ポコ君、白くなる。
三日かかった……どうしてこんなに遅筆なの!
試験が終わったその夜、ギースは自室 でぐったりしていた。
試験が終わった直後、あの仮面の受験者ーーサヨリに、六時間にも渡り、質問責めにあったからだ。
やれ、カードが何処で売っているのか?
と、言う質問から始まり、
買えないなら何処で手には入るのか?
また、どのようにして作るのか?
どういった仕組みで操作し、動かすのか?
召喚出来る魔獣の規模は? 大きさは?
召喚時に発生する魔力の消費量は?
など、質問は多岐に渡った。
一つ返せば今度は二つ返ってくるという、ねずみ算式の質問責めに会い、ただでさえ無茶な魔獣召喚により疲弊していたギースの精神は、どんどん削られていった。
自身の持てる召喚カードの知識を全て吐き出し、ようやく納得させ、帰らした頃には、ギースの精神と肉体は既に限界を迎えていた。
「な……なんだったんだ……一体……」
誰に言うでもなく、一人呟いた。
突如として現れた仮面の男。
自身の最強の手札であるタウゼント・ハザードを一蹴し、遂先ほどまで、ギース自身を質問責めにした。
その人物を思い出し、ため息をつく。
あんな目に会ったのはこれで二度目だ。
一度目は昔、ギース自身がまだアルバスの研究生だった頃。
自身の召喚カードにおける論文の発表が終わった後、一人の上級生に捕まり、同じ様に質問責めにされた。
あの時もまた、自身が疲れ果てるまで質問が続き、ようやく終わった頃には、半日過ぎていた。
その時の事を思い出し、今度はふっ、と笑いが込み上げて来た。
そういえば、こんな事は久しぶりだった。
昔はよく、同じ研究生同士で自身の研究について話し合い、意見交換したものだ。
確かに色々と大変だったが、自身が好きな事を研究し、話し合うのは、それほど苦には感じず、むしろ楽しかった。
今思えば、あの上級生やサヨリの質問責めも、中々に有意義な物に感じていた。
こんっ、こんっ、
「ギース……」
ドアがノックされ、ヒラルダが入ってきた。
いよいよ来たかと思い、ギースはヒラルダに向き合った。
「ギース……」
「わかってる、今日の事だろう?」
「‥……」
「あれだけの事をしたんだ。ギルドからの追放は免れない‥……色々と悪かったな‥……それじゃあ‥……」
「その事についてなんだけど‥……」
「ん?」
「あんた、ギルド辞めなくていいみたいよ?」
「‥……はぁっ?」
ヒラルダの口から出た言葉に、ギースは自身の耳を疑った。
開いた口が塞がらず、間の抜けた顔でヒラルダを見る。
「どっ、どういう‥……」
「あの受験者、サヨリ? だったけ? が、こう言って来たのよ」
「『あれは自分がギースに頼んで、難易度を上げてもらったんだ』って‥……」
「なっ‥……」
「だからギースは自分の頼みを聞いてくれただけで、何も悪くないって‥……」
「‥……」
「当人がそう言うんじゃね‥……私からは何も言えないわよ‥‥…」
「‥……」
「だからギース‥……あんた、辞めなくても大丈夫‥……」
「そんなのが通用する訳ないだろう!?」
予想外の発言に、ギースは一瞬固まった。
だが、すぐに冷静になり、反論する。
「何人も見てるんだ! それに本部が‥……」
「周りにいた連中には私から説明しとくよ‥……あれは受験者が自分から望んだ事だって‥……」
「なっ‥……!」
「それと、本部の事も気にしなくて良いよ? 私が報告しなきゃ済む話だからね‥……」
「‥……お前はそれで良いのか?」
反論を全て返され、ギースは唖然とした。
それでも、一言だけ聞き返した。
「はぁ?」
「‥……俺がギルドマスターで、良いのかと聞いたんだ」
「‥……」
「別に俺がいなくても、お前の実力なら‥……」
「嫌だよ、面倒くさい」
ヒラルダがばっさりと切り捨てた。
「‥……」
「ギルドマスターなんて、私の性に合わないんだよ‥……私は、しがない受付で充分さ‥……それに‥……」
「‥……それに?」
「あんたがギルドマスターじゃなきゃ、私が嫌なんだよ」
「‥……えっ」
「そう言う事だからさ‥……んじゃ、また明日‥……」
それだけ言って、ヒラルダはさっさと帰ってしまった。
残されたギースは一人、呆然としていた。
呆然としつつ、ヒラルダの出て行ったドアを眺めていた。
「‥……まったく、なんて日だ‥……」
ぽつりと一言、それだけ呟いた。
その顔には、どこか吹っ切れたような微笑みが浮かんでいた。
*
「むむ!? 何処からか甘酸っぱい青春の香りが!!」
「いきなり何言ってるっすか!?」
突然椅子から立ち上がったコポさんの発言に、ポコ君がツッコんだ。
あまりのアホな発言に、その場にいた全員がずっこける。
青春の香りって‥……いきなり何言うてはるん? このわんこ‥……。
自分達は現在、コポさんの店の奥にある二人の家の居間にいる。
試験が終わったあの後、試験官の男ーーギースに召喚カードについて聞きたい事を聞いていたら遅くなってしまい、急遽コポさん達の家に一泊させてもらうこの事になったのだ。
生憎と召喚カードを手に入れる事は出来なかったが、代わりに貴重な情報をいくつも手に入れたので良しとする。
長い間質問に答えてもらったお詫びに、受付の女の人ーーヒラルダさんに軽くフォローをお願いしといたし、これでチャラにしてもらおう。
そんなこんなで色々あり現在、夕食が終わった後、コポさんが自分に大事な話があると言うので聞こうとした矢先に、この奇行である。
思わず変な方言になろうというものだ。
「いや、つい懐かしくてなぁ‥……こう見えても父さんだって昔は‥……」
「そう言うのいいから!! それよりサヨリさんに大事な話があるんじゃなかったっすか!?」
「おぉ! そうだった!!」
ポコ君に言われ、ようやく落ち着いたコポさん。
本当にマイペースだなぁ‥……。
「いや~すみません、お騒がせして‥……つい、昔を思い出して‥……」
「あぁ、気にしなくって良いですよ♪ それで話って何でしょう?」
「おぉ、それなんですが‥……」
まぁ、コポさんだし仕方ないか、と、思い、とりあえず本題に移ってもらった。
じゃないと、いつコポさんワールドが発動するか、分からないからだ。
「サヨリ様は、これからどちらに向かわれるのですかな?」
「とりあえず、アルバスの首都の魔法学院に向かおうと思います。 チエちゃんが魔法使い志望だし、自分も色々と調べたい事があるんで」
「ふむ、そうですか‥……その後は?」
「特に決めてないですけど‥……それが何か?」
「はい‥……サヨリ様、折り入ってお願いがあります。 その旅に、家のポコを一緒に連れていってもらえませんかな?」
「えっ!?」
コポさんの発言にポコ君が驚く。
どうやら、聞かされていなかったらしい。
コポさんは構わず続けた。
「この子は幼い頃に母親を亡くしてからずっと、男手一つで育ててきたんですが‥……私に似ず賢い、良い子に育ってくれました。 店の手伝いも自分から進んでやってくれて、いつかは、私の店も継いでくれるとまで言ってくれたんです‥……ですが私は、この子にはもっと広い視野で、世界を知ってもらいたいのです」
「父さん‥……」
「サヨリ様が呪いを解いてくれたのも、何かの縁でしょう‥……お願いします。どうか息子を、旅に連れていってやってください」
そこまで言い、コポさんが自分に頭を下げた。
ポコ君は黙って、それを見つめている。
‥……これは、自分だけで決める事では無い。
そう思い、スズちゃんとチエちゃんに問いかけた。
すると、
「スズは構いませんよ?」
「私も‥……問題ありません」
との事。
まぁ、大体予想していた答えだ。
と、なれば後はポコ君次第だ。
ポコ君に向き合い、問いかけた。
「ポコ君はどうしたい?」
「‥……」
自分の問いかけに、ポコ君は黙っていた。
上手く心の整理が出来ず、戸惑っているようだ。
「父さん‥……良いの?」
「ポコ‥……お前ももう十六だ。父さんの事は気にせず、自分のやりたい事をやりなさい」
「‥……わかったっす」
迷うポコ君に、コポさんが諭すように言った。
その言葉で、ポコ君も決心がついたようだ。
「サヨリさん! オイラも旅に、連れていってください!! お願いします!!」
ポコ君が真っ直ぐに自分を見て言った。
その目には、もう迷いは無い。
ならば当然、自分の答えは決まっている。
「ん! 良いよ!!」
「ありがとうございます!!」
こうして、新たな旅の仲間が一人加わったのであった。
*
「あの……」
「サヨリ様!」
「ん?」
突然、チエちゃん達が話しかけてきた。 何だろうと思い、向き合う。
あの後、ポコ君が早速準備すると言い、そのまま解散となった。
ポコ君は旅立ちの準備のため自室へと向かい、コポさんも今日はもう休みますと言って自室へと向かった。
自分は疲れないし寝る必要も無いので、鍛練をしに外に出ようとしたところで声をかけられたのだ。
「どしたの? 二人共?」
「あの……今日も‥…いつもアレ……お願いしても良いですか?」
「スズ達、昼間のサヨリ様を見てたら、体が疼いちゃって‥……」
そう言って二人は自分を見つめてきた。
いつものアレとは……恐らくアレの事だろう。
「良いけど……明日も早いけど、二人共大丈夫?」
「大丈夫です……お願いします」
「それに、どちらにせよこのままじゃ、興奮して寝れませんよ!」
どうやら二人共、やる気まんまんのようだ。
まぁ、自分としても色々と助かるので、キリのいいところで終わらせれば大丈夫か。
「ん! わかった♪ それじゃ二人共、外に……」
「ちょっ、ちょっと待つっす!!」
突然、慌てた声を上げながらポコ君が部屋から飛び出してきた。
何だかひどく慌てた様子だ。
どうかしたのだろうか?
「あれ? ポコ君、もう準備終わったの?」
「あっ、はい、そっちはもう終ったっす。荷物用の魔導具があるんで……って! そうじゃないっす!! サっサヨリさん!! いっ、一体二人と、なっ、何するつもりっすか!?」
途中、噛み噛みになりながらポコ君が聞いてきた。
何だかわからないが、すごい狼狽えっぷりだ。
本当にどしたの?
「どうしたんだ? ポコ? そんなに、慌てて……」
「どうかしたの……ポコ君?」
スズちゃん達も不思議そうな顔でポコ君に問いかけた。
「どうしたもこうしたもないっす!! ふっ、二人共!! いっ、いつからサヨリさんと、そっ、そんな関係に!?」
「? 五日前からだが?」
「ええっ!?」
「私達から……お願いして……」
「えっえええー!?」
今度は絶叫し始めるポコ君。
もう夜なのにテンション高いなぁ。 ご近所からのクレームとか、大丈夫なのだろうか?
「なっ、なっ、なっ……」
「最初から凄かったよね~サヨリ様♪」
「うん……もう、何が何だかわからないくらい……」
「スズも、気がついたら後ろから攻められてて……」
「私も……攻めてたのに……いつの間にか受けに回ってたり……」
「してる時だけ、人が変わるんだよね!」
「いつもは優しいのに……してる時は……獣みたい……」
「でも、優しいのは変わらないよね!」
「うん……いつも優しく……手取り足取り……教えてくれる……」
「二人共照れるなぁ~♪」
二人の発言に思わず照れる。
褒められたって自分、何も出ないぞ?
「そっ、そんな……二人は……そこまで大人の階段を……!」
二人の会話を聞いたポコ君、今度は真っ白になって固まっていた。
コポさんといい、ポコ君といい、随分と芸達者だなぁ。
てゆーか、大人の階段って……鈴○キサブローか!
「? どうしたんだ、ポコ?」
「真っ白だよ……ポコ君?」
二人が心配そうにポコ君に話しかけるが、ポコ君に反応は無い。
目は虚ろで、手をだらんっ、とぶら下げたまま立ち尽くしている。
……って、まさか! コポさんみたく死んでないだろうね!?
コポさんの昇天未遂を思い出し、慌てて駆け寄った。
脈をとり、呼吸を確認する。
……大丈夫、気を失ってるだけだ。
とりあえず、ほっ、と一息。
「おぉ~い、ポコ君。しっかりするだ~♪」
ぺちぺちぺち、
「……はっ!」
軽く頬を叩いたら反応が帰ってきた。
先生、手術は無事成功です。
「大丈夫か? ポコ君?」
「サっ……サヨリさん……二人が……二人が大人に……」
うわ言のように呟くポコ君。
大丈夫だと思ったら駄目だった。
まだ意識が混乱してるっぽい。
と言うか、二人が大人って……何の事だ?
「何だ! さっきから訳のわからない事ばかり言って! サヨリ様の手を煩わせるんじゃない!!」
いい加減焦れったくなったのか、スズちゃんが声を荒げた。
形のいい眉をつり上げ、ポコ君に詰め寄る。
「スっ、スズちゃん……」
「そんなにあれならサヨリ様ではなく、スズが相手になってやる! 表に出ろ!」
「ええっ!!」
「ぬぉっ!!」
いきなり蘇生したポコ君にびっくりして、思わず変な声が出てしまった。
てゆーか、スズちゃん。
何で喧嘩腰になってるの?
「なっ、何言ってるすか!? そんな事……!? しかも外で!? いや、それ以前に二人は……!!?」
「小さな事でぐだぐた言うな!! 大体、さっきから何だ!!
" 戦闘術の鍛練 " に大人とか階段とか、訳がわからん!!」
「……えっ?」
スズちゃんの発言に、またポコ君が固まった。
今度は真っ白にはなってないが、その場で呆然としている。
いちいち忙しいなぁ、もう。
「……戦闘術の鍛練?」
「そうだ!」
「‥‥…五日前から?」
「そうだ!」
「……二人で……サヨリさんと?」
「そうだ! って、最初からそう言ってるだろう! 何を聞いていたんだ! お前は!!」
「……」
そこまで聞いた途端、ポコ君がまた真っ白くなってしまった。
しかし、今度は固まらず、ゆっくりと動き出した。
「……ん? どうした、ポコ?」
「……ポコ君?」
ゆっくりと、足を引き摺りながら、歩くポコ君。
そのまま部屋の隅にまで行き、しゃがみこんでしまった。
一体、どうしてしまったんだろう?
「ポっ、ポコ君? だっ、大丈夫かな」
心配になって声をかけてみた。
すると、
「あっ、大丈夫っすよ。心配しないで。うん、オイラ、ぜんぜん大丈夫っすから。うん、大丈夫っすよー。ははっ、オイラ元気ー。……はぁ、死にたい」
「いや! ぜんぜん大丈夫じゃないよね!?」
あまりの変貌っぷりに思わず唖然。
何か口調も変だし、絶対やばいよね!
「ちょっ!? ポコ君しっかりするんだ!」
「あっ……サヨリさん……大丈夫っすよー大丈夫っすー。ちょっとオイラー自分の汚れっぷりに愕然としてただけなんで……大丈夫っす……大丈夫っすから……」
「何が大丈夫なもんか! そうやって大丈夫大丈夫連呼する奴に限って大丈夫じゃないんだ!!しっかりするんだ! ポコ君!! ポコくーーん!!」
その後、必死に呼びかけたがポコ君は元に戻らず、キレたスズちゃんがポコ君に刀を突き付け、「起きろ」っと脅すまで、この状態が続いた。
~コポさん自室~
ドウシタモコウシタモナイッス!
「ZZZ……」
エエエッ!
「ZZZ……」
フッ、フタリハ……ソコマデオトナノカイダンヲ……!
「ZZZ……むにゃ、」
「……むにゃ……大人の……階段のぉぼる~……むにゃ……君はまだ……むにゃ、シンデレラさ……」
ポコクーーン!!
「ZZZ……」
ドスッ ……オキロ。
「はっ!?」




