3話 寝込みは襲うな☆
来年の神観までほぼ1年ほどの期間がある。とりあえず、それまではこの体だ。
背が低くなり、肉付きも減り骨も細くなった。その代わり体の肉が胸に取られてるんじゃないかってぐらい胸は大きい。
だが、何故か出せる力は変わらなかった。鉄の剣も盾もいつもと同じように持ってたことをさきほど思い出した。
ただ、この体に変わったからといってノイールのやることは変わらない。今日も今日とて晩御飯は作らねばならないのだ。何故ノイールが作る事になっているかというと、少し複雑だ。
母さんは俺がまだ5才のときに亡くなり、その時初めて父さんの料理を食べたのだがトラウマになるほど不味かった。父も自分の料理の才能のなさに気づいたのかそれからは大体外食が多かった。
けれど、父は夜回りなど夕方から明朝の時間帯にいないことも多かった為ノイールが6才になる頃には簡単なものは自分で作れるようになっていった。そのおかげか火と水の魔術は使えるようになっていた。
そろそろ晩御飯の時間なのだがハンスは寝込んでいたノイールをずっと看病していたようで食事の準備等はまだのようだ。
ということでノイールは台所に立っているのだが、先ほどから後ろからの視線が鬱陶しく感じて眉間に皺が寄り始めた。
(気になるなら声を掛ければいいのに、気づかれてないと思ってるみたいだけど気づいてるんだよ。まぁ確かに可愛くはなったけどさ、俺が愛でるために神様に頼んだんだ。愛でるのは俺だけだ!)
気になって料理に集中できないのでトゲトゲしく声を掛ける。
「マルス、何のようさ」
声を掛けられると思ってなかったのかビクッと肩を持ち上げて泳ぐ視線をゆっくりとノイールに定める。
手には魔術本があり、いかにも魔術について勉強中らしい。なのだが本の文字が逆さまだ。見ていないのがバレバレ。
「いやぁ、なんつーか新鮮でさぁ!若い女の子がご飯を造ってくれているのなんて初めてじゃないかな?新婚みたいだね!だはっ!」
「だれがお前となんか結婚するか!それにマルスの分なんか作ってませんけど?うちに帰って食べれば?」
「な、なんだって!!!う、うそだぁ!!」
膝をつき、頭を抱えている。本気でショックを受けているようだ。
まぁ冗談なんだけどね!さっきの恩もあるし結構凝ったものを作っている最中だ。
「けれど優しいノイール君は食べさせてあげないこともないよ?」
そう言うと天使でも現れたかのようにパァッと笑顔になる。子供みたいだな。可愛いやつめ。
「ただぁし!条件がある。俺は突然昨日から1年間は絶賛女の子中であり、何も用意がしてないのであります。つまり着るものが全くないのです。」
最後まで聞き話の内容を理解し、俺が何を言い出すか悟ったようだ。みるみる顔が青ざめていく。
「ま、まさか!おまえ!マーサのところへ連れていけというのか!!!」
「正解!!あ、もちろんお金は自分で出すからね。安心して」
「そういう問題じゃねーよ!あいつは……あいつは…………、悪魔なんだよ……」
「何言ってるんだよ、お前の姉で父さんの妹だろ」
そう、俺の叔母にあたるのだ。本人の前で叔母なんて言った日には死を見るが。
「確かに、服のことに関してはあいつが適任だろう。けどな、俺はあいつが苦手なんだよ……」
「なんで?またおママゴトで女の子の服を着せられるから?」
「言わないでくれ!!やめてくれ!!!」
あちゃー本気でトラウマなんだな。それでも小さいときの話なので克服していそうなものなのだ。とは思うがマルスをいじるのは面白い。
すると視界に父さんじゃない第三者が現れた。これは……くくく。
「えっとー、要約するとマルスはマーサさんをどう思ってるの?」
「……ワガママで暴力的で何かイラつけばすぐ魔法を放ってくる最悪の……最悪の悪魔だ!!!」
ボキボキボキッ
と指を鳴らす音が部屋に響き渡る。
「だぁーれがワガママで暴力的で天才的な魔術師で悪魔だってーー!?」
マーサ が あらわれた
「ヒッ!!!ぁ、ぁ、で、出たーー!!!!!」
「あ、外でやってねー」
「待たんかこらぁー!!」「いーやーだー!!!!」
そう言ってマルスとマーサは出ていった。マルスの逃げ足も大したもんだがマーサの逃げ道を無くすように追いかけるのも熟練技だ。
二人は何だかんだこうやって毎回追いかけっこをしている。今みたいに俺が嵌めたり、マルスの空気の読めない発言で喧嘩するのだ。空気の読めないことに関してはピカイチだ。
さて、邪魔物はいなくなったし、晩飯を作ってしまおうと、再び台所に向き直し今煮立てているものが焦げ付かないように掻き回す。
今日の晩御飯はビーフシチューオムレツだ。
さきにバターを溶かし小麦粉を炒めてブラウンソースから作る本格仕様だ。結構手間なんだよね、これ。
父さんの収入は良いほうだし俺も稼いでいるから食材などの購入には困らない。それに出来れば美味しいものを作りたいので料理には拘るほうだ。
すると、匂いに釣られてか父さんが台所に顔をだした。珍しい。
「お、今日はシチューか、うまそうだ。」
そう言って鍋に手を伸ばすがそれを叩き落とす。
「まだだめ。一番美味しいときに食べさせるから父さんはあっちで待ってて!」
「むぅ」
父さんの腰を押し出し、新たな邪魔者を追い出した。
今日は客が多いなーなんて思いながら作っているとマーサさんがマルスを引き摺って帰ってきた。マルスの服があちこち燃えカスになったように見えるが気のせいだ、うん気のせいだ。
マーサさんはスッキリしたのか満面の笑みでマルスをドスッと降ろし、鋭いヒールでサクっと踏みつける。
マーサの見た目は明るめの茶髪で背が高く割りとキレイめな顔立ちだが優しそうなタレ目をしておりいつもニコニコしている。さらにボンッキュッボンである。ぱっと見30代前半に見えるが年齢は聞いたことがない。というより聞いたら面倒が始まりそうなので聞かない。
「あらぁ~ノイールきゅん可愛くなっちゃって~!男のときのノイールきゅんも好きだけど女の子のノイールきゅんも素敵だわぁ~!」
「マーサさんも素敵ですよ」
「あら嬉しい!ギューしていい!?」
「どうぞって言う前にいつもしてるじゃないですか」
言うか言わずかのうちにマーサはノイールに抱きついた。
男のときもそうだったがこの人は抱きついた手でまさぐるようにノイールの背中やお尻や耳を触ってくる。
現に今もお尻を触ってくる。両手で。
「あ、あの、マーサさん、くすぐったいんですが」
「あぁ揉み心地最高だわぁ。しかもお尻に力入れながらヒクつかせてるの萌えるわぁ。萌え殺されるわぁ!」
こうなってしまってはノイールには止めようがなかった。彼女が満足するまで離してもらえないようだ。
ふとマーサさんの背中越しにマルスと目があった。とても羨ましそうな目でマーサを見ていた。残念ながらマルスとなんかギューしませんよーの意味も込めてアッカンベーしといた。すると何故か彼は余計に顔を赤らめていた。うわなんだこいつ変態か!
「匂いもいいし髪の毛に埋もれたいわぁ。あぁ最っ高ぉ」
姉も相当変態だ。昔からこの人はこうだった。
けれど彼女には旦那と幼い娘が二人いる。以前、優しそうな旦那さんの前でハグされたときはかなり焦った。青筋立てながらニコニコしていたなぁ。
なんて思っていると やっと解放された。彼女はいつも以上に満足したみたいでツヤツヤしていた。
「いやぁ、若い子っていいわぁ。お姉さんが頂いちゃいたいぐらいよ?」
するとマーサの後ろから横やりが入る。
「ノイールは俺のだ!誰にもやらん!」
「死ねボケ!だぁれがマルスのもんだ!この可愛い体は俺自身のもんだ!」「そうよ!てめぇなんかお呼びじゃねぇんだよ!ノイールきゅんは私のもんよ!」
いや貴女のじゃないですからとツッコミをいれるも都合の悪いことは耳に入らないようだ。
歯を食いしばりながらこちらを睨むマルス。まだ言う気かこいつ。
しかしノイールには奥の手があるのだ。
「もう一度言ったらマルスの晩御飯はぬk「ごめんなさい!」
フフンちょろいもんだ。
しかも今日の晩御飯は彼へのお礼も込めて彼の大好物のビーフシチューオムレツだ。今日のマルスはノイールに逆らえない。
「さぁさぁもうすぐ出来るからあっちいけ!あ、マーサさんもよかったら晩御飯どうです?」
「頂きたいのは山々なんだけどねぇ、今日は顔を見に来ただけだからご飯食べてったら旦那に怒られちゃうわぁ」
「そうですか、それは残念です。」
そう言うとマーサさんは帰りたくないのか手と手を絡ませてくる。なんかこれ卑猥だ。
話を逸らすべく明日の事について用件を話す。
「えっと、そうだ!明日お店に服を買いにいきたいんですけど開いてますか?」
そう、マーサは服屋を営んでいるのだ。しかも若い子には結構な人気らしい。
するとマーサがパァッと笑顔になったかと思うと次第に不敵な笑みになっていく。
禍々しいオーラが錯覚して見えるほど危ない笑顔。
本能が危険を察知している。これはやばい!
冷や汗が滝のように滲み出てくる。マーサのこんな姿は初めてだ。
男のときに礼装を仕立てて貰ったときはボディタッチがちょっと多いだけでいつもと大したこと違いは無かった。
だが今のこの目を合わせられないほどの強烈な熱い視線はなんだ。同じ人間かを疑いたくなるほど禍々しさだ。
「あ、ちょっとやっぱり明日はようじが「そういうことなら任せて!明日の朝早く迎えに行くから待っててね?」
ガシッと肩を捕まれて獲物でも捕まえたかのように舌なめずりをしながらノイールの目を見つめてくる。
「待 っ て て ね ?」
更に力が入っているのかノイールの肩にめり込んでくる。
痛さなんかよりもマーサの恐ろしさに押されてノイールは頷くしかない。
それは頷いたのか怖くて震えているのか判別が難しい程に細かく震えていた。
「じゃあ私は帰って明日の支度してくるからねぇ!じゃぁねノイールきゅん!今夜は徹夜だわ!」
そう言うとマーサは一目散に帰っていった。
やっと帰った……と失礼ながら思ってしまった。
マルスがトラウマになるのも頷ける。彼は小さい頃より彼女の玩具だったようだし、仕方ないのかもしれない。
マルスのほうを見ると彼はトラウマが発動したのか部屋の隅っこで縮こまりガクガク震えていた。
そんなマルスを見るとノイールは同情してしまったのか彼の肩を叩き励ましてしまう。
「大丈夫かよマルス。もうマーサさんは帰ったぞ。ほらお前の好きなビーフシチューオムレツが待ってるぞ!」
「ビーフシチューオムレツ!食べる!!」
マルスは踊るように台所から出ていった。フフンちょろいもんだ。
それからノイールは手際よく料理を作り、あっという間に食卓に料理が並んだ。
「いい匂いだ。さすが俺の息子だ。料理の天才だな」
「兄さんの料理の才能は間違いなく受け継がれてないね!」
「はいはいいいからさっさと食べよう」
「いただきます」「いただきます」「いただきます!」
食事の合図が始まるとまるで早食い選手のようにマルスは飯を掻き込んだ。
美味しそうに食べてくれるのは有り難いんだがもう少し味わって食べてほしい。
見てほしい。このとろけるような牛肉を。玉ねぎの甘さがくどすぎず赤ワインが香りを引き立て、ジャガイモに至っては丁度ホロッとしてきて口の中で芋の甘さが広がり酸味のあるシチューを優しく包んでくれる。半熟玉子が混ざりあって舌触りが最高だ。我ながら至高の1品だと思う。
「ちゃんと味わって食えよな。おかわりは沢山あるんだから」
「うん、おかわり!!」
「はやっ!話聞いてる!?」
と言いながらもきちんとおかわりをよそってやる。子供を相手にしているみたいなんだよなマルスは。
オムレツは一応もう三人前作ってあるし、シチューは明日の朝の分も作ってあるので足りるとは思うのだが、この掻き込み方は半端ない。
ノイールも食べ始めたのだが半人前食べたところでギブアップしてしまった。体に比例して胃も小さくなってしまったのだ。
食べるのが遅くなったのに気付いたのかマルスがノイールのお皿をちらっちらっと見てくる。おかわりならあるのに。
「マルス、残りでいいなら食べる?」
「もちろん食べ「ワシが頂こう」
マルスが受けとる前にハンスが皿をかっさらっていった。
「ノイールとの間接キスがぁぁ!!」
それが狙いかよ。気持ち悪い。
「誰にもノイールは渡さん」
「いや俺は男に戻る予定だし誰にもやらねーし」
それからも賑やかな食事は続き、気がつけばマルスはおかわりを全て平らげていた。
全部で4皿分は食べたことになる。ノイールの8倍は食べたのだ。
当のマルスはさすがに食べすぎたのか椅子から一歩も動けないでいた。
「う、動けねぇ。ぅ、動いたら出そうだ」
「食べすぎるからだよバカみたいに」
ノイールの腹は落ち着いてきたので、皿についた食べ残しが乾く前に皿を洗うべく食器を片付け始めた。
それをマルスはニヤニヤしながら見てくる。またかこいつは。
「次またさっきと同じようなこと言ったら腹を蹴るからね。全力で」
「お前の全力の蹴りって食べたものだけじゃなく内蔵まで出ちゃいそうで怖いわ!!!でも今のその細い足で蹴られるのもアリかも……」
だめだこいつ相当変態だわ。
もう相手にもしたくないのでシカトを決め込みさっさと洗い物を済ませる。
屋外に汚れた食器をだし、水と火の魔術を合わせて熱湯をぶっかける。汚れが浮き始めたらタワシと石鹸で汚れを落とし、さらに底に穴を空けた大鍋に熱湯を注いで簡易シャワーで濯ぎキレイにする。
他の家庭は濯ぐだけとか米の磨ぎ汁で洗うとからしいのだがノイールは几帳面でキレイ好きなためヌルッとした皿や包丁などは我慢ならないのだ。それに前食べたご飯の匂いや味がしてせっかく美味しく作ったご飯が台無しになるのが許せないのだ。
片付けも一段落したのでノイールは調理で余ったリンゴの皮で作ったアップルティーをコップに注ぎ一息いれる。
やっとゆっくりする時間が出来たようで深いため息が出てしまった。
今日は色々ありすぎた。さすがのノイールも疲れてしまった。仄かに甘いアップルティーがそれを癒してくれる。至福の一時だ。
気が緩んでしまったのかノイールは自分の二の腕を枕にしてテーブルで寝てしまった。
そこに野獣が現れた。マルスは寝ているノイールを見つけ何を思ったのか周りをキョロキョロしだした。ハンスがいないのを確認すると忍び足でノイールの寝顔を覗き見た。
「か、可愛い……」
長い金色の睫毛は閉じられている瞼でさえ可愛い。柔らかそうな頬っぺたは触り心地が良さそうでつい触りたくなってしまいたい衝動に刈られる。寝息を立てる度に小さく動く唇はとても愛らしい。まるで人形を見ているかのようだ。その可愛さ故にマルスは思わず囁いてしまった。
「ん…………んぅ…………すぅ……」
マルスは寝ているノイールに安堵してまだ観察を続ける。
ふと視線を体にやれば小さな体に不釣り合いなたわわに実った2つの果実が目にはいった。自分の二の腕を枕にしていることで横を向いた体はその大きな胸を自己主張し、胸の小さな先端が服を押し上げ情欲のなかに可愛らしさが目立つ。
それよりも衝撃的なのは襟から見える谷間だ。その深い谷は何人も深さを知ることは出来ず服の隙間から見えそうな胸の頂上は雲の上の山頂の如く夢見る景色を与えてくれる。胸の尾根へ続く曲線はもはや芸術である。
その神秘的な頂きへ触れてみたいと思うのは正常な男なら誰しもが思うであろう。マルスもまたその中の1人だ。
甥だし大丈夫だよな、と訳のわからない言い訳を口走っていた。
恐る恐る伸ばす手は胸を鷲掴まんとするかのようにワキワキしている。
手のひらが先端に触れるか触れないかだった。
「おいこら」
「ぁ」
ノイールが起きた。寝ぼけることなくまずマルスの腕を掴み捻ると体がフッと浮き1回転した。するとものすごい轟音を立ててマルスの体はテーブルを突き破り床に激突した。
「お前死ぬか?」
「ヒィーッ!」
ノイールの目が赤く光ったかのようにギロリとマルスを睨みつけ、手刀で彼の股間部分を切りつけた。するとキレイにズボンの股間部分だけが切れ、中の棒がチラリと見えた。
「次は中の物ごと切るからな」
「」
返事がない。どうやら失神してしまったようだ。
まったく。なんだってんだ。漸く休めると思ったらこれだ。
失神している馬鹿を放置して部屋に戻り確りとカギを閉めてからノイールは今度こそ寝るぞと布団に入るのだった。
絶賛絵柄コロコロ!