仲間が増えるよ!やったねサヨちゃん
『ぱんぱかぱ~ん♪条件を達成しました♪進化します♪』
『種族 [ アンデッド ] から [ アンデッド・ウォーリアー ] へと進化しました♪ 』
『同時に、スキル [ アンデッド・ウェポン ] を獲得しました♪おめでとうございます♪』
アタゴさんの間の抜けた声が、頭の中で響いた。
どうやら、進化と同時に、新しいスキルを手に入れたらしい。
全身の感覚がより研ぎ澄まされていくのと同時に、身体の底から力が溢れかえってくるのを感じる。
自分という存在が、一つ上の存在になった事が、手に取るようにわかった。
本来、喜ぶところなのだろうが、今の自分は、正直それどころではなかった。
目の前に広がる光景を見て、思う。
……また、やってしまった。
目の前に広がる光景ーーそれは、地獄絵図だった。
地面を覆いつくすように広がる血の海。
そこらじゅうに転がる、赤やピンクの臓物や肉片。
飛び散った血が森の木や繁みにまで飛び、緑の葉を赤く塗り潰している。
そして、それら肉片の中で、一際大きな三つの肉塊……不愉快なモノ達。
一つは、顔面をぐちゃぐちゃのミートパイのように。
もう一つは、折れた肋骨や内蔵が胴体から突き出した、出来の悪いオブジェのように。
そして最後の一つは、逃げようとしたので、原型を留めぬほど徹底的に叩き潰し、挽き肉状に。
それら全てが異臭を放ち、辺りを覆い尽くしている。
飛び散り、葉や枝の先端に溜まった血が、ぽたっ、ぽたっ、と地面に落ち、静かに音をたてていた。
どうしよう……取り返しのつかない事をしてしまった……。
後悔の念が、全身を覆いつくす。
身体が、小刻みに揺れ、ないはずの血の気が、全身から引いていくのを感じた。
震えが、止まらない。
こんな……こんな……よりにもよって……
罪悪感で、押し潰されそうになる。
こんな光景を…………
あの二人に見せてしまうなんて……!!
目の前に広がる光景……こんな、見るに耐えない地獄絵図を、幼い二人に見せてしまうなんて!!
取り返しのつかない事をしてしまった自分に、腹が立つ。
ぶっちゃけ、あの三つを殺っちゃった事に関しては正直どうでもいいし、なんとも思わない。
生かしておいてもまた悪さするだろうし、生かしておく理由もない。
何より、あいつらは絶対やってはいけない事をした。
それは、二人を……二人の自由を冒涜した事だ。
あいつらは、二人を捕まえて売ろうとした。
チエちゃんに、死の呪いをかけ、殺そうとした。
スズちゃんの夢を笑い、馬鹿にした。
二人の自由……考え、思考する自由や、生きる自由、夢を語り、行動する自由。
それら全ての自由を奪い、束縛し、侮辱した!!
自分はそれを絶対に許さないし、許す気もない!
人の自由を奪う事は何よりもやってはいけない、そう思うからだ!
……何故かって?
自分がされたら嫌だからだ!!!!
自分がされて嫌な事を人にするなって、学校で教わっただろうが!!!!
そんな事もわからずに、自分がされて嫌な事を他人にする奴なんて死んで当然だ!!
故に!!自分はあの三つを殺っちゃった事に関して、悪いとは思わないし、反省する気もない!!
……そんな事よりも、今はもっと重要な問題がある。
それは、こんな光景を二人に見せてしまった事だ……。
まだ幼い二人には、かなりショックだろう……。
もし、二人の心に傷が残ったらどうしよう……。
それが原因で、引きこもりになったり、非行に走るようになったりしたら……?
ああああああっ!
自分の馬鹿!
何してんの?
馬鹿なの?死ぬの?
こんなん、ガ○ジーだって助走つけて殴る事案だよ!?
マザー・テ○サだって、真顔でアルゼ○チン・バックブレーカーかますぐらいだよ!?
ああっ、十分前の自分に一言言ってやりたい……。
せめて二人に目を瞑るよう言うなり、後ろを向いて耳を塞ぐように促すなり、言っていれば……。
次から次に、思考が溢れ、考えが一向にまとまらない。
……そして、これとは別に、誠に自分勝手な心配事が、一つある。
二人の反応が、怖い。
昔にも、似たような事が何回かあった。
例えば、小学二年生の時。
仲の良い友達五人で、公園に遊びに向かった時の事だ。
公園の入口の反対側。
その隅で、誰かが、棒か何かで、何かを叩いていた。
何をしているのか不思議に思い、皆で気付かれないよう近付いてみた。
その人は、同じ学校の上級生だった。
確か、サッカー部の六年生で、体は小さいのに、声が大きい事で有名な人だった。
その上級生が一人、木の棒で、何かを叩いていた。
何を叩いているのだろうか?
気になったので、さらに近付いてみた。
そして、見た。
上級生が叩いていたモノーーそれは、一匹の猫だった。
その猫には見覚えがあった。
確か、この近所に住んでいた野良猫だ。
片足が悪く、いつも片足を引き摺って歩いていた。
その猫とは、一緒に日向ぼっこしたりして、仲が良かった。
頭を撫でたりすると、気持ち良さそうに声をあげ、すり寄ってきて可愛かった。
その猫を、上級生が木の棒で叩いていた。
足の悪い猫は逃げ切れずに、棒で叩かれ、蹲っていた。
上級生の顔は、笑っていた。
笑いながら、棒で猫を叩いていたのだ。
それに気付き、驚くと同時に、逆上した。
全身の血が煮えたぎったように熱くなった。
殺す。それだけが、頭の中にあった。
近くに落ちていた石を拾い、握った。
友達の制止を振り切り、上級生に向かって走り出し、飛びかかった。
不意打ちを食らった上級生は、自分に飛びかかられ、地面に倒れた。
馬乗りになり、倒れた上級生を、石で殴った。
顔や手、頭なんかを、思いきり殴りつけた。
倒れた上級生も、下から殴りかかってきたが、気にせず殴り続けた。
何度も、何度も、思いきり殴り続けた。
そのうち、抵抗していた上級生が大人しくなってきた時。
突然、後ろから誰かに羽交い締めにされた。
見ると、自分を羽交い締めにしたのは、近所のおじさんだった。
他にも何人か、大人がいた。
騒ぎを聞きつけた大人達を、友達が呼びつけたみたいだった。
そのまま、身体ごと持ち上げられ、上級生から引き離された。
引き離された上級生は、力無く地面に横たわっていた。
顔や手も、血で真っ赤だった。
それでも、うぅっ、とか、あぁっ、とか呻いて声をあげていた。
まだ、息がある……!
止めを刺そうと思い、暴れた。
しかし、押さえる力が強くて、どうする事も出来なかった。
結局、上級生は病院に入れられ、一命をとりとめた。
そして、猫は既に事切れていた。
………………
…………
……
後から聞いた話だが、上級生が猫を苛めていた理由、それは、受験のストレスかららしい。
思った以上に成績が上がらす、ストレス発散のため、隠れて、猫や小動物を苛めていたのだそうだ。
他にも、下級生なんかを狙って、自転車で通りすがりざまにエアガンで射つなんて事もしていたらしく、事情聴取にきた警察の捜査でわかって、大騒ぎになったとかなんとか。
その結果、上級生は受験に失敗し、半年もせずに自殺したのだそうだ。
……だが正直、そんな事はどうでもよかった。
自分にとって問題だったのは、その後の自分への反応だった。
誰も、目を合わせてくれないのだ。
仲の良かった友達も、同級生も。
学校の先生などの大人達でさえも。
誰も、自分の目を見て、話してくれない。
話しかけても、すぐに何か理由をつけて、自分から逃げてしまうのだ。
酷い時には悲鳴をあげて、泣かれたりした。
正直、こっちのほうが泣きたいくらいだった。
唯一、自分の家族達だけは自分と正面向いて話してくれた。
それでも、その目の中に、何かに怯えてるような様子が時折見てとれた。
その後も、何回か似たような事があった。
その度、自分に対して回りの反応が変わり、皆、目を合わせてくれなくたった。
誰も、目を合わせてくれなくなった。
目を合わせたとしても、その目は何かに怯え、恐怖していた。
……何?何に怯えているの?
それが分からなかった。
ただ、その怯えた目だけが、なぜだか無性に悲しかった。
分からないまま、時間だけがすぎた。
だがある日、驚愕の事実を知ったのだ!
皆、人間の血が怖いのだ!
教えてくれたのは偶然、自分の通っていた格闘技のジムに来たタイ人だった。
肘で相手の顔をカットするのが上手く、『切り裂き魔』なんてあだ名を持った、ムエタイの選手だった。
自分も肘打ちには自信があったので、詳しく話を聞いてみた。
彼の話は面白く、色々な話を聞かせてくれた。
効果的な肘の打ち方、狙うポイント、果てはフェイントなんかも教えてくれた。
そして、彼は最後にこんな事を言っていたのだ。
『ン~皆、人間、血、怖イ!!ダカラ肘、アタル、血デル、皆、パニック!!パニック相手、KO、トテモ楽チンチン!!』
と言って、ケタケタ笑っていた。
………………
…………
……
……そっ、そうだったのかーー!!?
全身に電流が走った。
本人にとって、別に対した事話した訳じゃないかもしれないが、自分にとってみれば目から鱗の衝撃発言だった。
そうなのか……皆、血を怖がっていたのか……。
そういえば、そういった事がある度、いつも自分は相手の返り血や自分の血で真っ赤になっていた!
自分に怯えていたのは、自分=人間の血を連想していたからなのか!!
長年の疑問が氷解し、晴れやかな気持ちになった。
そして、いつかこの人に弟子入りしよう……そう、心に誓ったのだった。
*
……結局、弟子入り出来なかったな……。
そんなこんなで一つ賢くなった自分はその日から、出来るだけ血を流さず、穏便に対処するよう心がけた。
事実、それで何とかなって来た。
それなのに……まさか……こんなカタチで……。
甦ってから、色々あって失念していた……。
襲ってくる魔獣を殺しまくっているうちに感覚が麻痺していたのかもしれない。
人は人の血が怖い。
そんな事を忘れていたなんて……!!
これほどの血の量である。
絶対に二人は怯えている。
もう、自分とは目を合わせてくれないかもしれない。
それどころか、自分に怯え、泣き出すかもしれない。
そして、もう自分の事を、見てくれない、話かけもしない。
自分に……あの素敵な笑顔を、見せてはくれない……。
それが、堪らなく悲しく、怖い。
せっかく……せっかく……、
仲良くなれたと思ったのにっ……!!
自分の馬鹿さ加減に怒りが湧いてくる。
噛み締めた歯が、ギリッと音をたてた。
くやしさで肩が震え、涙が出そうになった。
だが、出ない。
自分は、骸骨だから……。
「サヨリ様……?」
「大丈夫……ですか?」
二人が話かけてきた。
思わず、身体がビクッと震えた。
何故?自分に語りかけている?
初めての経験に少し、混乱した。
だが、すぐに答えはでた。
あぁ、自分に気を使っているのか……。
優しい、二人の事だ。
きっと、怖いのを我慢して自分に語りかけているに違いない。
本当に、優しい、良い子達だ。
……だからこそ、こんな優しい二人に無理をさせる訳にはいかない。
「……二人共、ごめん……」
「「えっ?」」
二人が、ハモった。
本当に、仲が良いなぁ……。
でも、早く切り出そう。
「二人共、怖いよね?こんな血まみれで……」
二人の反応はない。
構わず、続ける。
「自分、こんなだからさ……怖いよね。きっと……でも、大丈夫……すぐ……いなくなる……から……」
「えっ?」
「あのっ?」
「いや、良いんだ!気にしなくて……大丈夫……一人でも、大丈夫だから……」
「いや、だから……」
「本当は一緒に行きたかったけど……自分がいたんじゃ怖いよね?でも大丈夫!二人なら、どこでもいけるよ!応援してるね!それじゃあ……」
「あの!!」
捲し立てるように言って、その場を離れようとした。
しかし、スズちゃんに止められ、タイミングを失っていた、その時ーー
「何故スズ達がサヨリ様を怖がるのですか?」
「……えっ?」
スズちゃんからの予想外の一言に、思わず固まる。
「スズ達がサヨリ様を怖がる訳ないじゃないですか」
「そうです。スズちゃんの言う通りですよ」
「えっ?えっ?」
予想外の二人の反応に混乱する。
えっ?何故に?
「えっ?だって、二人共、怖くないの?自分、血まみれだよ?」
「?これの事ですか?」
そう言ってスズちゃん、目の前の肉塊をビシッと指さした。
「確かに、最初はびっくりしました。すごい速さでしたし、正直まったく怖くないと言えば、嘘になります……」
「なら……」
「ですが!!」
口を挟もうとして、スズちゃんの大きな声に圧倒された。
[身体強化]のスキルって、声量にも対応するのか?
「ですがそれは、スズ達を守るためにしてくれた事です!!スズ達のために怒ってくれたからです!!もし仮に、サヨリ様が何もしなくても、スズが奴等を血祭りにあげているところでした!!」
「……それに、サヨリ様が優しいのを私たちは知っています……!」
スズちゃんの後にチエちゃんが続いた。
「走れない私を背負ってくれた……!スズちゃんが転んだ時も、見捨てず、一緒に担いでくれた……!」
「崖にぶつかりそうになった時も、身を呈してスズ達をかばってくれました!チエの首輪も外してくれたし、スズ達が寒くないよう、火も起こしてくれました!」
「モスウルフからも守ってくれましたし、スズちゃんや私の呪いも解いてくれました……!」
「それに、スズ達の事を、ありがとう、って言って褒めてくれました!!」
「たった一日だけで、私たち、こんなに助けてもらってるんです……!」
「そうです!!感謝こそすれ、怖がったり、嫌いになるわけありません!!」
「だから!!」
「だから……!!」
「「いなくなるなんて事、言わないで下さい!!」」
……二人が、ハモりながらそう言って締めた。
そこで初めて、二人の目を見た。
二人共、真っ直ぐな目で自分を見ていた。
その目には怯えも恐怖も無く、ただ、真っ直ぐに自分の事を見ていた。
……そう、真っ直ぐに……自分の事を‥……。
……やばい、涙腺が無くてよかった。
もしあったら、今絶対泣いてる。
てゆーか泣く。
大の男のガチ泣きだよ?
それこそ二人には見せられないよ……。
こんな……こんなに……
こんなに嬉しいなんて……!
怯えずに自分を見てくれている。
たった……たったそれだけの事が……たまらなく、嬉しい。
初めて感じる喜びに身体が震える。
心の奥から、熱い何かが込み上げてきた。
自然と口元に左手が添える。
込み上げた何かが、溢れて落ちてしまわぬように。
最初、二人が一緒に行きたいと行った時、まぁ良いか!くらいにしか考えていなかった。
旅は道ずれ~なんて上から目線だった。
でも、今は違う。
一緒に行きたい。
二人と一緒に、旅をしたい。
まず、その事を二人に伝えたい。
「二人共……ありがとう……だから……自分から……改めて……お願いしたい」
しゃがんで二人に目線を合わせる。
きちんと二人の目を見て、言う。
「どうか、二人と一緒に旅させて下さい」
頭を、下げる。
「お願いします」
「「はいっ!よろしくお願いします!!」」
二人の、元気な声が響いた。
その日、異世界に来て初めて、旅の仲間が出来た。
読んで頂きありがとうございます!次回からは、後書きか前書きに、小ネタを挟みたいと思います。




