マリアの秘密!?
「教える必要が無い? それってどういう……?」
「そのまんまの意味だよ? 教えるべき基礎はほとんど終わったから、後は実践して、使いこなせるようになるだけだね★」
何の事も無い、さも当たり前のようにマリアが返してきた。
一応聞き返したけど、聞き間違いではなかったみたいだ。
けど、いくら何でも早過ぎない? 始めてまだ半日経ってないよ!?
「中級とか上級ってのは無いの? もしくは……」
「特に無いよ? 確かに、中級とか上級って括りは存在するけど、あれはあくまで、分かりやすい分類するためだけの標示であって、実際、それほど明確な違いはないんだ」
「そ、そうなの?」
「そうだよ? 言ったじゃないか。魔法に必要なのは、ちゃんとした魔力の制御と、明確な“イメージ”だって」
「あっ……」
言われてようやく気づいた。
確かに、マリアの言うとおり魔法に必要なのは魔力の制御と、ちゃんとした”イメージ“だ。
イメージがより明確に、より具体的であればあるほど、魔法の精度は高まる。
と、すれば、明確なイメージさえ出来れば良いわけなんだから、中級とか上級といった区切りは、大して意味は無い。
イメージ出来るのなら、火の竜巻も、土砂の津波も、簡単に発動出来るのだから。
「と、言っても、いくら完成度の高いイメージが出来ても、魔力が足りなかったり、制御仕切れなかったりすると、大抵意味が無いんだけどね。でもその点、サヨサヨ達は魔力も制御も充分、イメージの完成度に至っては、もはやこっちが教えを乞いたいくらいさ★」
マリアが冗談半分、本気半分と言った具合でこちらを見た。
その目には先ほどと同じく、獲物を狙う捕食者の輝きが見てとれる。
まぁ、どうせまた、自分から何か引き出せないかどうか画策しているんだろうけど。
でもそうか、イメージ出来ても制御出来ないケースもあるのか。
まぁ、そうでなきゃ今頃、魔獣なんてとっくに根滅されて、国はおろか、世界中が魔法を中心とした文明社会を構築してたって、なんの不思議も無いはずだし。
と、すると、アレか。例えこの世界に週刊少年誌の売れっ子漫画家が来ても、そう簡単に無双出来ないと。
でないとアレだもんね? 某オサレ漫画家なんて来た日にゃあ、そこら中で『○・解!!』とか『なん……だと……?』が発生する自体になりかねないし。
「それに、もし仮に中級とか上級があったとしても、私には教える事も出来ないしね★」
「んん? そりゃまた何で?」
「何故なら私には、魔力がほとんどないからだ★」
「「「「えぇっ、そうなの!!?」」」」
『フギャッ!?』
思いも寄らない爆弾発言に今度は面食らった。
自分だけでなく、スズちゃんやチエちゃん、ポコ君とかも驚いている。
だってそうでしょ? エルフですよ!? なんかこう~古代魔法とか超魔法とかよく使う、あのエルフがですよ!?
「ほ……本当……です……か?」
「うん、本当だ★」
「ほっ、ほとんどっすか?」
「うん、ほとんど★」
「ちなみにどれくらい……?」
「そうだな……多分、その辺にいる普通の人達の大体……三分の二、くらい、かな? うん★」
特になんて事も無さそうに、チエちゃん達の質問に答えるマリア。
あまり気にしてないのだろうか? 別に暗くなる訳でもなく、飄々としている。
「でも、何でそんなに魔力が無いっすか? 父さんから聞いた話だと、エルフは魔力が豊富で、精霊と契約してるって……」
「その契約が問題なんだよ。……ねぇ、皆はエルフについて、どの位の事まで知ってる?」
ポコ君の質問に、マリアが問い返した。
エルフについて? ……そう言えば自分が持ってる知識って、全部本やゲームの知識からだった。
「まぁ、大体は今ポコ君が言った通りだよ。精霊と契約し、魔力が豊富……ついでに言うと、異常なまでに長命で、繁殖力が低く、個体数は少ない……後は基本排他的で、森からあまり出ないって事かな?」
あっ、基本的に合ってた。
「でも一つだけ違うのは、魔力が豊富って事かな? アレは別に、エルフの魔力が豊富な訳じゃあない。むしろエルフが持つ魔力量自体は、多かれ少なかれ、私と同じくらいだ」
「なら……何で……」
「そこで出てくるのが精霊との契約だ。エルフは魔力が少ない分、精霊と契約する事で、不足分を補うんだ」
そう言ってマリアが、エルフの成り立ちについて、少しだけ語ってくれた。
それによるとエルフは元々、魔力量の少ない、精霊から零落したモノが集まって生まれた種族らしい。だが、その生まれが原因か魔力量が乏しく、そこら中にいる魔獣相手に、何度も絶滅されかけたりした。
そこでどうにかしようと考えた結果、思いついたのは精霊との契約。
魔力はあるが明確な意思の無い精霊と契約し、取り込む事によって、自身の持つ魔力を底上げしようと思い至ったのだ。
「結果としてその目論見は成功。精霊を取り込む事により寿命は格段に伸び、魔獣はおろか、魔族さえ凌駕する魔力量を手に入れるに至った。だが……」
「だが?」
「繁殖力が格段に落ちた。それだけでなく、精霊と契約出来る自分達に、優越感を覚え始めた。そして仲間内でも、契約出来た精霊による、選民思想が広まり始めた」
元々、零落した精霊というコンプレックスがあった分、当初その思想のすさまじいさは目も当てられないほどだったらしい。
それでも今はある程度落ち着き、精霊のソレと同じく、森で穏やかに過ごすようになったのだそうな。
「でも、全部が全部なくなった訳じゃあない。現に他種族の事を“穢れし者”と揶揄する奴等は未だにいるし、同じエルフでも、契約した精霊で他人に優劣つける奴も大勢いる。現に私も、散々嫌がらせを受けた」
「マリアも?」
「あぁ。無論、全員返り討ちにして、裸に品剥いてやったが」
なんでも、エルフは七歳くらいになると洗礼として、いくつかの精霊と契約するらしい。
火と風の属性を持つ子は火や風の精霊と、水や土の属性を持つ子は水や土の精霊と言った具合にだ。
だが、他の子が契約していく中で、どういう訳かマリアだけが自身の属性である水や火などの精霊と契約する事が出来ず、唯一契約出来たのが、なんの力も無い“空”の属性の精霊だけだったのだそうだ。
「あの時は色々と大変だったよ。家はエルフでもそれなりに上位にある家系何だけど、一族始まって以来、まともな契約が出来なかったのなんて初めてだったからね。馬鹿親父と阿呆姉はわめき散らずし、母さんは気絶するしで、散々だった」
「そりゃまた……」
「で、契約したのは良いけど出来たのは最底辺の”空“属性だけだったから、魔力の増加はほとんど無く、史上初の、魔力がほとんど無いエルフが誕生したって訳さ」
その後、この結果に納得出来ないマリアは独自に研究を始め、遂には、何故自身が契約出来なかったのかの真相を知った。
理由は、マリア自身の魔力の性質にあったらしく、突然変異か何か知らないが、マリアの魔力はエルフのソレとは違い、どちらかと言えば、魔族のソレに近いモノだったそうだ。
「精霊は基本として魔族を恐れる性質があるからね。結果として、私と契約出来るのは意思も何も無い、“空”の精霊だけだったのさ」
その後もマリアは研究を続け、自身の魔力量を補う方法を模索し続けた。
そして、より研究を進めるため単身、半ば家出同然の形で森から抜け出して、ここ、アルバス魔法学院にやって来たのだそうな。
「ここに来て最初に会ったのが学院長で助かったよ★ 一目で私の研究論文の価値を見出して、私に研究室をくれたんだから★ で、魔力のない私でも使える魔導具を研究する傍ら、日常生活で使える魔導具や論文なんかを売ったりして、生きて来たって訳★」
「へぇ……何だか大変だったね」
「まぁね★ でも、おかげで色々と有意義な時間を過ごせたけどね★ もし普通に契約して、ただのエルフのままだったら、死ぬまで一生、あの森の中で燻ってただろうし」
ちなみに研究の成果の一つとして、今まで役立たずだった”空”属性の精霊の力を使い、七属性にない新しい魔法“空間”属性を編み出すに至ったらしく、その技術はポコ君のリュックサックなんかの開発や、研究室の整理なんかに活かされているようだ。
「おかげで私の部屋も大部整理出来たよ。昔は大量の魔導具の試作品とかで、身動き取れなかったからね★」
スッキリ? この紙の大山脈が?
「と、まあ、こんなところだね! 皆私の事、分かってくれた?」
「はい……なんかこう……大変っすね」
「驚き……ました」
「どんな人でも、それなりの歴史があるんですね……」
「分かってくれたなら結構! と、言う事で魔法の授業はお終い! 後は各々の練習と発想の元、技術を磨いてくれたまへ! あっ! 詰まった時はいつでも質問してくれ! 一応どういう技があるとかの資料は、大量にあるから!!」
そう言ってマリアは話を終わらせた。
いやはや……まさかマリアに、そんな過去があったとは。
正にスズちゃんの言うとおり、人一人にも歴史あり、だね。
「で、この後はどうするのかな? やっぱり今言ってたみたいに、実戦練習に移っていいのかな?」
「ん~? それも良いんだ・け・ど~?」
言いながら何故か、マリアが自分の肩に置いてきた。
そしてそのまま抱き着くようにしだれかかり、首に腕を絡ませてきた。
あれ? 何だかおかしいぞ? 何だかやばい感じが、ひしひしと伝わってくる?
「マっ……マリちゃん? あの……」
「ねぇ……サヨサヨ? サヨサヨ言ったよね? サヨサヨの研究も雷小の研究も、『授業の後』って……」
僅か十センチほどの距離をあけ、マリアが自分を見上げてきた。
頬は紅潮し、熱を帯びた紅い瞳は妖しく潤んでいる。
濡れた赤い唇からは荒い吐息がこぼれており、押しつけられた胸元から、柔らかな感触と、小さな鼓動が響いてきた。
「私……頑張ったよね? 研究したいのも我慢して、授業も終わらせた。頑張ったよね?」
「マっマっマっマリちゃん!? ねぇ!? ちょっと、ねぇ!?」
「でも……もう我慢出来ない……ついでの説明も終わって、やる事は済んだ。だ・か・ら……」
マリアが顔を、ぐっと近づけてくる。
首に回した腕に、さらに力がこもった。
そして、
「次は、サヨサヨの番だ★」
「ぎにゃーー!?」
自分の……地獄の実験モニターが開始された。
「いやーー!?」




