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3.ゲーム開始

 私が死にそうに(死んでるけど)なりつつ相談した結果、生まれ変わり先はこのサンプルキャラの設定は踏襲して、でもデータは新規作成でいこう、という話になった。

『ちょっと強めに作るといいよー。せっかくだから。能力値ポイントも適性ポイントも最大値で支給するね。種族は人間でいいよね?』

 私のつくった世界にはエルフやドワーフのような異種族は、いることはいるが超レアで、ほとんどおとぎ話の中の生き物とみなされているという設定だ。通常、プレイヤーが操作するキャラクターとして選択することはできない。このサンプルキャラも人間だ。まあ私は、実際にTRPGをプレイするときには選べるときにも大抵人間キャラを選んでいたし。

『通常の作成ルールなら、ルーツから。ロールオアチョイスだけどどうする?』

 ルーツには六種類あって、生まれつきの能力値と技能の向き不向きが、ある程度ここで決まる。原則として六面ダイスを一個振って決定することになっているけど、パーティ全員が脳筋とか全員がモヤシ、とかになっても困るので、GMが認めれば自分で選択してもよい、ということになっている。現実にプレイするとしたら、選択する場合が多くなるだろう。

「魔法使いやりたいから……でも、せっかくだから振りたい気分」

 ダイスを振らずして何がTRPGか。脳筋な重戦士タイプになってしまったらどうしようかとは思ったが。

 そういうと、どこからともなく現れた六面ダイス。

 いっころ(ダイス一個を振ること)すると出目は四。

『四でいい?』

 ちょっと考える。

 出目一と二は戦士や格闘家に向いたタイプだ。特に一はどうやっても前衛しかできないような構成になる。

 五と六は魔法使い向け。魔力極振りになる代わりにちょっと段差から落ちたただけで死にそうな六と、多少はマシにしてある五。

 三、四はその中間のバランス型だが、しいて言えば三はどちらかと言えば軽戦士や射手、四は魔法使い寄りだ。

 私としては魔法使いメインのキャラをやりたいんだけど……五あたりにしておくべきか、このまま四の方がいいか……。

「GM、ポイントっていくつ?」

 創造主(ついGMと呼んでしまったが)に質問してみた。

『どっちも十八あげる。ちなみにいつもは2D6、たまーに、百年にひとりくらいには3D6にしてあげることもあるよ』

 2D6とは六面ダイス二個、3D6は三個振るという意味だ。

 2D6だと出目七の人がいちばん多くて、最大は十二だ。百年にひとりの3D6の、最大値の十八にしてくれるというんだから本当に破格の待遇だ。

「じゃあこのまま四で」

『ほい。次は能力値ポイントね』

 能力値は七種類あり、ルーツによって決まる初期値にGMから支給される能力値ポイントを足していくことで決定する。

 私がTRPG処女をこじらせてノートに書きつづっていたシステムでは、これは最初は一率2D6だった。最低値の二から最高値の十二までかなりの幅があり、ダイス運によって初期キャラの能力に相当の差が出ていた。

 実際にTRPGを遊ぶようになると、この仕組みでは同じパーティ内で活躍できるキャラクターとできないキャラクターの差が出過ぎてしまったり、それが原因で仲間同士でギスギスしたりする可能性が高いことに思い至るようになった。実際、私のいたサークルでもその手のトラブルはごくたまにではあるが何か月かに一度は必ず起こっていた。

 なので、プレイグループの趣味や目指すプレイスタイルによって調整してもよい、と変更していた。例えば「6+1D6」とか「一律十点」にしたり、特に強いキャラを作って強い敵を出して遊びたいときは3D6や「12+1D6」にするといった感じだ。

 ルーツの出目が四なので、「体力」と「膂力りりょく(腕っぷし)」は低めというか一般人の平均より下だが、魔法使いとしては打たれ強い方だ。このままにしておく。

 狙いの正確さや手先の器用さに関わる「精密性」は……初期値だと一般人より心持ち高いくらい。武器攻撃は主眼に置かないので十分だろう。これも加点不要、と。

 魔法の発動成功率や威力の判定、知識や記憶に関わる「知力」に思い切って十点を足す。これで2D6の期待値七を知力全振りにしたルーツ六のキャラクターより知力が高くなった。

 四点をいわゆるMPの算出時に使用する「精神力」に追加。

 二点を「敏捷性」つまり素早さとか身軽さを表わす能力値に加点する。冒険者になるのなら、身のこなしが軽くて困ることはない。

 最後の二点を「直感」に振る。これは勘のよさとか、ちょっとしたヒントでピンとくるとか、そういった能力だ。私のルーツはもともと直感高めだが、さらに強化した。不意打ちに気づく判定にも使用するので、ある程度の数値は確保しておきたいのだ。

『渋くていいね』

「そう?」

 普通は七点前後のところを十八点なんだからその時点でかなり「はしたない」とか「大人げない」とか言われるキャラメイクになってるはずなのだが。

『敏捷とか直感を重視してるところがね』

「うん。魔法だけだとやっぱりね」

 魔法火力だけを目指すなら、出目六のルーツを選択して知力に振りまくればいい。ただ、一般的にTRPG――私のシステムも――の魔法使いはいわゆる「砲台」役だけを求められるわけでははない。

 TRPGのセッションではたいてい、戦闘よりも、そこに行きつく前の情報収集や探索の時間の方が長いのだ。そしてそれが楽しみでもある。

 私のシステムもそうなのだが、TRPGの魔法使いはMPの制限が割ときつめになっていることが多い。魔法は基本的に、ラストの戦闘まで温存しておく必要がある。

 なので魔力全振りだと、戦闘以外がすごくヒマになる。まあ本人がヒマなだけならいいが、最後の戦闘以外は何もかも仲間任せ、という状態を自分と周囲が良しとするかだ。

 もちろん承知の上で魔力全振りのキャラを作ることもあるだろう。一緒に遊ぶ仲間が納得しているならそれもアリだとは思う。ただ、私はこれからこの世界を現実として生きるわけで。

 シナリオ内では描写されないだけで、魔法火力だけのキャラクターはおそらく戦闘以外の場面では他のみんなに面倒をかけまくっているはずだ。それでのほほんとしていられるほど私は神経が太くない。

 いや、モーツァルトとかゴッホとか、それ以外のことは何一つできませんし、やるつもりもありません! ってな生き方ならいいなのかもしれないが。私はパスでお願いしたい。

 まあそういう性格だから、現実でもフツーにしかなれなかったのかもしれないけど……うっ、深く考えると鬱になりそうだ。やめておこう。


 さて、能力値を決めたら、次は技能……の前に「ジョブ適性」だ。

 私のシステムはジョブ式とスキル式の両方を取り入れている。

 例えば剣を使う戦士をやりたければ、まず戦士というジョブを得て、それから剣という武器のスキルを取って強くなっていく、という流れだ。

 一応、経験値というコストを支払えばジョブもスキルもいくつでも取っていいのだが、ここで適性が大きくものを言う。

 適性によって、ジョブを最初に取得するときの経験値に大きな差が出るのだ。向いていないジョブを取ろうとすると、向いているキャラクターが同じジョブを取得するときと比べ、最大で五倍くらい経験値が余計にかかる。

 適性の初期値はさっきのルーツで決まった基本値に、GMから支給された適性ポイントを割り振って決まる。将来の成長を見越して調整しておくのだ。

「それにしても私……ずいぶん面倒なシステム作ったなあ……」

 噂に聞く「ガープス」ほどじゃないかもしれないが、なんでキャラメイクごときにこんなに細かい数値があるんだろう。

『まあ現実はもっと細かいけどねえ』

「うん」

 おそらく当時の私は、単純にダイスを何回か振って決まった数値だけで人間の能力や素質を再現しようとしている既存のルールに無駄に反発していたんだろう。だからキャラメイクのルールが異様に細かくなった。

 でも、キャラ作るだけで日が暮れるよ、これ。本末転倒。

 キャラメイクもほかのルールも、現実を本当に再現するためのものではない。あくまで現実を「ゲーム」としてデフォルメしたものだ。

「ゲームとして遊びやすければそれでいいのよね」

『あはは。うん。今、貴女にサイコロ振ってキャラ作ってもらってるけど、実際に世界に何かしらの存在が生まれるときは、適性とかスキルとかアホみたいに大量にあるし計算も面倒だよ。今のはあくまで一部をゲーム的に再現しただけだからね。このあといろいろ複雑なところはこっちで処理するけど……』

 どうせ現実を完璧に再現するなんて無理な話なんだから(そもそも我々人類、現実のアレコレを解き明かしているわけじゃない)、まあそのへんは創造主にお任せしよう。私はあっさりとうなずいた。

「細かいところはGMにお任せします」

『任されました。いい感じにしておいてあげるよ』


 ルーツ四の適性の基本値は魔法使い寄りの器用貧乏気味、という感じ。

 十八点を割り振って調整すると、生まれながらの魔法使いだが斥候にも適性を持つ、という印象に変わった。

 魔術師をメインにジョブを三つほど取得し、スキルも取る。初期経験値をちょうど使い切った。あ、装備を忘れずに買わないと。

 魔法の媒体に、一応護身用の短剣。

 ロープにナイフに保存食……背負い袋とウェストポーチ。マントも買っておこうかな。あ、明かりも確保しないとね。重い鎧が要らないから、たいていランタンは魔法使いが買うことになるんだよねー。

「よし、おっけー!」

 できたキャラクターシートをGMに渡す。さっと見て彼はうなずいた。

『キャラ完成だね、おめでとう』

「ありがとうございます」

 白い空間が、さらに白くなっていく。目の前の神様ことGMも、私の体も見る見るうちに白い靄がかかったようになって、見えなくなっていく。

『じゃあ、はじめよう』

「よろしくお願いします、GM」


『こちらこそ。せっかくこっちに来たんだし、――――楽しんでね』

 うん。それはもう。

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