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4.ホットスタートにもほどがある

G M:キャラメイク終わったね? じゃあ、自己紹介から行きましょう。

リュナ:リュナです。種族はもちろん人間、女性。魔術師中心に頭使う系のジョブと、少し斥候系の技もかじってます。出身はナジェドの北端にある港街、アルバです。

G M:大陸との交易の玄関口だね。

リュナ:はい。うちは両親が行商から身を立てまして、アルバの街でお店を持っていました。港街だし、輸入品も扱ってる感じで。

G M:それで商人生まれね。どんなお店ですか?

リュナ:髪飾りとか化粧品とか、ちょっと贅沢な小物の商いをやっていたんです。お金持ちの奥様とか、下級貴族のお嬢様とか、そこそこ裕福なお客さん相手の商売ですね。

G M:じゃあ、リュナもお嬢様なのかな?

リュナ:お嬢様というほどではないです。自分もお店で働いてましたし。でも、そういうお客様相手の接客ができるくらいには教育を受けさせてもらってました。

G M:それが冒険者になったきっかけは?

リュナ:火事があって、両親が亡くなってお店も焼けてしまいました。

G M:ほうほう。

リュナ:お店の再建も考えたんですが、建物も在庫もほぼなくなってしまったので、この機に冒険者になろうかなあと。よく商品運搬の護衛を頼んでいた冒険者のパーティに最初の手ほどきは受けたってことで。

G M:魔法はどこで習ったの?

リュナ:あ、そうか。ナジェドには魔法学校はないんですよね? ええと、教育を授けてくれた学者さんが大陸から渡ってきた人で、魔法を知っていたので、それを習ったってことにしていいですか?

G M:じゃあ、それでいきましょう。一般人のジョブは持っていますか?

リュナ:装粧品そうしょうひん専門の商人と、代書屋のジョブを持ってることにしました。行商人上がりの両親は普段の帳簿は付けられても役所に出す書類なんかは苦手で、正式な教育を受けた私がそのへんは代わりにやってた、という設定です。

G M:ふむ、了解です。リュナはアルバを離れるのは平気ですか?

リュナ:問題ないです。というか、一応土地と商業権は相続しちゃったので、うっかりするとそれ狙いの人が寄ってきそうな気がしなくもないです(笑)

G M:遺産狙いの遠い親戚とかね(笑)

リュナ:です。それが煩わしいこともあって、冒険者になると言って旅に出ます。

G M:じゃあ、さっき言ってた馴染みの冒険者たちが連れ出してくれて、アルバを旅立ったところから……ホットスタートでもいいかな?

リュナ:望むところです。



    ◆◆◆



 リュナです。

 もしこのセッションの開始がリプレイ小説だったらこんなところかしら。

 すみません。つい現実逃避をしていました。

 二十一世紀初頭の日本人だった私は飛行機事故で即死し、若さゆえの痛さ満載の自作TRPGシステムをモデルにした異世界に生まれ変わることになりました。生まれ変わりました。

 というか、気づいたらセッションというか、冒険者人生始まってました。これ以上ないほどのホットスタートです。

 気がついたら、私はリュナとしてアルバから出港し、一度乗り換えてハブールという都市へ向かう船に乗っており。

 そして、その船はというと。


「荷物を左舷に集めろ! 少しでも傾斜回復だ!」

「脚、脚を挟まれた! 誰かっ」

「『炎の矢(フレイム・アロー)』! もう、全然効いてないわ!」

「倒さなくていい、時間を稼ぐんだ!」


 ――幅十メートルはある巨大ガニに乗り込まれそうになっています。


「リュナちゃん、そっちは!?」

 傾いた甲板上で短槍を振るい、上がってこようとするカニを突っつきながら、パーティリーダーの戦士ベニートさんが私を案じる。

「私は大丈夫ですから気にしないで! カニに集中してください!」

 攻撃魔法をほとんど習得していない私は、パーティの魔術師のポーリンさんと手分けして身体強化系の魔法をみんなにかけた後は、船員さんに協力して脱出の準備にあたっている。

「痛い! 痛い! 脚があぁ」

 崩れた船荷に下敷きになって脚を挟まれた乗客のおじさんが騒いでいる。

「じっとして! 今どうにかしますから!」

 膂力りりょくはたいして高くない私だが、知識は前世からの分を含めてそれなりにある。荷物の下にその辺の棒(砕けた船の一部)を差し込み、テコの原理で持ち上げた。それだけ騒ぐ余裕があるなら大丈夫だろうと思っていたがやはり大きな怪我はしていないらしく、自分で這い出してくる。挟まれてさほど時間は経っていないようなのでクラッシュ症候群の心配もなさそうだ。

「た、助かったよお嬢さん、おかげで……」

「何よりです、ボートを準備していますからひとまずそっちへ」

「あ、ああ……」

 おじさんがよれよれとボートに向かったのを確認して私は周囲を見まわ――

「ひゃっ」

 ――したところで、また船が揺れた。とっさに姿勢を低くして持ちこたえる。

 カニがハサミを振り回したのだろう。

 ――あのカニ、いったい何レベルあるわけ? 装甲点いくつよ?

 私は内心で状況の理不尽に突っ込んだ。中堅レベルの戦士が三人と魔術師が全力で打ちこんで、びくともしないなんて。

 前世の私はモンスターのデータはあまり作っていなくて、例のノートにもこの怪物カニは書いてなかったはずだし、生まれ変わってリュナになった私の知識にもない。けれどどう見てもこれは十数回のセッションで構成されるキャンペーンの中ボス、下手したらラスボスのクラスだ。間違っても中堅程度のパーティ、ましてや私みたいな作成直後のキャラクターの前に出す敵じゃない。

 GMがいるセッションなら、だ。

 まともなGMは、「プレイヤーキャラクターがどんなに頑張っても勝てないに決まっている敵」を出したりはしない。もちろん、将来の宿敵として顔見世イベント的に登場させる、といったケースはままある。だが、最初からキャラを破滅させるための戦闘を起こすなんてことは、普通のGMは絶対にしない。

 ただ、それはあくまでTRPGというゲームの中での約束事だ。今私が生きているのは現実で、駆け出し冒険者が、本当に偶然(・・・・・)、古代のドラゴンに遭遇して手も足も出ずに殺される可能性だって決してゼロにはならない世界だ。

 まあ、あの神様はひょっとしたら、私に対してはGMとしていろいろ運命を調整してくれているのかもしれないが。

 試してみる勇気はないけどな!


「っあ、俺の得物が!」

 この声はトラドールさんだな。剣が折れたか。

「トラドールさん、とりあえず使って!」

 私は腰につけていた短剣を抜き、さっきの棒にしっかりと結びつけて即席の槍を作ると、甲板を滑らせる。トラドールさんはそれを足で受け止めた。

「助かる!」

 彼の得意武器は長剣だが、無いよりはマシだし、短剣をそのまま渡すよりは長柄武器の方が巨体相手にはやりやすいだろう。甲羅を鈍器で殴るのも有効そうだけど、予備武器のメイスは船室の荷物の中だ。

 船の下層に向かうための階段は半分以上水没している。とても下りていけそうにはない。

 最初に大きく船が傾斜したとき、船室部分に大量の水が入ってしまっていた。その上、傾いたままじわじわと浸水しているようだ。私が見ている前でも、どんどん階段の水位が上がってきていた。

(『水中呼吸』の呪文が使えれば良かったんだけど……)

 身体強化系の呪文だが、前提レベルやら何やらの関係で初期キャラの私には習得できないし、ポーリンさんも使えない。

「こりゃあ無理だな」

 指図を飛ばしながら駆けまわっていた船長さんも言った。やはり浸水状況から判断したのだろう。

「あのカニ、どうやら船底に割れ目くらいは入れてくれやがったみてえだな」

 倒すことは無理と最初から判断していた。どうにか海にお引き取りいただければ万々歳だったが、残念ながら沈没は時間の問題のようだ。

「船は諦めるぜ、嬢ちゃんも早いとこ退船しな」

 そして、どうやら下層の船室に取り残されたほかの乗客も……いや、今は深く考えないことにしよう。

「おい冒険者さんたちよ! あんたらもボートに乗ってくんな!」


 故郷を離れる最初の旅からこれですか。

 ――GM、ホットスタートすぎます。

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