔になって来てるし!? 大の大人、しかも強面二人の泣き顔とか、一体誰得っすか!?
「さぁ早く寄越せ!!」
「ちょっとだけ!! 脇に塗る分だけでいいから!!」
しかも途中から、めちゃくちゃ切実な感じになって来たし!
弟の方なんかもう、めちゃくちゃ低姿勢から頼み込んで来てるし!
「さぁ、早く!!」
「お願いします。せめて兄貴の分だけでも……!」
ちくしょう、何なんすかこの状況!! こんなの一体、どうしーー!!?
その時、迫り来る半泣きの強面二人の背後に、ある物を見たっす。
それは、真っ白い卵のような物。
だけどその表面には、うっすら笑った人の顔が彫られていて、虚ろなその目が、こちらを、ジッと見つめながら、宙に浮いてるっす。
「……って! サヨリさんじゃないっすかーー!!?」
「うぉっ!?」
「なっ、なんだ!?」
オイラの声に驚いた二人が、オイラから離れたっす。
よかった! 息が吸えるっ……って、そうじゃない!!
「サヨリさん!! あんたこんなところで、何してるっすかーー!?」
「なっ、なんだ!?」
「誰かいるのか!?」
オイラがサヨリさんを指差すと、強面二人がその場で振り返ったっす。
でもそれより早く、サヨリさんが闇魔法で姿を隠しちゃったっす。
えっ!? あの人一体、何してるっすか!?
「なんだ、誰もいねぇじゃねぇか!」
「驚かそうったって、そうはいかねぇぞ!」
振り返った二人がこっちに向き直して、また迫って来たっす。
そしたら今度は強面(兄)の右肩の上に、サヨリさんの骨だけの手が!?
「いるっす!! そっちのお兄さんの方! 右肩の上に、サヨリさんの手が!?」
「「なにぃっ!?」」
強面(兄)が、右肩を手で触れようとしたっす。
そしたら今度はサヨリさんの手が、一瞬だけ強面(兄)の手に摑んで、次の瞬間には、また消えていたっす。
「ひっ……!! 今、俺の手を、何かが摑んだ!?」
「ばっ……、馬鹿な事言わねぇでくれよ兄貴!? 何もいねぇぜっひぃっ!?」
突然強面(弟)の方が、小さく悲鳴を上げたっす。その一瞬、(弟)の足首を掴む、サヨリさんの手がチラ見えしたっす。
「いっ、今俺の足を、誰かが掴んだ!? 物凄く冷たくてひんやりとした、氷みたいな手だ!!」
「あぁ俺も見た! 一瞬だけ、お前の足を掴む、真っ白い痩せこけた手が!!」
「ちくしょう! どうなってやがんだ!」
「この際何でもいい! 早く盗る物盗って、とっととずらかっ……ぎゃぁぁぁっ!!?」
「兄貴どうしっ……って、うぎゃぁぁぁっ!!?」
二人がオイラの方に向き直した途端、悲鳴を上げ、その場にへたり込んだっす。
オイラも、全身の毛が逆立つような恐怖を感じて、その根源である、後ろを振り返ったっす。
するとそこには……、
「赤がいい、青がいい、どっちぃ~?」
仮面を外して、骸骨の素顔をさらした、首だけのサヨリさんの姿が!!?
「「「うぎゃぁぁぁぁっ!!!?」」」
あまりの恐ろしさに、思わずオイラもその場にへたり込んだっす。
て、言うか本当に怖い!! さてはサヨリさん、スキル【恐怖】も併用してるっすね!?
「あゎわわわっ……!」
「あばばばばっ……!」
「ねぇ……、赤がいい、青がいい、どっちぃ?」
ガタガタと震える二人に、サヨリさんがゆっくりと近づいていくっす。
そのまま強面(兄)の前まで行って、赤がいいか、青がいいか、同じ質問を繰り返してるっす。
「あばばばっ……!!」
「赤が好き、って答えた子は……」
「あばばばばばばっっ!!」
「……血まみれになって殺されるっ!!」
びしゃあっ、
突然、何も無いところから血が噴き出して、強面(兄)の全身を、真っ赤に染め上げたっす。
多分、血糊かなんか何でしょうけど、強面(弟)の角度からは、強面(兄)の首から、血が噴き出したように見えるっすね。
「あっ、兄貴ぃぃぃっっ!!!」
「赤がいい、青がいい、どっちぃ?」
「ひぃっ!!?」
強面(兄)が気絶したのを確認したサヨリさんが、今度は強面弟の方へ向かって行くっす。
て、言うか、サヨリさん!! 血糊が顔に着いてて、本気で怖いっす!!?
「青が好きっ、て答えた子は……」
「ひっひいぃぃっ!!」
「……首を絞められて殺される……って、アレ?」
サヨリさんが強面(弟)の目の前まで来たところで、強面(弟)が、そのまま気絶したっす。
「なんだ、もう終わり? 見た目厳つい割にだらしないなぁ!」
「サヨリさん! あなた一体、何してるっすか!」
「おぉ、元気いいねぇ♪ 何してるかって? 見ての通り、買い物の帰りだけど?」
スキルを切って、全身の姿を現したサヨリさんが、仮面を付けながら答えたっす。
その手には、大きな買い物袋が二つ、ぶら下がっているっす。
「買い物帰りにこの道通ったらさ、この二人とポコ君が、三人で抱き合ってたの目撃してさ♪ えっ!? ポコ君そう言う趣味!? って思って、こっそり後ろから様子を見てたんだよ~♪」
「そう言う趣味ってどんな趣味っすか!? て、言うか見てたんなら、すぐ助けて下さいっすよ!!」
「いやぁ、てっきりそう言うアレかなと思って♪ 後、どういう趣味かってのは、自分の口からは、ちょっと……」
「一体どんな趣味考えたーー!!? あんた今一体、どんな趣味考えたーー!!」
「どうしたポコ君! 言葉が変だぞ!?」
「ムキィィィィッッッ!!!!」
……その後、無茶苦茶にツッコミながら、学院まで帰ったっす。
父さん……今日もオイラの胃は、ストレスで風穴開きそうっす……。
「ハハハハハっ! ここまでおいで~♪」
「ムキィィィッッ!!」
「ハッーハハハハハッ!♪」




