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願い事は正確に  作者: トランスし隊
8/11

8話 拉致☆

 お腹に感じる重圧、体は反対に宙を浮くようにユサユサとうごいている。

 ノイールに聞こえてくるのはコツコツという自分のものではない足音。なぜなら自分は手足が痺れたかのように動かないのだから。


 少し、少しずつ重い眩暈のような頭痛が晴れ、徐々に自分がどのような状態にいるのかを理解する。

 手足は縛られている訳ではないが魔術により眠らされた為にまだ体が目覚めてないようだ。お腹に掛かる圧は自分が誰かの肩に担がれているからか。


 そこでやっとノイールは自分が攫われたのだとやっと理解した。


 ノイールに恨まれる心当たりは無い訳ではない。賊は何人も捕まえ、命を奪う場面もあった。それにノイールの剣の強さに冒険者仲間から妬まれる事なんてザラにある。

 ターニルミトラの花を取り行く際にも誰かを殺めた可能性だってある。まぁこれはマルスのせいなのだが。


 今担いでいるのは誰なのか。ノイールには皆目検討つかなかった。


 しばらく起きたことがバレないように、体が自由になるまで眠る振りを続けた。

 ふと、男が歩きながら囁いた。


「……ようやく手に入れた。」


(ようやく……?)


「……最高の処女の体が」


(な、なるほど……)


 それはつまりノイールの処女とその無垢な体が目当てであること。

 ノイールはなんとなく目的を察した。


(気持ち悪い)


 つまり、男に体を抱かれるということ。男と交わるということ。それを考えただけで吐き気を催すノイール。

 だがギリギリの所で耐え、眠る振りを続ける。いまだに体はピクリとも動かない。

 今起きたことがばれれば再び睡眠の魔術をかけられてしまう。そうなっては助かる可能性がかなり低くなってしまうのだ。

 慎重に。とは思うものの、いつこいつの目的の場所に着くかわからない。早く、早く体動けと心は全く落ち着かない。


 そんな願いも虚しく、唐突に男は歩むのを止めた。

 開かれる扉の音。濃い男の匂いが部屋に充満しているのかとても鼻が曲がりそうだ。


 ドサッとノイールの体は柔らかい物の上に投げ出された。

 思わず声が出そうになったがなんとか耐える。


「ふふふ……待ってろよ、すぐ準備してくるからな」


 そう言って男は奥の扉に入っていった。

 今がチャンスだ!とは思うものの全く体が動かない。

 魔力だけが体に関係なく動かせそうだが生憎ノイールは攻撃系の魔術を覚えていない。

 四苦八苦しているうちに男が部屋に戻ってきた。全裸で。

 二度見してしまい思わず目が合ってしまった。少しの間、沈黙が続くがノイールが動けないことを悟ったのか男はニヤリと顔を歪ませる。


「あぁ、かわいぃ。なんてかわいいんだ。」


 準備してあったのか置いてあった縄でノイールの手足を閉じないように大の字で固定し た。

 そしてノイールの体に覆いかぶさるように四つん這いになった。


(近い近い近い!!)


「ごめんね、少しの間だけ我慢してね。すぐ良くなるから」


 男の手がノイールの体へ移る。

 覚束無いがゆっくりとノイールのコートを剥がし、上着をも剥がす。

 下着のみになったノイールに男は鼻息を荒くさせる。目は血走り尋常じゃないほど興奮しているようだ


「だめだっ、うっ」


 そう言って男は小刻みに震えた。同時にノイールの太ももに何かが不着した感触。

 ノイールはそれが何かを知っている。


(気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!!)


 振り払おうと手足に力を込めるがまだ僅かにしか体が動かない。


「なんていう魔性の体だ……見るだけで迸ってしまったよ……でもこんな物じゃ終わらないよ」


(終ってくれぇえ!!)


 遂に男は上の下着に手を掛ける。

 気持ち悪さに鳥肌が立ち寒気がしたため、膨らみの先もプクリと立ってしまった。

 それを男は見逃さない。


「おぉ~感じてるのかい? かわいいねぇ」


(え……感じてる……?)


 そして下の下着を遂に剥がした。


「ふ……ざ……」


「あぁ~綺麗だよ。なんて美しいんだ! とても美味しそうだ!!」


 男の言う通り感じたのか。

 そう思ってしまった瞬間ノイールの心は羞恥と怒りに染まる。


「け……な……」


「ん? やっと可愛い声が出るようになったかな?」


「ふざけるなぁぁああああ!!!」


 全身に魔力を込める。体が動かないからって闘気を纏えない訳ではない。

 膨大な魔力を怒りに任せて闘気へと変える。すると体が燃えたぎるような白い炎の魔力の渦が部屋を荒らし尽くす。


「な! なんだこれは! すごい! すごいぞぉ! まるで天使だ!!!」


 体が動かないのならば魔力で体を動かせばいい。そう直感で出来そうだと思ったノイールは自分の信じるがままに魔力を操る。


「さぁ天使よ! 続きを楽しもう!!」


 拳を振る。たったそれだけでいいのだ。魔力を細かく動かし男の顔面に狙いを定める。

 憎たらしい顔がノイールの顔に近づく。

 それと同時に一気に拳を叩き込んだ。


 パァン!!と弾ける音。耳につんざく破裂音。

 それと同時に真っ赤に染まる視界と顔が濡れた感触。

 胸から下に伸し掛る生ぬるい男の首が無い体。。


「ひっ……!」


 悲鳴をあげようとしたノイールだが闘気の集中が切れたことにより全魔力が四散してしまい魔力切れを起こし、幸か不幸か意識が途絶えてしまった。






「………………ル……!」


 ノイールの耳に僅かに呼ぶ声が聞こえた気がした。

 

 誰かがノイール腕を掴む。

 蘇るのはあの男に触られた不快な記憶。

 女の体のノイールへと向けられた欲の矛先。

 それはとても気持ち悪く、男であったノイールにとって耐え難い屈辱だった。


「……ール……!」


 誰か知らない男の手が再びノイールの肌を這う。

 ノイールの意識が僅かばかりに目覚めた瞬間、先程のおぞましい記憶と重なってしまった。


「ゃ……めろー!!」


「ぬぉっ!!」


 咄嗟に掴まれてる腕を振り払い拳を叩き込む。その拳で吹き飛んだ男は壁の方へ飛んでいった。

 だが聞こえてくるのは聞きなれた声。

 壁の中から這い出てきたのはよく見知った顔だった。


「父さん!?」


「ゲホッゲホッ! 大丈夫かノイール」


「いや父さんの方こそ大丈夫!?」


「何ともないわいこれぐらい。相手がワシで良かったぞ」


「うん、ほんとそう思う。殴ってからかなり焦ったもん」


 もし他の相手なら咄嗟にガードも出来ず、受け身すらとれなかっただろう。

 しかも割と強く殴ったから怪我じゃ済まなかったかもしれない。心の底から安堵したノイール。

 そしてふと気が付くと、ここが先程の男の部屋じゃなく見たことが無い部屋に居ることに気がついた。


「父さん、ここは?」


「……ここは騎士団の治療所だ。本望ではないが回復し次第お前の身柄を一旦拘束しなければならない」


「……あの男の事……か……」


 思い出すだけで鳥肌が立つ。腕をさすろうとしたら自分が入院用の寝間着を着せられていることに気が付いた。


「父さん、俺どれくらい寝てたの?」


「丸1日は寝ておったな。血まみれだったお前の身体に何の傷もなくて安心したんだが……なかなか起きなくて心配したぞ」


「そっか……ありがとう父さん」


「早速で悪いが、詰め所に来てもらおう。……すぐ帰れるから安心しろ」


 ノイールの眉間に皺が寄ったことに気づき帰れることを告げるハンス。だが、


「ごめん、違うんだ。その……漏れそうなんだ」




 用を済まし、案内されたのは騎士団のとある部屋。

 部屋の中はテーブル1つと向かいあうように椅子が1組のみ。

 奥の椅子に1人の男が腰掛けていた。茶色い髪に釣り上がった目、歳は40程か。とても威圧感がある。


「掛けてくれ」


 指し示された椅子にテーブル越しに向かいあうように座るノイール。


「私は騎士団三番隊隊長のカシムだ。君はハンスさんの息子、のノイール君でいいんだよね?」


「はい。間違いありません」


「噂は聞いているよ。女の子になってしまったとか。まぁそれは置いといてだ。」


 こちらを探るような瞳が向けられてノイールはたじろぐ。こういう目つきは苦手だ。


「ニコライル=ユーギルを殺したのはお前か?」


 名前を聞いてピンと来なかったが、多分あの男のことだと確信する。


「名前は知らないが確かに俺が殺した」


「……そうか。では殺した動機、理由を聞かせてくれ」


 あの晩の事は思い出すのも嫌だがそうも言ってられない。殺人を犯したのだからそれ相応の理由が必要だ。

 深い溜息を1つ履いた後、ゆっくりと思いだすように言葉を紡ぐ。


「エレノさんの家からの帰りに睡眠の魔術を掛けられたのがやつとの出会いだった。抵抗することも出来ず気が付いたら肩に担がれて運ばれていた。そしてあの部屋に連れていかれ……裸にされて犯されそうになった。」


 歯を食いしばりながら状況を説明するノイール。心中はあれ、俺って男だよな?と複雑な心境だ。


「そして、体の自由が聞かないから“闘気”を纏って、なんとか体を動かしてアイツの顔面に抵抗したら……あんなふうになってしまった……」


 闘気という言葉にカシムの眉がピクリと反応するが下を向いていたノイールは気が付かなかった。


「そうか……。実はな、ニコライルの部屋から手記が見つかってな、君への恋情をこれでもかと書かれていたよ。見るか?」


 徐に差し出された分厚い紙束には細かい文字で何かが書かれていた。一見、詩のように見えるそれはよく見るとノイールを見つけたことが運命の出会いと書かれており、その後は気持ち悪い程の妄想羅列が所せましと詰まっていた。


「これは……」


 思わず絶句してしまうノイール。女性からでさえこんな熱い感情を向けられたことは無いのに、それが男からなんて考えたくもない。


「それらにも書いてあるとおりニコライルは君を監禁し、洗脳でもするつもりだったのだろう。だから今回の事件は正当防衛ということで君への無罪が決定された」


 被害者なんだから当たり前だろ、と反発しかけたが素直に頷くだけに留めた。


「不幸中の幸いか、ニコライルには親族はおらず、遺族から訴えられることも無い。もし遺族が居て彼の死体を見た日には……君は相当な恨みを買っていたかもしれない」


 ノイールも自分の家族が加害者だったとしてもそのような殺され方をしたら恨まない自信はない。


「まぁだからと言って黙って犯られてろとは言わない。ただもう少し方法があったのではないかと君に覚えていてほしい」


 別の方法。あの状況で? ノイールは考えるが闘気を纏って体を動かすのでさえ一か八かだったのだ。そんなものあるはずがない。


「また今回のようなことが起こらないとも限らない。なんせ君は理想の“女の子”なんだろ? 自衛する手段をいくつか持っておくといい」


 嫌味たらしく女の子という部分を強調してくるカシムにムッとするノイール。

 ノイールが好きで女をやっていないことを分かった上で言ってきているので相当に腹が立っている。


「わかりました、以後気を付けます」


 そのぶてっとした返答に思わず顔が綻ぶカシム。反応が面白くてついついからかってしまった。カシムを知る者が見れば普段そんな事をしない彼に驚くことであろう。


「気を付けてくれ」


 ただ、これは嫌味だけでなく本当にノイールの見を案じての発言だった。小さい頃のノイールをよく知る彼は、娘を持つ父親としてこのような事はが起こって欲しくはないのだ。




(自衛か……)


 帰り道、重い足取りで家を目指す。考えるのは先程言われたこと。

 確かにカシムの言う事は間違いでは無い。まだ何時こんな事件が起きないとも限らない。

 だがノイールは認めることを拒んでいた。自分が女となり正犯罪のターゲットになるなんてことを。

 けれどもうそんな悠長なことは言ってられないのだ。


(どうやって……?)


 ノイールは剣の腕に自信がある。正面切って戦えば負ける気は無い。だが今回のように不意打ちの、それも一撃で戦闘不能になるような攻撃をされると例えノイールでもひとたまりもない。


 魔力の感知だって闘気を纏っていないと反応が分かりにくい。爆発等の攻撃魔法であれば咄嗟に闘気でガードすれば良いが今回のように睡眠や他にも麻痺、毒などの魔術を使われると咄嗟に防ぐことが出来ない。


(父さんに相談してみるか)


 家に帰って父の帰りを待ってから相談することを決め、今日も今日とて晩御飯を四人前作るノイールであった。


R-15指定していますがそれでも引っかかるようであればご指摘お願いします

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