私サヨちゃん♪ 今貴方の後ろにいるの♪
チエちゃんの凄まじい才能にひとしきり唖然とした後、授業は再開された。
とりあえず”柔“の魔法は終わりとし、次は“硬”の魔法。
この場合、自分とスズちゃんである。
「さて、まずはお手本……と、行きたいところなんだが、生憎と私の性質は“柔”で、“硬”の魔法を上手く扱う事が出来ない。……悪いが二人共、お手本無しでやってみてはくれないか?」
なんとも申し訳なさそうに、こちらを見るマリア。
軽く頭まで下げて、一見、本当に申し訳なさそうに見える。
でも、騙されちゃいけない。
申し訳なさそうなのは、言葉と態度だけ。
目だけが爛々と光っている。
サヨちゃん知ってるよ? あれは、獲物を見定める、捕食者の目だって。
「さぁ! 遠慮なんかせず! 何事も挑戦だ!」
大方、また自分が何かやらかさないか、期待してるんだろうなぁ……。
「速く♪ 速く♪」
「うわっ、なんか歌い出したっす」
「少ししか……持たなかったね……体裁」
「どうします? サヨリ様」
待ちきれずとうとう歌い出したマリアに対し、至ってクールな対応をするスズちゃん達。
マリアという存在に対し、もはや完全に慣れきっていた。
「ん~、まぁ別に、やるのは構わないんだけどさ、イメージとしては、どんなのがいいの? やっぱり、武器とかに火とか風とか纏ってるイメージ?」
壱之秘剣・焔○とかエクスカ○バーみたいな。
「その辺も、特に決まりはないんだ。武器に纏う人もいるし、防具に纏って防御力を底上げする人もいる。中には、拳や脚とかに纏って素手で闘うなんて人もいるんだ」
「へ~」
「でも、一番多いのはやっぱり、武器に纏うタイプかな? 普通の攻撃が効かない相手でも、効くようになる事があるし」
ふむ……まぁそれなら、すぐ出来るな。
「じゃあとりあえず、ソレでやってみるかな」
「うむ! では、早速やって見せてくれ!」
「スズちゃんはどうする? イメージ決まった?」
「はいっ! サヨリ様と同じのにしようと思います!」
「りょーかい。それじゃあ早速……」
「あぁ! スズちゃん! 火力は抑えめにしてくれ! でないと、また酸欠になってしまいそうだから。主に私が」
「あっ、やっぱりきつかったんすね。アレ」
「顔……笑ってたけどね……」
マリアを見ながら、ポコ君とチエちゃんが静かに呟いた。
そんなやりとりを聞きつつ、自分は腰の短剣、スズちゃんは愛用の刀を手にとり、それぞれ意識を集中する。
と、言っても、自分の場合、既にイメージは出来あがっているので、先ほどより簡単だ。
イメージするのは、スキル【拷問武具】を使った時纏わりつく、あの呪われそうなオーラ。
あれを少し凝縮し、武器により密着するようにイメージする。
使う属性は闇。
さっきは風だったので、順番こだ。
右手に持った短剣に、魔力が集中していく。
集中した魔力の色は、【拷問武具】のそれとは違い、濃い紫色をしている。
やがて、集まった魔力が吸いつくように短剣の刃へと密着していき、遂には短剣の刃を、濃い紫色へと変化させた。
「出来たよ~」
「おぉっ、速いな! では早速……」
変化した短剣をマリアに見せるべく、前にかざす。
しかし、何故かマリアは短剣を見ながら、首を傾げた。
「どしたの?」
「えっと……サヨサヨ。短剣って、この辺りなのかな?」
短剣の刃を指差しながら、上目遣いでマリアが聞いてきた。
この辺りって……いきなり何言ってるんだろ?
「この辺りも何も、今目の前にあるでしょ?」
「いや……その……、全然見えないんだけど……?」
んん? 見えない? どういう事?
かざした短剣をもう一度見てみる。
しかし、先ほど見た時と比べ、特に変わった所はない。
あるとすれば、刃が魔力を纏って、濃紫色になったくらいだ。
「皆も見えない?」
「はいっす……」
「よく……見えません……」
念のため聞いてみたが、どうやら二人にも見えないらしい。
なんでも、握っている柄は見えるのだが、そこから先の刃の部分だけ、まったく見えないのだそうだ。
「どゆ事? 何で皆見えないの?」
「多分だけど、闇属性の認識阻害が発動しているんだと思う。普通は認識しにくくなる程度らしいが、サヨサヨの場合、魔力濃度が桁違いだから……」
自分の疑問に、マリアが答えてくれた。
どうやら、自分の魔力濃度と闇属性への適正の高さが影響し、魔法の精度が恐ろしく高くなった結果、闇属性の認識阻害を超えた“認識不可”が、勝手に発動しているんだそうな。
「それに、ただ見えなくなっただけじゃない。おそらく並行して、闇属性特有の状態異常の効果も、軒並み上がっているはずだ」
「例えば?」
「毒、麻痺、睡眠、混乱……数えれ上げればきりがない。とりあえず分かっている事は、その刃に触れたが最後、それらの状態異常が最低でも複数、あるいは全部に体を蝕まれて、死ぬって事くらいだね……」
「oh……」
なんだか思っていた以上にやばい代物でした。
こりゃアレだな。【激痛】や【腐食劣化】、【拷問武具】と一緒に、緊急時以外、あまり使わないようにしよう。
でも、認識不可は凄いな!
それって正に、最強の見えない攻撃に通じる……あっ。
「マリちゃん、ちょっと試してみていい?」
「ん? 何をだい? あぁっ、試し斬りだったら、そこのポコ君に頼むよ」
「いや何ナチュラルに恐ろしい事言ってるっすか!? 絶対嫌っすからね!!」
「いや、違うよ♪ もっと面白い事だから……」
言いながらちゃっちゃと魔力を集中する。
こちらも、既にイメージは出来ているので、すぐ発動した。
濃紫色の魔力が体中からあふれ出し、全身を覆い隠すように、自分を包み込んだ。
「なっ!?」
「消えたっす!?」
「サヨリ様……凄い……!!」
ニヤリっ、
思った通りだ。
短剣に魔力を集中したように、自分の全身を魔力でコーティングする事により、一種の透明人間になる事に成功した。
しかも、今度は最初から“認識不可”のみをイメージして行った事により、その精度は段違いのはずだ。
「魔力を全身に纏ったんだね!? 凄いじゃないかサヨサヨ!! まったく見えないよ!!」
「えっ、サヨリさん、どこっすか!? どこいるっすか!?」
「……!」
三人がキョロキョロとしながら辺りを探っている。
正直、見てる側としてはかなり面白い。
でも、この後の授業の事もあるし、そろそろ顔を出すか。
「サヨリ様……どこ……?」
「呼んだ? チエちゃん♪」
「あっ……!」
「うわっ!?」
「おぉっ!?」
全身を包み込むイメージから文字通り顔だけを露出させる。
その際、被っていた仮面をとり髑髏の素顔をさらし出す。
中空に浮かぶ喋る髑髏を見て、三人が三人共、いいリアクションを見せてくれた。
「サヨリ様……いた♪」
「どもども♪ 貴方の心に住まいを構える、喋る髑髏のサヨリだよ~♪」
「おぉ~! もうそんな事まで……!!」
「いや怖いっす!! 怖いっすよソレ!? 何で顔だけ!? ってか、住まいを構えるって!! 心に骸骨住んでるって、どんだけ病んでるっすか!?」
可愛いらしく笑うチエちゃんに関心するマリア。そして、的確なツッコミを入れるポコ君。
これよ、これ! こういうのが欲しかったのよ!!
「まぁまぁ落ち着いて♪ それより、スズちゃんの方はどうかな?」
「あぁっ、そう言えば……」
思い出したように呟くマリアを後に、スズちゃんの方を見た。
見れば、刀を構えたまま、一生懸命「んー!」と意識を集中する、天使の姿があった。
「んーっ!」
……可愛い♪




