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異世界ドクロは自由がお好き‼  作者: 寿限夢
アルバス授業編
44/60

閑話その二・チエちゃんの香水

 研究室の二階、資料室。

 その資料室の本棚に置かれた階段型の脚立に腰掛け、私は本を読んでいます。

 今日は、三日に一日だけある、鍛錬がお休みの日。

 サヨリ様が『適度に休みを入れた方が、むしろ具合が良くなる』と言って、鍛錬をお休みになるため、私達はそれぞれ、思い思いに過ごしています。


 ペラッ……、


 今読んでいるのは『古代精霊信仰における学術論文集』という、ずっと昔、まだ魔族と人間の戦争が始める前にあった、精霊信仰に対する色々な考えが乗っている、とても興味深い資料です。

 私はそれを読みながら、時折、脇に置いたメモ帳を取って、要点や注釈などを書き込みながら、少しずつ知識を咀嚼していきます。

 

 ペラッ……、


 「……チ~エ。 チエってば!」


「……あっ……スズちゃん……」

 

 呼びかけられる声に気付き、読んでいた本から顔を上げました。

 見れば、資料室の入り口ーー階段の方から、幼なじみであり親友のスズちゃんが、呆れたような、困ったような顔をしながら、こちらに歩いてきました。

 


 「また本読み込んでたの? あんまり根を詰めると、体に悪いよ?」


 「うん……でも……後少しだから……」 


 「そう言って、また限界ギリギリまで本読んでるつもりでしょ? 一昨日だって『あと、ちょっと……』って言って、夜遅くまで本読んでたし」


 「はぅっ……」



 スズちゃんの言う言葉に、私はぐうの音も出ません。

 確かに先日、夜遅くまで『雷魔法は光魔法?』という本を読んでいましたし、そのせいで目の下に隈を作って、それを見たサヨリ様に『チエちゃんのプリチーお肌におっきな隈が!? 大丈夫!? どこも苦しくない?!』と言った具合に、とても心配させてしまいました。

 ……でもその時、隈を隠すために初めてお化粧をしてもらった事が(それもサヨリ様に!)、ちょっぴり大人になった気がして、嬉しかったりもします。


 

  「サヨリ様も言ってたでしょ? 『勉強熱心なのは良いけど、ほどほどにね?』って。無理して体壊しちゃったら、サヨリ様が悲しみよ?」


 「うぅ……ご、ごめんなさい……」


 「あー、うん、まぁいいや。それよりさ、サヨリ様が呼んでるよ?」


 「サヨリ様が……?」


 「うん、なんだかよくわからないけど、大事な話があるんだって」



 大事な話って、一体何の事でしょうか?

 特に思い当たる事の無い私は、よくわからないまま、サヨリ様達のいる、一階の研究室へと向かいました。



             *




 一階に降りると、既に私達以外、皆集まっていました。

 最近、別室に閉じ籠もりがちなマリアさんもいますし、いつも研究室を走り回ってる雷小ちゃんも、サヨリ様の膝の上に乗って、大人しく丸くなっています。


 ……ちょっとだけ、羨ましいです。

 


 「ごめんね~せっかく休んでたのに……。でも、結構重要な話だからさ……特に、チエちゃんにとっては」


 「私に……とって……ですか……?」


 「うん。と、言うより、チエちゃん無くして、この話は成立しないからさ……。とりあえず今から説明するから、二人共席に座って座って~♪」



 サヨリ様に促されて、とりあえず私達は席に着きました。

 長方形のテーブルを挟んで、私とスズちゃん、ポコ君とマリアさんが座っていて、そのどちらでもない、テーブルの端の席にサヨリ様が座っています。

 


 「よ~し! それじゃあ全員集まった事ですし、本題へと移るね~♪ 今回、皆に集まってもらったのは他でもない、今後の資金調達について話し合いたいからです♪」


 「資金調達っすか?」


 「イエス! さすがに何時まで経ってもマリちゃんに世話になりっぱなしって訳にもいかないからね♪ 今後の旅の事も考えて、何かしら資金を得る手段を考えておきたいんだ♪」


 

 現在、私達の生活の大半は、図書館を攻略したいマリアさんに援助してもらっている状態です。

 学院食堂の利用は勿論、寝室やシャワーなんかもお世話になっているくらいです。

 ……確かにサヨリ様の言う通り、お世話になりっぱなしと言うのも、少し考え物ですね……。



 「って、事はやっぱり、ギルドで依頼を受けるんすか? 確か、サヨリさんは三ツ(ドライ)クラスのギルドカード持ちですし……」


 「うん、自分も最初それを考えてみた。で、買い出しついでに一回、ギルドに寄って調べてみたんだけど……」


 「だけど?」


 「正直、あんまり良いのなかったんだよね~。あっても遠出とかして物凄い時間を食う奴だったりとかするし。かと言ってランク下の依頼受けようとしても、ランク下の人達の仕事が無くなるから駄目だってさ~」


 「なら、スズ達が依頼を受けるのは? スズ達なら八ツ(アハト)クラスのままですし」


 「それも考えて調べてみたんだけど~。何故か八ツ星クラスの仕事って、物凄く単価が低いのばっかりでね。ぶっちゃけ、そこらのお店でアルバイトしてた方が儲かるくらいだったよ……。そ・こ・で! 自分は思いついちゃった訳なのよ♪ 仕事がないのなら、自分で作れば良いってね♪


 「「「「自分で作る?」」」」


 「そう! チエちゃん、以前作ってもらった香水の事、覚えてる?」


 頭に疑問符を浮かべる私に、サヨリ様が語りかけてきました。

 サヨリ様の言う香水ーーそれは多分、アルバスに着く前に作った、匂い消し用の香水の事だと思います。

 毒消し効果のあるハーブと、香りの薄い薬草を調合した特製の香水で、服や装備に付いた匂いを消して、無臭にしてくれる効果があります。



 「はい……覚えて……ます……」


 「そっか、よかった♪ それでね、そのギルドの依頼を確認した時に、何気な~くギルドの職員さんに、たまた~ま持っていたチエちゃんの香水を見せたんよ。そしたら……」


 「そしたら……?」


 「……小金貨三枚で売れました! はい拍手ーー!!」


 「「「「!?」」」」



 サヨリ様の言葉に、驚き過ぎて声がでません。

 小金貨三枚と言えば、大人の人が普通働いて五日分。以前の私とスズちゃんの収入の、倍以上のお金になります。

 すごい……私の香水が、そんなお金に……!?


 「しょっ、小金貨三枚!? 本当ですか!?」


 「すっ、すごいっす! 大儲けっす!」


 「いや~自分もびっくりしたよ♪ なんでも冒険者にとって一番の悩みは体の臭い、ひいては装備の匂いらしくって、特に女性の冒険者の人にとっては深刻な悩みらしいんだよね~。

 かといって香水を付けすぎると、返って魔獣を刺激しちゃって危ないし♪」


 「でっ、でも小金貨三枚っすよ!? 持ってたのって、そんなに大量じゃなかったんすよね!? それをこんな……」


 「それがね~……」

 


 そう言ってその時の様子を、サヨリ様が詳しく話して下さいました。

 それによると、偶然、そこに居合わせた他の冒険者さん達が話を聞いて、『私が買う!』『いや、私が!』っと言った具合に欲しがったそうで、気がつけばオークション形式で、どんどん値が吊り上がっていったのだそうです。



 「最終的に職員さんが『私が買います! 経費で!』って言って、持ってった三本、まとめて買い占めていったんだけどさ~。多分、あれがなかったら、もっと値が吊り上がってたと思うよ?」


 「はっ……ははっ……三本で小金貨三枚……一本につき、小金貨一枚……」


 「ポコ落ち着け! まだサヨリ様の話してる最中だぞ!」


 「まぁなんだかんだ言っても冒険者だって人の子だからね。自分の装備から出る臭いに、我慢出来なかったんだろう」


 「そだねぇ~。実際ギルド行った時も、結構臭ってたし。ちなみに職員さんの方も、買い占めこそしたけれど、その後ちゃんと公平になるよう、全員に分配してたよ」


 「その職員も相当参ってたんだろうな……。室内だと匂いもこもるだろうし。自分で買い占めてから分配したのは、ある意味英断だったのかも知れないな。っで、サヨサヨはそれを見て、『ひゃっはー! こいつぁ良い鴨だぁ!!』と、思い至った訳だ」


 「いや何でそんな小悪党風? まぁ概ね間違っちゃいないけどさ……と言う訳でチエちゃん! ここは一つ、突如現れた謎の天才カリスマ美少女調香師パフューマーとして、華々しくデビューする気はないだろうか!?」



 その場でクルクルと回りながら言うサヨリ様の言葉に、胸の鼓動が高まるのを感じます。


 調香師として……? 誰が……? 私が……!?


 高まる鼓動と共に頭の中にイメージが湧いてきます。


 私の作った香水を、色々な人が手に持ち、使い、喜んでくれるイメージ。


 そしつ何より、それを見て喜んでくれる、皆の、サヨリ様のイメージ。


 成功すれば、きっとサヨリ様は褒めてくれる。


 すごいね。頑張ったね。と、言って、頭を撫でてくれる。 




 私を……見ていてくださる。




 それはきっと、何物にも勝る、幸福の時ーー。


 ーー!


 やりたい。やってみたい。私の胸の鼓動は、早鐘を打つように高まります。はやる気持ちを抑え、返事を返そうとします。

 やります! やらせて下さい! 必ず成功して、サヨリ様に喜んでもらうとーー



 ーーなのに!



 「……っ……ぁ……」

 


 声が、上手く出ません。

 返事を返そうとした私の口からは、乾いた音だけが出てきます。

 元々、私は人と話す事が得意ではありません。だけど、たった一言が出てこないほど、ひどい口下手という訳ではありません。

 原因は……わかっています。

 それは、弱くて臆病な私が産んだ、失敗のイメージ。

 『もし失敗したら、サヨリ様や皆に失望されるんじゃないか?』という、私にとって、何よりも怖い、そんなイメージです。

 


 「…………」


 「……チエ?」


 「チエちゃん……?」



 俯き、黙り込む私を心配して、スズちゃんとポコ君が声をかけてくれます。

 サヨリ様やマリアさん、眠っていた雷小ちゃんでさえ起きて来て、黙ったまま下を見続ける私を、心配そうに見守ってくれています。


 ……こんな風に心配してくれる皆が……私を見捨てる? ……違う! そんな事無い! こんな考え、間違ってる! こんな事を考えるなんて、私はなんて醜いんだろう!ーー


 弱い自分自身の心に、悔しくて涙が出ます。噛みしめた唇が少し切れ、口の中には、血の味がうっすらとひろがっていきます。

 どうして……どうして私の心は、こんなにも弱いのでしょうか?

 こんなにも悔しくて、歯痒くて仕方ないというのに、私の心の中からは、失敗した時のイメージが少しも離れてくれません。

 こんな、こんな臆病な私なんて、いっそ……、



 「チ~エちゃん♪」


 

 気がつくと、サヨリ様が私のすぐ隣に来ていました。

 私が俯いている間に、席を立って、わざわざこちらに来てくれたんだと思います。

 その場でしゃがみ込んだサヨリ様が、私の手を手にとり、そっと、包み込むように握りました。



 「大丈夫だよチエちゃん♪ 大丈夫、大丈夫♪ 大丈夫だから、落ち着いて、ね♪」


 「……っ……ぁ……」


 「チエちゃんが不安なのも怖いのも、ぜ~んぶわかってる♪ 本当はやってみたいって思ってる事も。でも、失敗するのがどうしても怖いって思ってる事も。そして、そんな臆病な自分が、嫌で嫌でたまらないって思ってる事も全部」


 「……っ!」


 「でも、それで良いんだよ? 臆病なのは、何も悪い事なんかじゃない。むしろ臆病な事は、一つの長所になるんだから♪」


 「でも……私は……!」


 「それでもどうしても不安だって言うんなら、自分を頼って♪ 一緒に解決しよ♪ 大丈夫、チエちゃんは一人じゃないよ♪、たとえ何があろうとも、自分は、チエちゃんの味方なんだから♪」



 そう言ってサヨリ様は、私に笑いかけてくれました。

 それを見た私は、不思議と心の中がポカポカとして、暖かくなるのを感じます。

 それは、優しい、陽だまりのような暖かさで、気がつくと私の中にあった暗い気持ちは無くなっていて、穏やかで暖かな気持ちだけが、私の中に残っていました。



 「そうだよチエ! チエは一人なんかじゃないよ!」

 

 「そうっす! スズちゃんもサヨリさんもいるし、オイラだって、チエちゃんの味方っすよ!」

 

 「そうだよチエちゃん! 微力ながら私も、全力で協力させてもらおう★」


「ギャウ、ギャーウ!」


 

 スズちゃんやポコ君、マリアさんや雷小ちゃんも、そう言って私に笑いかけてくれます。

 もう、私を引き止めるものはありません。

 今度こそ私は、私のやりたい事を、声に出して言いました。

 


 「やります! 私……やってみたいです……!」


 「よーし! その言葉が聞きたかったーー♪ ならばこのまま一気に、企画会議だーー!!」


 「「「おーーっ!!!」」」


 「えぇっ!? いきなりっすか!?」


 「あったり前だよポコ君♪ 思い立ったがすぐ行動! 善は急げだコノヤロー!!」


 「そうだぞポコ!! サヨリ様が言うんだから、そうに決まっているだろう!!」


 「閃きは常に鮮度が命!! 思い立ったがすぐ行動、良い言葉だ!!★」


 「ギャウギャウ!!」 


 「と、言う事でまずはブランド名だ! さぁチエちゃん! イケてるナイスでキュートな名前を、一緒に考えようじゃないかー♪」


 「はいっ……!」


 「それじゃあいくぞーー! いち、に、さん、だーーー!!」


 「「「「だーーー!!!」」」」


 「ギャーーーウ!!」 


 「なんすかこのノリーー!!!?」



 ……こうして、私の香水師としてのお店の名前を決める会議が、幕を開けました。

 サヨリ様……ありがとうございます。

 私、サヨリ様に認められるよう、頑張ります。

 そして、サヨリ様に認められるようになった、その時は……、






 覚悟しといてくださいね♪






 その後、長い時間をかけて、私のお店の名前が決まりました。

 お店の名前は、私の種族名をもじって【Aliceアリス・catキャット】。

 香水専門店【Alice・cat】に決定しました。


 「ギャウギャーウ♪」


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