色々あった……色々ね。
緑の熊と闘って、三日は過ぎた。
自分はあいからず森の中にいる。
木々は鬱蒼と生い茂り、道らしい道なんて無い。
何処までも続く道なき道を、ひたすら歩いていた。
この三日、色々あった。
具体的にいうと、むちゃくちゃ襲われた。
最初の緑の熊を皮切りに、いろんな獣に襲われまくったのだ。
大体 、一~二時間に一回のペースで。
しかも、そのことごとくが、緑の熊同様見たこと ない生物ばかりである。
具体的にいうと、
三メートル位のデカイ手長猿
身体中に無数のキノコを生やした気持ち悪い蛙
人の顔みたいな瘤のついた人面樹
二メートル位の全身苔生やした狼の群れ
などである。
これの他にも、緑の熊にはさらに二回遭遇している。
どれも見た事も聞いた事無生き物ばかりだったのだが、どれももいきなり襲いかかってきた。
無論、すべて返り討ちにした。
こっちも必死なのだ。文句を言われる筋合いは無い。
どれも、強敵だった。
手長猿は木の上から手だけ伸ばして攻撃してくるし、人面樹は擬態していきなり後ろから不意討ちしてきたりした。
苔生やした狼は大体四~五匹くらいで連携したりしてきて、大変だった。
なかでも、キノコ蛙が一番ヤバかった。
想像してもらいたい。
自分と同じくらいの大きさの、全身至るところにキノコを生やした馬鹿でかいイボガエルが、自分めがけて跳び跳ねて来るのを。
そうでなくても、自分は生来、蛙が大の苦手なのだ。生理的に受け付け無い。見るのも嫌だった。
遭遇してすぐ、自分は発狂した。
発狂して、メチャクチャに攻撃し、気がついたら、辺り一面血まみれである。
あちこちに内臓や、手や足、目玉なんかが散乱している。
それを見て、気持ち悪くなり、ゲーゲーと吐いた。
まぁ、吐いたと言っても、内臓も何も無い骸骨なので、フリだけになるのだか。
もう、遭遇したくは無いなぁと本気で思ってたのに、その後、三回も遭遇した。
遭遇するたび発狂して、殺して、辺り一面血まみれにして、吐いた。
正直、死ぬかと思った。
その後遭遇したのが緑の熊だったとき、本当にホッとして、涙が出そうになった。
骸骨だから、涙腺無いけど。
そんな感じに襲われて闘いまくっていた訳だが、おかげで、いくつか新しい発見もあった。
まず、食欲が無い。
この三日間、何も食べたり飲んだりしていないが、ちっとも空腹感が無い。
喉が渇いたり、腹が空いたりしないのだ。
だが、食料も調理器具も無いこの状況下では、むしろ都合が良かった。
そもそも、胃も腸も無いのに飯が食えるのかさえ疑問である。
借りに食べられたとして、舌が無いから味だって感じるかだってわからないのだ。
味が感じ無いのは、旅先の料理を楽しむのが好きな自分としては、割りと大問題なのだが、とりあえずは保留にしておこう。
次に睡眠欲が無い。
これもまた、今は都合が良かった。
何せ、いつ襲われるかわからない状況下なので、どちらにしろ寝られないのだ。
おかげで寝込みを襲われるという心配をしなくてすんだ。
もう一つは、例の動きが遅く見えるヤツだ。
最初に緑の熊と闘ったときに起きた現象だったが、その後も同じ事が起きた。
主に襲われた時に。
あいからず相手の動きが遅く見えるのだが、何度か見ているうち、ある事に気付いた。
似ているのだ。
緑の熊と闘う前、自分が死ぬ前……
崖から落ちたときに。
あの時も、世界がゆっくりに見えた。
感じるすべてが、スローモーションに感じた。
死ぬ気の集中力……それに酷似している。
そこで思い出したのは例の声。
肋骨を熊に折られて憤慨したときに聞こえた、あの声だ。
あの時も確か、集中力を開放?だか何だか言っていたような気がする。
それらを考えていくと、どうも自分はその[死ぬ気の集中力]とやらが、常に発動している状態らしい。
言わば、超劣化版ザ・○ールドみたいなモノだ。
……なんというチート能力。
おかげで助かっています。ありがとうございます。
そして最後に、謎の声だ。
緑の熊を倒した後に聞こえた、もう一つの声。
例の『ぱんぱかぱ~ん♪』の方だ。
闘ってる時聞こえた方とややこしいので、仮に[アタゴさん]にしておく。
……カタカナなので、セーフだ。セーフ。
ついでにもう片方は[カガさん] と呼ぶことにする。
理由は、何だかちょっぴり機械的だったので。
こちらもカタカナなので、セーフだ。
この[アタゴさん]。[カガさん]の方があの一回きりだったのに対して、割りと頻繁に声を聞いている。
主に、襲いかかってきた奴等を倒した時、たまに聞こえる。
あいからず、『ぱんぱかぱ~ん♪』といきなりきて、スキルがどうとか言ってくる。
……どうでもいいけど 闘っている最中、急にくるのは止めてもらいたい。
苔狼の群れと闘っている途中、いきなり『ぱんぱかぱ~ん♪』と呑気に言われた時は、思わずずっこけた。
……まぁいいや、話を 戻そう。
とりあえずわかった事は、この声は敵を倒した時、[スキル]とかいうのを収得すると聞こえてくる。
[スキル] というのが、あいからずよくわからななかったけど、多分あの"超劣化版ザ・○ールド"とかと同じような気がする。
単に使い方ややり方がわからないだけで。
ちなみに、この三日間で手に入れた[スキル]が
[魔力吸収] [恐怖] [毒の息] [激痛]
などである。
何だかほとんど物騒な名前のモノばかりだが、せっかく手に入れたモノなので、いずれはちゃんと調べたいものである。
といった具合に、なんやかんやで、色々と得るモノが多い三日間だったのだが、いい加減森の外に出たい。
腹も空かない、疲れない、眠らない、痛みも感じ無い自分でも、正直この状況はツラい。
肉体的では無い、精神的にである。
いくら大自然が好きな自分でも、常に襲われ続けるハイキングはご遠慮願いたいのだ。
唯一の武器である斧も、度重なる戦闘でかなり傷んできている。もともと、かなり錆びていたのだ。今では、叩き切るというより、叩き折るに近くなってきている。
早く森から出たい。
そう思ったとき、目の前の繁みの中からナニか飛び出してきた。