おらは死んじまっただ~♪
――やっちゃったなぁ。
茜色に染まった夕暮れの空を見て、そう呟いた。
呟く、と言ってもほとんど声なんて出ない。
いや、声は出てるのかも知れないけれど、その感覚が無いから、自分でもわからない。
感覚が無いのは、声だけじゃない。
無造作に投げ出された手や足、体全体の感覚が無い。
でも、おかげで全身から来るであろう痛みすらないのだから、むしろ良かったのかも知れない。
だって嫌じゃん、身体中から来るであろう激痛に悶え苦しむとか。
絶対やだ。
自分はNOと言える日本人だよ。
……それにしても、自分らしい最後だな。
雨の日の山道、次の目的地までの道中で崖から落ちたとか。
しかも落ちた理由が、雨上がりの綺麗な虹を写真に撮ろうとして。
う~ん、我ながら締まらない。
なんと言うか、間が抜けてる。
いや、だってさ、まさか落ちると思わないじゃない?
ほんのちょっと、ほんのちょっと寄りかかっただけでさ、壊れる普通?
ガードレール。
そりゃ予想外ですわ。
反応遅れますわ。
で、気がついたら崖からまっ逆さまですよ。
いくらこの辺りの山道が、人通りの少ない裏道だとしてもだよ。
正直、これは無いと思う。
……それはそうと、あれだね。
よくテレビとか漫画とかでいう、事故の時、時間がゆっくりに感じるってやつ。
あれ、本当だね。
落ちてく時、すごいスローに見えたもん。
崖の岩肌の形とか、下の木の葉っぱのギザギザや、地面に生えてる花の種類とか、細かいところまでよくわかった。
実際は数秒の出来事かも知れないけど、物凄く長く感じた。
死ぬ気の集中力ってやつ?
もう少し速く発動してくれれば、崖から落ちるのも回避できたかもしれないのにな。
まぁ、過ぎた事はしょうがないな。
次に生かそう。
……とっ言っても次はもうないっぽいけど。
あるとしたなら来世。
うん、来世で頑張ろう。
……思えば産まれて29年、人生色々あった。
高卒で就職も進学もせず、フリーターしながら、好き勝手にした。
好きな旅行にも行って、去年には遂に日本全国制覇したし。
他にも、フィギュア作ったりとか、格闘技やったりとか……。
まぁ色々やった。
恋愛はからきし、と言うより全く縁がなかったけど、特に何とも思わない。
強がりじゃないよ?
本当ダヨ?
……まぁ特に大きな怪我とか病気もなく、身内の不幸もない、普通の、いや、結構幸福な人生だったんじゃないかな?
そういう事にする。
あっ、そろそろ限界っぽい…。
なんだか頭がボーっとしてきた…。
お迎えは天使……出来れば美少女が良いなぁ……
あぁ……、でも、……自分…の…家……仏教……だ……からなぁ……
天使は……だめ……か……なぁ……
そこで意識は途切れた
九罠サヨリ ♂ 享年29歳
崖から落ちて転落死