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願い事は正確に  作者: トランスし隊
5/11

5話 依頼受諾☆

 母さんが死んだのは俺が5才のときだった。

 父さんは母さんはあーだったなぁ、こんなことしてたなぁと俺に同意を求めるように話してくるので頷いてはいるけれど、本当のこと言うとほとんど覚えていない。

 覚えているのは優しかったこと。大好きだったこと。そして、死んだこと。

 母さんは本当に優しかった。覚えていない俺が言うのもおかしいけど1度も怒られたことがなかった。負の記憶は残りやすいというけれど俺の母さんは常に笑顔だった。だからずーっとそばから離れなかったらしい。本当に大好きだった。

 そんな母さんが死んだとき、俺は泣いて泣いて挙句の果てに失神してしまったらしい。相当心に負担がのし掛かったんだと思う。

 神観の夜は寝ずに母さんを生き返らせてと何度も頼んだ。3回、つまり3年お願いしてみたけどやはり母さんは生き返ることはなかった。そのときは神を恨んだけれど7年経った一昨日の夜には恨みは忘れていたみたいだ。


 もう母さんがなくなってから10年。昼過ぎに町の外れにある母さんの墓標に足を運んだ。母さんの好きだったマリーゴールドの花をたっぷり添えて一昨日の報告をしていた。




 母さんごめんね、母さんが産んでくれた体じゃなくなっちゃった。俺の欲望のために神様にお願いしたら罰が当たったんだね。この前、今度は彼女連れてくるねなんて言っちゃったけれどあと1年以上は延期にするね。でもさ、本当のこと言うとさ、俺の理想の女の子を見ちゃったというかなっちゃったわけどさ、これ以上の理想の女の子なんて現れるのかな?なんて思っちゃってるんだよね。正直俺の理想が更に高くなりそうで怖いかな。ほんと罰当たりだよね俺。

 けどさ、神観の願い事って叶うんだってわかってからさ、もう一度母さんを生き返らせてって頼みたいんだ。また失敗かもしれないけど可能性がある限り俺がやってみたくて仕方ないんだ。だからさっきの1年以上ってのはもっと伸びるかもしれないね、ごめんね。まぁ俺としては先にマルスが恋人連れてきてほしいと思うんだけど。

 じゃーね、また来るね、母さん。


「母さん……」






「お前、泣いてんのか?」


 振り向けばマルスがいた。なんでこんなときに!

 涙を袖で拭い、キッとマルスを睨んでしまう。


「……泣いてねーし」


 正直今は会いたくない。一人になりたかった。泣いてるのを見られたくなかった。


「いやすまん、兄さんに聞いたらここじゃないかって言うからさ。」


 父さんめ、余計なことを……


「で、何の用」


 マルスは何もしてないのに冷たく当たってしまう。ごめんなマルス。


「これといって大きい用はないんだけど、あれだ、今日はギルドの依頼見に来ないのかなって」


 仕事か。マルスは基本的に俺と依頼を受ける。何故かと言うと冒険者をしてるやつらは1ヶ所に居続けることが少ないため平気で裏切る奴が多い。とんずらこいたり報酬や発見物を横取りしたり。

 親族だから裏切る心配がないし魔術師であるマルスは、剣を扱う前衛の俺との相性がいいのでほとんど一緒に仕事していた。


「ごめん、今日は行かない。何か良さそうな依頼があったら明日教えて」


「そうか…………」


 あんまり顔を見られたくないので母さんの方に向き直り気持ちを落ち着かせる。

 なんかださいな俺。






 しばらくしてマルスも居なくなっただろうと思ったときだった。


 不意に後ろから包み込むようにマルスに抱き締められた。


「なに……この手」


「いやなんか、泣いてる女の子を放っておけなくて」


 今なんつった?……泣いてる女の子?


「くそ……くそ……!!俺を女の子扱いすんな!!!俺は男に戻るんだっつってんだろ!!!家族にそういうのされるのほんと腹立つ!!何なんだよ!!!今まで通りにからかって笑えよ!!!優しくすんなよ!!!」


 気付いたらまた大粒の涙が流れ出してしまった。


「何で俺はこんなに女々しくなってんだよ!!!こんな自分も腹立つし他人にそこを突かれるのはもっと腹立つ!!!!」


 ほんとださい俺。


「離せよ!!!」


 無理矢理ほどけば簡単に手を振り払えたはずだった。

 けど何故かしなかった。どうしてかわからないが嫌じゃなかった。マルスも離そうとはしなかった。


「なんで……!なんで……俺……、お前の手が今は、心地よいんだよ……なんで……」


 認めたくなかった。心まで女になったみたいで自分が消される感じがした。


「ノイールはノイールだ。今の女のお前もノイールだ。……それに、泣き虫なのは昔からだぜ?」


「わかんないよ……!なんでそんな簡単に切り替えれるんだよ!?」


「それは……それはお前の理想が"守ってあげたくなるような女の子"だからだろ?守ってあげたくなたちゃったんだよ。お前の不安を消し去ってお前の笑顔が見たくてしょうがなくなっちゃったんだよ。少しはお前にも責任はあるんだからな」


「なんだよそれ……俺のせいだってーのかよ……」


 そうか、俺の理想の女の子に心までもがなってしまったのか?


「自分でお願いしといて勝手に自分で振り回されてたのかよ……ほんと恥ずかし」


「兄さんも言ってただろ?ノイールはノイールだ。俺はお前を家族、今は姪、いや妹のような感じか、妹として愛している。」


 愛しているって面と言われるとものすげー恥ずかしいな。やめろよ!こっちみんなよ!


「か、可愛い!照れてるのか?」


「う、うっせ!わかったから……手ぇ離せよ」


「お、おう、すまんな。元気が出たみたいでよかったぜ!」


 マルスといると調子狂うな。


「ふぅ……俺が妹、か。少しの間だけならそれも悪くはないかもな」


 ならマルスが兄貴、いや兄さんか?なんか似合わないな。


「姉さんはいらないけど妹なら大歓迎だぜ!!」


「マーサさんに言うぞ! おにいちゃん!」


 なんてね。照れるなこれ。


「」


 マルスが固まってしまった。口をパクパクさせながら何かを呟いている。


「も、も、も、っかい………………もっかい言って!」


「嫌だね。調子に乗るな」


「お兄ちゃんって言って!!」


「うるさい言わない」


「ほら早くぅ!カモーン!」


「喋れないように喉突くぞ」


「やれやれ、ツンデレな妹だグェッ!!」


「調子に乗るな」


「ヴ、ヴヴガ~(のどがー)」


「はぁ、ほんと調子狂うわ……」


 それでもなお喉を押さえながら涙目でお兄ちゃんって言ってとまだ訴えてくる。歳が14も上だけどこの馬鹿を見ていると、くよくよしていたのが馬鹿らしくなる。

 いつまでもウジウジしていても仕方がないし、仕事してこようかな。


「ギルドいくよお兄ちゃん」


「お、おう!お兄ちゃん行きます!」


 扱いやすいのか面倒くさいのかよくわからないけど、一人で仕事受けるのも厄介事が多そうだからこのままマルスと一緒に仕事し続けよう。

 





 ギルドに着くとやはり様々な視線が突き刺さってくる。見られるのは慣れていない為少し躊躇してしまう。が、そんなものは気にしてても仕方ないので掲示板と睨めっこする。

 マルスと俺が最近受けているのは害獣討伐系か行商の護衛依頼が多い。

 農作物の他に人的にかなり大きな被害が被る害獣の大量発生は農民とギルドからも報酬が出ることが多いので割りと見返りが大きい。それに知り合いが殺されたりするのは許せないため害獣討伐依頼はいの一番に受けて迅速に狩りに行く。

 行商の護衛依頼は都心部へと何日も掛けて護衛するため、報酬が割高でまとまったお金が手に入りやすい。それにホコモで手に入らない物が各地方で買える楽しみがあるのが凄く嬉しい。武具屋で高級品を見るのも男の嗜みだ。


 ざっと掲示板を見て回っていると1つ気になる依頼があった。


  ターニルミトラの花を取ってきてください


  依頼内容

  息子がターニル病になってしまいました。

  東に山を二つ越えた先のグルッタ湖にあるというターニルミトラの花を10房取ってきてください。

  町の医者に、もってあと1ヶ月と言われてしまいました。時間があまり残されていません。


  報酬内容

  報酬は高くないかもしれませんが家にあるものは何でも持っていっても構いません。足りないのであれば私の体でお支払いします。どうかお願いします。息子を助けてください。


  依頼主

  エレノ


 ターニル病とは風邪に似た症状から始まるが次第に全身に力が入らなくなり2ヶ月ほどすればピクリとも動けなくなってしまい死に至る恐ろしい病気だ。唯一効くのがターニルミトラの花煎じて飲む方法な為にターニル病と言われている。


 グルッタ湖か……急いで片道5日。すぐに花が見つかるとは思えないので採取に2日。合わせて12日程か、急げば間に合うな。

 何よりこの報酬は依頼主が危ないだろ……危険な輩は絶対に体も要求するに決まっている。


「おいノイール、エレノってドワキスの嫁さんだったよな?」


「あぁ、そうだったはずだな」


 旦那のドワキスさんは2年前に護衛依頼中に運悪く野盗に強襲され命を落としてしまった。発見したときには獣や鳥に食われ見るも無惨な姿になっていた。

 ドワキスさんは面倒見が良く、同業者である彼には昔からお世話になったりもした。仇をとるため盗賊討伐にノイールも参加し盗賊団を殲滅させた。しかしそれでドワキスさんが戻ってくるわけでもなく、胸の心の隙間は埋めることが出来なかった。

 盗賊団討伐に成功し彼の遺品を持ち帰ってエレノさんに渡した。彼女は泣き叫びながらありがとう、とお礼をしてくれた。なんと声を掛けたら良いのか分からないノイールはその後エレノさんとは疎遠になりがちになってしまった。ただ彼女には息子が居たため彼女の希望の全てを失ったわけではなく今も一生懸命女手ひとつで育てている。


「エレノさんを、息子を助けたい」


 迷うものはない。


「あぁ、ノイールならそう言うと思ったぜ」


 掲示板からその依頼を引っぺがそうとするが、届かない。こういう場合は届かない女の子を周りが愛でたりもするんだろうが俺は違う。自慢の脚の足首だけで軽く跳び、依頼書を掴み取った。どうだ俺の自慢の脚は。

 すると周りから響めきがあがった。


「「「うぉお~」」」

「いいぞ嬢ちゃん!」

「パンツはくろグェッ」


 余計なことを言いそうになっていた獣族の闘士に木のコップを投げつけておいた。失念していた、今はスカートなのだった。

 見渡すと全員が俺のスカートを見ていた。いや、スカートの奥に見えたものを目に焼き付けているのか。


 とにかく構ってられないので依頼書を受付のお姉さんに提出する。


「ご利用ありがとうございます。えっとノイール……くん?」


「くんですよ男なので」


「失礼しましたノイールくん、こちらの依頼を受けるということでよろしいですね?」


「はい、頼みます。ちなみにターニルミトラの花ってどんな花かわかります?」


「少々お待ちください。」


 すると彼女はカウンターの下から図鑑のような物を取り出した。


「…………えーっとー、ありました、花弁は紫色で背は低く独特の匂いがあるそうです。水が澄んでいる泉や湖に生息するそうです」


「ありがとうございます。それでは時間もあまり残されていないのでいってきます」


「旅の無事をお祈りします」







 旅支度にも慣れた二人はさほど時間も掛かることなく用意を済ませ、遅い昼食を取ってから出発した。

 ただ違うとすればノイールの着替えが少し増えたことだろうか。いつもより鞄がパンパンだ。

 基本的に食事は現地調達だ。保存食を予備に1日分程持ち歩く程度なのだが胃が小さくなったノイールの保存食は少なめだ。


 おしゃべりなマルスが居るため意外と道のりは飽きない。他愛もない話をしながら、時折お互いを小バカにしながらひたすらに歩く。だがスピードは緩めない。

 グルッタ湖へは山を二つ越えるため通りに町や村などない。普通は山を遠回りして合流地点の村などで休み休み行き、片道10日以上は掛けて行くのだ。

 少し時間が経つと舗装された道もなくなり、冒険者や猟師などが使う獣道のみになった。

 ノイールは今スカート姿なのだがマーサさんが用意してくれた太ももまである靴下が意外と厚手で硬めなため丈夫で、尖った枝に擦ったぐらいでは傷1つ付かなかった。







 周りが鬱蒼と茂ってきて太陽の光が届きにくくなってきた。

 今はこの場に俺とマルスしかいない。のはずなのだが。明らかに尾行してくる気配がする。

 この獣道であまり音を立てずに尾行してきたのだから相当な手練れか。


「だれだ!」


 不意打ちを食らいたくないので敵をあぶりだす。

 だが返事は返ってこない。面倒だ。


「だ、だれかいるのかよぉ」


「あぁ、数は多くないと思うけど尾行されてる、殺気を感じるから殺る気みたいだ」


 何が目的かわからないが非常に面倒だ。


「マルス、あそこの枝が3つに分かれてる木の裏に魔術は放てるか?」


 距離は凡そ100メートリか。


「あ、あぁいけるぞ。山火事になったら困るから土の魔術でいいな」


「うん、頼む」


 マルスは深呼吸し集中すると詠唱を始めた。魔力の流れが感じれるノイールはそれがどの程度の範囲と威力なのかが分かる。分かるが故に焦った。


「土の神よ精霊よ、我の魔力を糧に我に力を与えたまえ、グランドダッシャー!」


 すると目標とした木の周囲50メートリが爆発が起こったように轟音を立てて巻き上がり、木もろとも土や石、岩に至るまで垂直に飛んだ。まるで土の中から爆発が起こったような魔術だ。チラホラと腕が欠けたり2つに分かれたりしている人のような姿が見えたが岩などの自由落下によって揉みくちゃにされ地面に着く頃には更にミンチになっていることは明白だった。


「や、やりすぎだろ!あれじゃ誰が尾行してたかわからないだろう!」


「す、すまん、怖くてつい全力出してしまった……」


「ついって……」


 マーサさん以上に弟のマルスの魔術は威力が高いのだが、こういう土壇場や焦っているときなどは周りが見えなくなってしまう。彼の仲間だった奴らも魔術を何度も食らいそうになり仲間割れを起こしたそうだ。


 暫くして土煙が晴れるとそこは小さな山になっていた。ただ土を被せたような形になっているので違和感ありまくりだ。

 今のを直撃して生きてるとは思えない。さすがの俺もあんなの闘気を使わないで食らったら生きてる自信がない。


 尾行の何が目的か分からなかったがもう聞くことも出来ないので仕方なく先を急ぐことにした。





 土煙のむこうに鋭い視線を一瞬感じたが見渡す限り誰も居なかった。生きているわけない、とあまり考えずに歩を進める。

 この事が後に事件を起こす原因になろうとはノイールは知る由もなかった。




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