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  作者: 晴美
6/9

1.5m

男目線

「××駅~××駅~この電車は終点・・」


はっとして目が覚めた。

××駅?マジかよ!!


終電に飛び乗ったまま、居眠りをして駅を2つほど飛び越えたようだった。


帰ったら1時超える・・・絶対やだ!!


慌てて閉まりかけのドアに手をかける。


はぁ・・


さすがに限界か?ここ数日泊り込みで仕事をしていた。


上司の説教にイラ立っていたせいもあって、‘風邪引いた’って言って来週いっぱい有給もらってやろうか?と、走りながら悶々と考えた。


角を曲がって、マンションが見えてくると不思議と気持ちが落ち着いてくる。


ふと思い浮かんだのは、ある女の子の笑顔だった。


「ま、いっか・・」我ながら単純だと思いながら、コンビニの明るい蛍光灯に、初めて会った日を思い出していた。



その日も同じように寝過ごして××駅で慌てて降りた帰りだった。


30分かけてとろとろと歩いてマンション手前の角を右に曲がる。


光に誘われる虫のように、夜食の調達にコンビニへ立ち寄る。


入ってすぐレジに目がいった。


「ですから・・その・・身分証を・・」

店員は困ったような顔で目の前の女の子に断りを入れていた。


眉間に皺を寄せていた女の子は無言で踵を返すと、俺の横を凛とした表情で立ち去った。


未成年・・?


でもこんな時間だし・・一瞬だけ職業病とも言える行動をとりそうになって、止めた。


俺はカゴを掴むと真っ直ぐガラスケースに向かった。


無骨にビールを6本突っ込んで、適当に弁当と乾物を入れてからレジへカゴを置く。


対応し始めた店員にタバコの番号を告げた。

なんで俺の銘柄はこの番号なんだろう・・最初知った時はびっくりした。


「えっと110・・110ばん・・うーん、と・・。」連呼するなよ!!イラつく。


言われた番号を数えるように探す姿は、疲れきっている体には多重ストレスだった。


もう、無理、限界!!


「あー、もう全部適当に入れていいから。オジサン、早くして!!あと、袋ちょうだい!」


ちょうどの金額を払った俺は、レジに集中している店員を尻目に、缶ビールを自ら袋詰めしてコンビニを出た。


本当に微かに店員の声が聞こえた気がして一度だけ振り返る。


「ありがとう~ございました~」


いいえ!!どういたしまして!


そう、叫びたいくらいだった。


ふぅ・・


新しい空気に当てられて少し冷静になると、八つ当たりして悪かったかな・・と少しだけ思った。


早くビールにありつきたいと思いながら、エントランスを足早に抜け、ボタンを押すとエレベーターが自分の部屋の階から降りてくる。


生活パターンが不規則なせいなのか、隣人はおろか同じマンションの住人に会うことすらザラだった。


空のエレベーターに乗り込んで、一人なのにクスっと笑ってしまった。


同じ階にもこんな時間に帰宅する人間がいるんだと思ったら、なんだか親近感がわいた気がしたのだ。


ようやく部屋へたどり着く。


真っ暗な玄関に投げ捨てるように靴を脱いで、部屋の電気を付ける。


ムワっとする空気に、イライラのピークが再びやってきた。


袋を持ったままベランダへ足早に出た。


缶ビールをひとつ取り出して、窓の淵において、タバコを探す。


いつもと違うふにゃりとした感覚が違和感を感じさせる。


見るとそれは白いパッケージのタバコだった。


「は?これ・・あー・・はぁ・・」


ため息と共にイライラは出て行った。


残ったのは呆れだった。


咄嗟に店員のトロい顔が浮かぶ。


「俺は黒マルって・・110・・あぁ・・」


自分が棚の置き場変更に気づかなかったのか?


いや・・もう!!いい!!これでいい!!


白いタバコの封を千切るように開けて1本取り出した。


淡い香りが鼻を掠めた。


ポケットからライターを取り出して早速火をつける。


大きく煙を吸うとフレーバーが一気に身体を駆け抜けるようだった。


「はぁ・・メンソールじゃないの久しぶりだな・・」


夏には似合わないバニラの甘ったるいタバコは、少しニガかった。


けれど、いつもより重くて、1本吸い終わるとなんとなく満足している自分がいた。


「疲れた・・」


俺は結局、誰に言うでもない独り言を吐きながら、もう一度、白いタバコに手を伸ばした。




「あれ?お前タバコ変えたの?マルボロだっただろ?」


「あぁ・・はい、ちょっと事情がありまして・・はは・・」


あれから何回かコンビニで出くわしたが、やはりあの店員のトロさは生まれつきなのだろうと思った。


俺にはヤツのことを説明することすら面倒くさかった。


「嗚呼、可哀相に・・そうか・・まぁ、大丈夫だ!まだ若いから!!」


は!?特に意味はねぇよ!!あの店員のせいだよ!!


あからさまに失恋かなにかを連想している上司に、心の中で悪態をつきながら、無理やり作った笑顔を返す。


結局あの日から俺はそのタバコを吸い続けている。


なんとなく、本当になんとなく気に入ってしまったのだ。


「あ、そうそう・・今日は早めに上がっていいから。」


「え?いいんですか??」


「今日の会議でもあったが・・例の件でこれから忙しくなるから、帰って来週に備えろ!」


「了解!お疲れ様でした。」


上司と同僚に挨拶を済ませて、いつもよりかなり早めに帰路につく。


狙っていた電車にすぐ乗れたことも相まって、俺は、今日は運がいいと勝手に思っていたんだ。


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