4話 やっぱ俺は可愛い☆
唐突だがこの世界の魔力について説明しておこうと思う。
魔力はこの世に生を受けている動物と一部の植物のみが魔力を宿すことができる。その魔力値は千差万別で常人で低級魔術を10回ほど使用すれば疲労困憊になり、歴史に名を残す者は天災級魔術を幾度も使用し勇者あるいは魔王と呼ばれ常に争いの中心に存在していた。
種族による魔力値の比は獣族<ドワーフ<人間<魔族<エルフとなっている。だが勇者または魔王と呼ばれるものはこの限りではなく魔族で勇者と崇められた者もおれば獣族で魔王と恐れられた者も居た。
なぜ獣族が魔王になれたのか。獣族等の魔力が低い者は魔術に頼らず己の体を鍛え上げ技を磨き死地を潜り抜けた猛者は"闘気"という技を身につける。これは己の中に流れる僅かな魔力を魔術により放出せず、血や筋肉、骨、皮膚など体の隅々まで魔力を循環し肉体を強化する。体の中で魔力を循環するために魔力が減ることはなく、一度この技を身に付けた者は延々と闘気を纏うことが出来るが、集中力が欠如すると気が乱れ纏った魔力が四散してしまう。
闘気は獣族に限らず闘気を纏うだけの素質や鍛練を積めば使用することが出来る。生半端な鍛練では到底到達することが難しく己の命を掛け勝利してきた者の中で極一部の者だけが闘気の芽を開くことが出来る。
ノイールは14歳の頃に闘気を纏うことに成功していた。
元から魔力が低めで小さい頃から剣だけを磨き、12になる頃にはその剣は父を超え、遺跡の迷宮にも何度と挑戦してきた彼は自分の体に流れる魔力を感じとりそれを闘気に変えることに成功した。
その力は格段に以前より強化され闘気を纏った拳は大岩に穴を空けるほどだった。
闘気の凄さはそれだけではなく、魔力の流れを感じ取れるようになったことにより魔術師が魔術を放つ際の魔力を読み、何処に魔術を放つかわかるようになった。身体力の強化よりこちらのほうが効果が大きい場合もある。対低級魔術師での戦闘なんかは一切当たらず防御することもなく難なく魔術を避け一方的に攻撃することが出来た。
闘気の力は凄まじかった。凄まじいが故にノイールはこの力に溺れないようにと自重した。命に関わる場面以外で人前ではこれを自分で禁じた。闘気の鍛練は朝の素振りの時のみ行うことにしていた。
朝早く起きることが習慣づいているノイールは今朝も父よりも早く起き、顔を洗って早々に鉄剣を持ち素振りのために庭へ出た。
今日も闘気の鍛練を行うべく体に流れる魔力を闘気に変える。
以前と同じようにしたつもりだった。一部の魔力をまず闘気に変え、徐々に魔力の量を増やしていき最終的にほぼ全ての魔力を闘気に変えてその常態で素振りをするつもりだった。
なのにこの溢れる力はなんだ。
以前と同じように総魔力量の10分の1程を闘気に変えたつもりだったが、その常態でもう以前の全力の闘気を優に超えていた。見た目的にはそんな変わりはないのだが溢れでんばかりの闘気が渦巻いているのがわかる。まるで早く全力を出してみろと。
やってやろうじゃないかと最大の魔力を闘気に変えてやった。
全身が白く輝いた。膨大な魔力を練りに練って圧縮した、その濃度は眩い光を放つだけの濃さになり魔力が視覚化したことによりその色は神々しいまでの白さだった。
「な、なんじゃこりゃー!どうなってるんだ!?」
全身を皮膚の上からさらに覆うように闘気が重なりあい透明な鎧のように見え、その肌への接触が不可能なのではないかと錯覚する。だがそれはただ魔力をノイールの体に纏わせただけのものであり、その肌へ触れることは容易なのだがノイールの身体能力の爆発的な向上により彼、彼女が接触を拒めば不可能に近いのかもしれない。
「この体になったことで魔力が増えたのか?」
幼げながら美しく魅力的な今のノイールの体は常人より魔力が10人分以上はある。それに以前の男のときのノイールは常人の半分程だったこともあり、ノイール個人としては数十倍も上がったのだ。
それに加えて毎日鍛練してきた彼の闘気の技術はかなり高い位置にある。線密な魔力操作により全魔力を″練り″″圧縮″する技は獣族でも一部の者しか出来ない技だ。それを彼は15歳の若さにして会得した。ノイールは戦闘の天才なのかもしれない。
しかし当の本人が傲慢することなく己の肉体のみで闘ってきた。それにより剣の腕も相当な高さであり、彼が闘気を使い全力で戦えば小さな戦争なら彼1人のみで蹂躙出来る。かつて歴史に名を残した勇者や魔王と匹敵するほどに。
それを自覚してかしないかノイールはこの力を恐れている。
触れたもの全てを壊してしまわん圧倒的な力を人に向けるのが恐いのだ。
気付いたら力んでいたらしく鉄剣の柄が曲がっていた。
この力をノイールは更に恐れる。人がこの剣のように気付いたらポキリと折れてしまうかもしれないのだ。冷や汗が止まらない。
しかしノイールは剣士だ。己の強さの限界を知りたいし高めたい欲求もある。だから彼は鍛練をやめない。
意識を集中するため自然体になり、膨大なおかげで練りづらくなった魔力を更に練り圧縮し練っていく。これを繰り返すこと半刻、集中が途切れないように意識しながら限界まで圧縮した闘気は先ほどとは比較にならないほどの濃度だ。
以前よりも扱いが難しくなったことにより、一瞬気が緩んでしまった。
集中が途切れると闘気が四散してしまった。
散りゆく闘気はまるで花が散りゆくようだった。
今日はここまでかと切り上げた時だった。建物の影にマーサが居た。
こちらを凝視していた。目線が合うとニヤァっと笑いながら近づいてきた。……嫌な予感しかしない。
「ねぇねぇ今のなぁに!?ノイールきゅんが白く光るし手から白いのが出たらにょいーんて伸びるしなんなの!?」
大分最初のほうから見られていたようだ。
「えっとー内緒にしてくれるなら教えます」
「内緒?内緒!内緒にするからさぁ!」
どうも怪しいがまぁ見られてしまったのだ教えてしまうか。この人しつこそうだし。
「魔力を体に纏うことで"闘気"というものになるのですがこの体になったことで魔力が増えたみたいで全力の闘気の常態では光ってしまうようでした。闘気というのはご存知ですよね?」
「えぇ知っているわ!かつての獣族の魔王ウルファンが闘気を使えば小さな町は一瞬にして滅びると聞いたことがあるわぁ。ただウルファンの闘気は恐ろしい程深い黒だったそうだけどノイールきゅんのは白かったわよ?」
「そうなんです。僕にはわかりませんが、種族によってか又は個人によって違うのでは無いかと思います」
「ノイールきゅんは白くてまるで天使のようだったわぁ」
「もう一度確認しますけど誰にも言わないで下さいね?」
「わかったわ!私とノイールきゅんだけのヒ、ミ、ツ!」
「ありがとうございます。では支度をしてバカを起こしにいってからマーサさんのお店に行きましょうか」
「えぇ、ノイールきゅんのために徹夜で色んな服を用意したからぁ楽しみにしててね!」
その言葉に多少の不安は残るものの、彼女の店は若い子達に大変人気でセンスはいいのだ。
汗を流しにきたノイールだったが風呂場の鏡の前で固まってしまった。昨日も一度自分の体を見たのだがやはりこの体は美しい、と見惚れていたのだ。
色んなポーズを取って堪能したいが昨日の事件を忘れてはならない。
樽に魔術で湯を張り、樽底の小さな穴達から湯が流れる。
湯が頭から顔を通り胸に滴り大きくカーブを描きながら落ちていく。腰まである髪は体に張りつき美しい体のラインを強調させる。
「我ながら、エロい……」
理想は妄想であり妄想は際限がない。際限なく妄想したこの体は容赦ないほどノイールのエロスの塊だ。
頭を振り、邪な考えを振り払い石鹸で全身を洗っていく。
だがやはり陰部も洗う際に躊躇してしまう。昨日トイレでした失敗を思いだし、優しく痛くないように洗っていく。
だがそっと触れる度に体は小さく跳ねていく。得たいの知れない感覚に不安になりながら丁寧に隅々触れていく。
ツルリと毛が生えていない下腹部は石鹸のお陰で痛くなく洗うことが出来た。でも手が止まらなかった。
「くっ、んっ……」
手が動く度に跳ねようとする体を抑え、優しく洗っていく。
ふと鏡を見ると下腹部だけやたらと泡立った少女の裸体が目に入った。知識だけは豊富なノイールは気付いた。これは自分を慰める行為だと。
だが止まらない。
ノイールの手は誘導されるように穴の周辺を執拗に洗う。まるで穴に入ろうか入らないか迷っている人のように。
意を決した指先は穴から頭だけを除かせてみた。
「いった!!!!」
激痛だった。
弄ばれ慣れていない少女の穴に入れてしまったのだ。当たり前である。
我に帰ったノイールはあまりの痛みに血の気が引き、泡ごと痛みを消すように湯で流した。
またやってしまった……と彼は後悔した。昨日の今日でまたこれだ。
風呂場から出てさっき着ていた服にさっさと着替えて出掛ける準備をする。
父は夜回りだったらしくまだ帰ってきていないため朝食も食べずにマーサを呼ぶ。が実際は先程の行為で食欲が失せたので作らなかっただけだ。
「マーサさん、準備いい?」
「いいけど、ノイールきゅん髪の毛濡れてるよ?」
「自然乾燥でいいよ、もういこ?」
いこ?の言葉に何かが反応したのかマーサの顔が赤くなる。
「ノイールきゅんやばかわ」
「ん?」
「なんでもない!じゃー三つ編みしてあげるからそこに座って?」
「なんで三つ編みするの?」
「後でのお楽しみ!」
訳がわからず椅子に座り、されるがままに髪を結われていく。
「はい出来た!」
鏡で見てみると今までのストレートとはイメージが違って見えてどこか上品なお姉さんのように見えた。
「着いて乾いたらほどくから楽しみにしてねぇ」
「え、これで終わりじゃないの?」
「お た の し み にぃ ☆」
何故かマルスの部屋から黒焦げになったマルスを引き摺って笑顔のマーサが出てきたが普段通りなので割愛する。
マーサの店は原色をふんだんにあしらい若者の目を引きこませる。ここは服屋だと分かるように店全体がシャツの形をしていて変わった店だ。だがやはりマーサのセンスの評判は良く、隣の町からも客がやって来るほどだ。
店に入るとやはり目がチカチカするように色んな服が規則性もなくバラバラに陳列されていた。きっちり整理されてないことにより若者達も商品を見ていて飽きないのだとか。
「ここに座って待っててねぇ」
マーサに案内されキレイな装飾の椅子に座らされた。店の窓ガラスの真ん前に座らされて通りの通行人がこちらを見てくる。ちょっと恥ずかしい。
少ししてマーサが戻ってきた。
「じゃー試着してもらうから更衣室で着替えてきてね」
そういって両手に持っている服を渡された。服なのに量が多いのかズッシリとしている。
「これ、全部ですか?」
「もちろんよ!全部水晶に記録するから安心してねぇ」
何の安心なんだと突っ込みたいが面倒が始まるのであえてスルーする。仕方ないので更衣室に入り一番上に乗せられている服から試着していく。
何気に取ったそれは非常に危険なスリットがいくつも入ったセクシーな衣装だった。下から被るタイプらしくスカートと一体型なのだがボタンらしきものがない。
着てみようとするが例に漏れずまたもや胸が引っ掛かり苦戦する。なんとか難所を通過して袖を通せた。鏡を見てみると全体的に青色なのだが光沢があるその服は、長袖でスカートも膝元ぐらいなのだが肩と胸元は露出しており脇腹とスカートの裾にスリットが入っていて肌の露出が多い。これってドレスじゃないのか?素材も高そうだし。
「ねぇこれドレスじゃないんですか?」
「ちょっと違うけどまぁそんなもんねぇ。ちょっと失礼するわねぇ」
そういって徐にカーテンを開けられた。心の準備ってもんがあるのに!
するとマーサはこちらを見つめたまま固まってしまった。そんなに見つめられると照れてしまう。
「あ、あの……恥ずかしいんだけど」
「ブフォ!?」
マーサは鼻血を噴出させて卒倒してしまった。
「だ、大丈夫ですか!?」
「え、えぇ、ノープロブレムよ、予想より凄すぎるわあなたの戦闘力」
「せ、せんとう?」
「いいえ、何でもないわぁ。それよりお願いだから屈まないで上目遣いしないで、私の血が足りなくなっちゃうわぁ」
そう言いながらもガン見してくるマーサ。目が血走ってるし鼻血ダクダクだし怖い。
椅子に座ったノイールの背後にマーサが立ち、髪の毛を解いていく。
すると濡れた常態で結われた三つ編みが、乾いてから解いた為にウェーブを描き、本当にお嬢様のようになった。三つ編みで結ったから一定の間隔でキレイに波打っている。
「凄い……こんなこと出来るんですね」
「伊達に娘は居ないからねぇ、娘も私も可愛いものが大好きなのよぉ。」
「じゃーティアラをつけてそこに座ってねぇ。記録撮るからぁ」
鼻血を出しながらも魔道具の記録水晶に魔力を送り撮っていく。
「私の目に狂いは無いわぁ。最っ高!それじゃー次の服お願いねぇ」
あれ?俺はただ服を買いに着ただけなのになぁ。と不思議に思うがやはり後が面倒そうなのでマーサにしたがい服を着替えていく。
白と黒を基調にしたゴスロリ風のドレスやシスターの修道服、赤と白が華やかに彩られた明らかに普段着ではないであろう服や、真っピンクのドレス等と共に高そうなティアラも着けられたりしてどんどん着替える。それをマーサは鼻血を出しつつ撮影を繰り返していく。最後の方には何故か水着も着せられた。
「ノイールきゅん、私、血が、足りない」
「あの、俺は普段着が欲しくて買いに着たんですけど……」
「あら!そうだったの?てっきりおめかし用の服が欲しいのかと思っちゃったわぁ。ごめんなさいね。で、どんな服をご所望なの?」
「えっと一応剣士なので動きやすくて丈夫で可愛い服がいいかな。」
「ふ~むぅなるほどぉ、どれどれぇ、ん~、お、これなんてどうかしらぁ」
そういって取り出したのは先程のゴスロリ風の服に似ているが少し違っていて黒と紅が基調で可愛いさの中に格好良さが際立っている服だった。下はフリフリを抑えて動きやすそうなスカート。太股まである長い靴下も渡されている。サイハイソックスというらしい。
「へぇ、いいねこれ」
「でしょ~、最っ高に似合ってるわぁ!」
う
「似たようなの何着かと部屋着を何着か下さい。あと折角なので先程の服もいただきます。」
「お買い上げありがとうございますぅ、見繕ってるから待っててねぇ」
さすがマーサさんだ。俺の理想の子がもっと可愛くなったぞ!っても俺が可愛くなっちゃ本末転倒なんだけど。
その時、部屋の中に魔力が流れるのを感じた。
すかさずその者の背後に瞬時に回り込み襟首を捕まえる。
「おい、いつこらそこで撮ってた」
「さ、最初から……ですごめんなさい」
こいつの存在を忘れていた。マーサが引き摺って連れてきたんだっけ。
「つーことは俺の……水着……見た?」
「おう、最高だったぜ!」
よし、記憶を無くしてもらおう。何の躊躇いもなく鳩尾に膝蹴りをお見舞いしてやるとマルスの体は一瞬宙に浮き受け身もとらずにドサリと落ちた。記録水晶は握りつぶしておいた。
普通に見ていれば何もされなかったであろうにコソコソ隠れて撮るからだ。
まぁ自分は最高に可愛いくて巨美乳だしなその気持ちもわかるぜとナルシズムに浸るノイールだった。
無事?に買い物を済ませたノイールは大荷物を抱えて楽しそうに帰路につく。隣でお腹を押さえながら着いてくるマルス。
二人の美男美女が楽しそうに歩く光景は、父娘と見えるか恋人と見えたか。噂好きのおば様方は目をキラキラさせながらいけないものを見てしまったかのように井戸端会議に花を咲かせるのだった。
ドレスむつかしい