good-byeコポさん、また会う日まで
何とか書けた~!
やっぱり人対人だと戦闘描写がしやすい!
早速試合をするべく、自分を挟み、二匹と向かい合うスズちゃんとチエちゃん。
赤毛をスズちゃん、黒毛をチエちゃんが相手をする事になり、スズちゃんは木刀、チエちゃんは杖を持ち、それぞれ構えた。
「おい! ルールは?」
「……始め、と言ったら始めろ。後、得物はこれを使う。良いな?」
突然、話かけてきた赤毛の馬鹿にそれだけ言って、二匹にそれぞれ、木刀を渡す。
二匹は木刀を受け取った後、その場で軽く素振りをしたりして、握りを確認していた。
「で? ルール……」
「そんなものは無い」
しつこい赤毛に言う。
「何でもあり。それがルールだ」
それだけ言って、二匹から離れた。
それを聞いた二匹は、最初アホ面で呆然としていたが、何を思ったのかヘラヘラと笑い出した。
「はっ! そうこなくちゃ!」
「やっぱ実戦ならなんでもありだよな!」
そんな事を言って笑う二匹。
それを見てあらためて思った。
あっ、こいつら、論外だわ。
「……それじゃあ、試合を始める。両者前へ」
あきれ果てながらも試合を始めるべく声をあげる。
一連の流れを見て、戸惑っていたスズちゃんとチエちゃんも、気を引き締め直し、ゆっくりと前に出る。
馬鹿二匹も前に出たのを確認して、合図した。
「始め!」
夜の空き地に、自分の声が響いた。
*
最初に動いたのは、スズちゃんだった。
自分が、「始め!」と、合図した時には、既に踏み込み、突きを放っていた。
優しく、縦に構えられた木刀から繰り出された突きが、吸い込まれる様に赤毛の右の胸を叩いた。
ぼきっ、
と、いう、鈍い音がした。
赤毛の、肋骨が折れた音だ。
赤毛が、声を上げようと口を開いた。
だが、それよりも速く、胸を突いた木刀が、そのままの位置から、下に向かって降り下ろされた。
木刀の切っ先が、赤毛の、両手首ーー手の付け根の部分を叩く。
叩かれた手首から、
べきっ
と、いう音をたち、へし折れた手首が、あらぬ方向を向いた。
どさっ……。
胸を突かれ、両手首を砕かれた赤毛は、口を開いたまま声もあげず、その場でうずくまり、倒れた。
試合開始から僅か二秒。
秒殺だった。
*
一方、チエちゃんの方は。
こちらもまた、すぐに終わった。
相方が一瞬でやられたのに動揺した黒毛の隙をつき、チエちゃんが、すうっ、踏み出した。
踏み出した勢いのまま、杖の頭で、剣を持った黒毛の右手を、下から払い打ちにいく。
気づいた黒毛が、一歩下がり、避けようとした。
だが、それよりも速く、チエちゃんの杖が、黒毛の右手首を叩き、
ばきっ、
と、いう音と共に、黒毛の右手を叩き折った。
「~~っ!?」
黒毛が、声にならない声を上げた。
折れた右手から、剣がこぼれ落ちた。
同時に、手首を叩いた杖が、翻り、手首を打ち払った勢いのまま、チエちゃんの右手を支点に回転し、今度は杖の先を突き出された。
突き出された杖の先が、無防備な黒毛の鳩尾に打ち込まれる。
どずっ、
杖の先が、鳩尾にめり込んだ。
うっ、と黒毛が呻き、その場に膝をつく。
それを見たチエちゃんが、すぐに後ろに下がった。
そのすぐ後に、黒毛が、地面に向かって、胃の中身を吐き出した。
びしゃびしゃと吐き出した、自身の吐瀉物の上に、黒毛が、うつ伏せに倒れ込んだ。
吐いても吐いても、黒毛は、まだ吐き足りない様子だった。
赤毛が倒れて、十秒ほど後の事。
こちらもまた、秒殺でだった。
*
……さてと、仕上げとしますか。
試合、と、言うより只の試し切りみたいになってしまった現状に、止めを刺すべく歩き出す。
一緒に見ていたポコ君は、なんだか呆然としてたけど、何時もの事と思い、放置した。
「……おい」
地面に倒れた二匹に、声をかけた。
声をかけられた二匹の内、赤毛だけが倒れたまま、視線をこちらに移した。
黒毛の方は、吐き足りないのか、まだえづいている。
「……た……たす……い……いき……」
「何してる。早く立て」
掠れ掠れに息をする赤毛に、キッパリと言った。
すると赤毛が、目を見開き、驚いた顔をした。
「聞こえなかったのか? 早く立って、構えろ。いつまでも待たせるんじゃない」
もう一度、言った。
今度はゆっくりと、言い聞かせるように。
「で……ぇ……もぉ! ……い、き……がぁ……それ……に……てぇ……」
「それがどうした?」
掠れ掠れに反論してきた赤毛を、遮るように言った。
反論された赤毛が、口を開けたまま、唖然としている。
構わず、続ける。
「言っただろう? これは実戦形式だと。息が出来ないからなんだ? 手首が折れたからどうした? 実戦でそれが通じるか? 甘えるんじゃない」
淡々と、事実を述べた。
実戦ーー殺し合いに於いて、怪我をした、息が出来ないなど、闘えない理由にはならない。
こちらが手負いだろうと何だろうと、敵である相手には、関係無いから。
闘えないなければ、死ぬ。
ただ、それだけの事だ。
「そうでなくても、貴様等は実戦を舐めすぎだ。最初に二人が構えた時、貴様等はどうした? 突っ立てただけだろう? 木刀を手渡された時もそう、隙だらけだ。挙げ句の果てには「ルールは?」だと? 馬鹿が! 実戦にルール何て物は始めから無い!「ルールは?」 何て聞いて来る時点で、貴様等は論外なんだよ!」
二匹の行動を見た上で、思っていた事を全て言った。
さらに言えば、「始め」の合図で始める事自体、問題外なのだ。
闘うと決めた時、既に闘いは始まっているのだから。
「分かったのならさっさと立て。息が出来ないなら出来る内に決めろ。手が使えないなら足でも何でも使え。こっちは倒れたのに追撃せず、待ってやっているんだ。これ以上、待たせるんじゃない」
そこまで言って、立ち上がるのを待った。
しかし、赤毛も黒毛も立ち上がらない。
二匹共、真っ青な顔をして、震えているだけだ。
震えながら、赦しを乞うように、こちらを見ている。
どうやら、潮時のようだ。
「……スズちゃん、チエちゃん」
「「はいっ!」」
待っていた二人に声をかけ、呼び寄せる。
待っている間も、二人は構えを崩していない。
優秀な子達だ。
「こいつらもう駄目だ。いつもの様に、止めを刺しなさい」
「「……はいっ!」」
自分の言った言葉の意味を理解し、二人が返事した。
スズちゃんが木刀を、チエちゃんが杖を、それぞれ倒れた二匹に、突きつけ、振り上げた。
「!……ま……ぁ……」
「……ぁっ、ぁ!」
二匹が、何か言おうとしている。
赤毛は、折れた両手を前に掲げ、黒毛は、うずくまりながら左手で頭を抱えている。
だが、気にしない。
構わず、合図を出す。
「やれ」
合図と共に、二人が武器を打ち下ろした。
打ち下ろされた木刀と杖は、それぞれ赤毛と黒毛、二匹の頭へと向かっていき、そしてーー、
こつんっ、
こつんっ、
二匹の頭を、軽く叩いた。
優しく、小突くように。
だが、それだけで叩かれた二匹は白目を剥き、気絶した。
それと同時に、強い異臭が漂ってきた。
どうやら、叩かれた二匹が気絶と同時に漏らしたようだ。
しかも大。
「くさっ!」
思わず声に出した。
まぁ、何となく漏らすんじゃないかなと思っていたが、よりにもよって大か。
しかも臭いの強さからみて、二匹共。
ドン引きである。
「……臭い」
「最悪ですね……」
スズちゃんとチエちゃんもドン引きである。
二人共、汚物を見るような目で二匹を見ている。
まぁ、実際汚物だが。
「二人共♪」
とりあえず二人に声をかけ、汚物から離れる。
臭いが届かないよう、出来る限り遠くに。
「二人共良く出来たね~偉いぞ♪」
臭いが届かなくなったところで、今回、頑張った二人を褒めあげる。
相手がアレだが、初めての実戦としては花丸だった。
「スズちゃんは見事一撃で決めていたし、チエちゃんは綺麗に急所を押さえてた! 二人共花丸だよ!」
「えへへ……」
「やったぁ!」
褒められたチエちゃんが嬉しそうに微笑み、スズちゃんが声をあげて喜んだ。
なんだこれ、可愛い、天使か? ダブル天使か!?
「とっ、とりあえず、この後どうしよっか?」
正直、まだ眺めていたいけど、時間が時間である。
この後の事を考える。
「今日はもう止めとく? それとも、鍛練続ける?」
「ええっと……」
「どうしましょうか?」
チエちゃんとスズちゃんも悩む。
正直、時間はまだ余裕があるので、続けても構わないんだけど……。
ん? そう言えばポコ君はどうした?
呆然としていたポコ君を思い出し、そちらを見た。
するとポコ君、さっきと同じ位置で、まだ呆然としてた。
……大丈夫だよね?
「お~いポコく~ん♪」
「……ぴゃあ!」
呼びかけられたポコ君が妙な声をあげた。
良かった、いつも通りのようだ。
「この後どうする~? 予定通り模擬戦する~?」
「あっ、わわわわわわっ!?」
「模擬戦」と聞いた途端、物凄い勢いで震え出すポコ君。
あまりの震えっぷりに、手に持った鍛練用の棒が目の錯覚で凄いぐにゃぐにゃしてる様に見える。
やばい、あんなぐにゃぐにゃなの、初めて見た。
「むっ! 無理っす! 死んじゃうっす! あんなのやってたら、オイラ死んじゃうっす!」
震えながらそう言うポコ君。
言ってる内に震えがさらに増し、棒のぐにゃぐにゃもさらに加速する。
すごい……どこまでぐにゃぐにゃになるんだ!?
「ポコ、大丈夫だぞ?」
「いつもやる鍛練はもっと……優しくだから……」
「……へっ?」
二人の話を聞いて、ポコ君の震えが止まった。
同時に、棒のぐにゃぐにゃも止まった。
残念、面白かったのに。
「いつもやってる模擬戦は、もっと弱く打つ。当たっても、そんなに痛くない」
「でっ、でも……」
「さっきのはサヨリ様が「やってもいい」とお許しになったから、少し強めに打っただけだ。心配する必要はない」
「だから、大丈夫だよ……ポコ君。……その証拠に……私達……どこも怪我してないでしょ?」
「あっ……」
二人に説得され、ようやく落ち着いたポコ君。
安心して気が抜けたのか、その場にへたりこんでしまった。
「そっか~良かったっす~」
安心して、安堵の息を吐くポコ君。
まったく、人を何だと思ってるんだか。
「でっ、どうする? 続ける?」
「いや……今日はもう休みたいっす。なんかすっごい疲れたっすから……」
何故だかすごい疲れた様子のポコ君。
まぁ、今日一日で色々あったし、仕方ないか。
「ん♪ 了解♪ それじゃ皆! 撤収~」
「「「は~い」」」
そんなこんなで、鍛練を終え、帰路についた。
ちなみにその後、皆が寝静まった後に一人抜け出し、気絶したままの二匹を大通りの目立つところに縛り付けといた。
その結果、汚物まみれで見つかった二匹は「汚物コンビ」と呼ばれ、気がついたら、町からいなくなっていたそうな。
チャン♪ チャン♪
*
翌朝、ローディアの町外れにて。
自分達はコポさんに見送られ、旅立ちを迎えていた。
「それではコポさん、色々とお世話にになりました♪ ありがとうございます♪」
「おじさん! ありがとうございます!」
「お世話になりました……!」
コポさんにお礼を言い、頭を下げる。
スズちゃんとチエちゃんもそれぞれにお礼を言い、お辞儀をした。
「いえいえ、そんな! 滅相もない!」
頭を下げる自分達に向かい、慌てたようにするコポさん。
コポさんはそう言うが、武器から服から回復薬の買い取りまで、色々とお世話になっているのだ。
感謝してもし足りないくらいだ。
「むしろお礼を言いたいのは私の方でして……私の方こそ、色々とありがとうございます。 それよりもサヨリ様、息子の事を、どうかよろしくお願いします」
そう言って頭を下げるコポさん。
そのコポさんに、ポコ君が話かけた。
「……父さん」
「おお……ポコ、ちゃんとサヨリ様の言うことを聞いて、しっかりするんだぞ?」
「……うん。……父さんこそ、うっかり転んで怪我しないようにね」
「あぁ、もちろんだ」
「うっかり剣の刃を握って手を切ったり、うっかり大槌を足の上に落としたり、うっかり呪いの装備品を装備したりとか、しないでね?」
「うっ、うん……」
「後……」
「ポコ」
延々と続きそうなポコ君の心配を、コポさんが優しく遮る。
その目には、親の慈愛が込められていた。
「父さんは大丈夫だ。安心しなさい」
「……っ」
「だからお前は、思う存分、世界を見て来なさい」
そう言って優しくポコ君の頭を撫でるコポさん。
そこには、普段のうっかり屋ではなく、息子の旅立ちを祝福する、優しくも強い、父親の姿があった。
「……分かったっす。父さん! オイラ、頑張るっす!」
そう言って元気に返事をするポコ君。
それを見てコポさんもニッコリと微笑んだ。
「それじゃあ、父さん! 行って来るっす!」
「あぁ、行ってらっしゃい!」
「それではコポさん! いずれまた!」
「元気でね! おじさん!」
「体に気を付けて……!」
ポコ君が笑顔で別れを告げたのを見て、自分達もコポさんに別れを告げたのであった。
「ところで、アルバスまで、どのくらいあるのかな?」
「たしか、歩いて二ヶ月くらいっす!」
「……えっ?」
結構、長旅になりそうであった。
「良かったっす~! 模擬戦は痛くないんっすね!」
「「……」」
「……あっ、あれ? 二人共……どうかしたっすか?」
「……ポコ」
「スっ、スズちゃん?」
「……確かに痛くはない。痛くはないんだが……」
「心が……折れるの……」
「一体どんな事してるっすか!?」




