其の三 大和撫子、暴発 の巻
お待たせしましたやっと第三話です
テスト前なのに眠くて仕方ないです
森を突っ切るように走れば、そろそろ影宮地区に入る。
森が途切れると現れる人気のない廃村。幸い今回は、盗賊やなんかが集っているところに突撃するのは免れたようだ。前来たときなんか森を出たとたんゴロツキの集団に遭遇してえらい目に遭った…返り討ちにしてやったけど。
それにしても…この寂れ具合は異常だよ。何だか来るたびに人の気配が薄れてない?それで人の気配の代わりに…
妖の、気配。
空気が重くなっていく。妖が近い。
正の氣粒が負の氣粒を退けるように、正の氣粒も負の氣粒から悪影響を及ぼされる。負の氣粒をその身に纏う妖の近くに行けば、あたしたちも何かしらの圧力、息苦しいような感じを覚えるという訳だ。
「梅乃…!!」
妖の圧力が普通よりも大きい。強敵だ…恐らく、兵長格一人と互角くらいの。
まぁ、我が親友はそんな奴に負ける程ヤワじゃないけどね!なんてったってあの娘、普通じゃないもん!
…ズズ…ン…
「…」
ん?なんか今地響きみたいなの聞こえた…
…ズ…ドド…
やっぱり!この音…!
あたしは地響きの音源に向かってダッシュした。次第にその響きは鮮明になっていき、今や爆発音に近いものに聞こえる。
「よかった…!梅乃…!」
爆発音なんて一般の人にとっては不安を煽るものだろう。でも、あたしにとっては幼い頃から聞き慣れた音。逆に安心するくらいだ。
何故ならそれは…
「おぉ理冬!来てくれたのか!避けろ今そこ爆発するっ!!」
「梅乃ぉ!周り確認しないで爆弾は止せっていつも言って「ちゅどーん!」ぎゃーす!!」
それは、あたしの幼馴染みであるトンデモ爆弾少女の健闘を表す音に他ならないからだ。
「いっつつ…こら梅乃!危うくあたしまでぶっ飛ばされるとこだっただろが!」
固形化した正の氣粒を爆弾として使うのが梅乃の戦闘スタイル。刀や剣だけが武器として与えられるとは限らないのだ。
「全く、顔に見合わぬ男前なんだから…」
「む、それを理冬に言われたくはないな」
「んだとぉ!?」
いつもの軽口に、これまたいつものように大袈裟に反応してやれば、梅乃は振り返って優しく笑った。
「来てくれて助かった、ありがとう」
艶やかな黒髪、柔らかく桃みたいな頬に、睫毛の長いこれまた黒く大きな目をした女の子。
大和撫子と呼ぶにこれ以上相応しい子はいないとあたしは思っている。
………見た目だけは…
「んで、相手はこいつだけなの?」
ぱっと見、梅乃が相対している妖は一体のみ、しかも普通より小ぶりみたいだ。
「そうだ、此奴だけだ」
しかし梅乃はというと、喋る余裕はあるものの少々息を切らしている。見た目は華奢でも兵長として充分というに余りある実力を持つ梅乃が『来てくれて助かった』と言うなど、滅多にある事では無い。
つまり、本当に、あたしが来ていなければ相当キツい状況だったということ…!
「油断するな、理冬。此奴は…!」
「!!」
梅乃が言いかけたその途端、目の前にあった筈の黒い姿がふっとかき消えた。
「理冬!!」
梅乃の鋭い叫びが聞こえると同時に地に足の付く感覚が無くなる。
投げ飛ばされている!
妖に投げの軸にされている腕を空中で振りほどき着地すると、脚に重く響く衝撃が走った。
「こいつ…!?」
速さが普通の妖の比じゃない。普通なら一般人がギリギリ避けられるくらい、そんなに速くない筈の攻撃速度が、兵長格であるあたしや梅乃が目で追えない程になっている。
そしてちっちゃい身体のくせに攻撃が重い。着地をちゃんと決めたのにあたしの足はまだじんじんしている。
それ以上におかしなことがある。手足を持たない異形である妖に、投げなど出来る筈がないのだ。
だけど腕を解く時、あたしは見てしまった。
そこにある筈の無い、あってはならないものを…黒衣の下からぬっと伸びてあたしの手首を掴む、白い腕を…!
「怖あぁぁぁ!?ホラー!?ホラーなのか!?」
「見たか理冬!この妖、手足がある!」
「先に言えや!心臓縮んだわ!」
腕がある…つまり、普通の妖より人間に近い姿。
噂にしか聞いたことのなかった…身体を人間と同じ形に保てるだけの余剰エネルギーを持つ、強力な妖…!
「まさかホントに出てくるとはね…」
異様に速いのも、攻撃が重いのも、それなら全て納得がいく。更に、手があれば体当たりや打撲以外でもダメージを与えてくる可能性がある。
「本気でかかれよ…ってか?」
背に括りつけた、包丁を何倍にも大きくしたような形の太刀。使い慣れてすっかり手に馴染んだ愛刀だ。
柄を強く掴んで鞘から引き抜くと、先程は使う機会の無かったそれをここぞとばかりに構えた。
「…っ!やりにくいわねもう!!」
「素早くて当たらないな…」
戦闘が始まれば何よりも厄介なのが、その動きの速さだった。
梅乃の手榴弾で怯ませあたしの刀で止め、というのが正卍団でもそこそこ名を馳せる連携プレーなのだが…まず、手榴弾が手から離れた瞬間に妖が遠くに移動してしまうため当たらない。斬りつけようにも的が小さくてやりにくいことこの上ない。
「そうだ!梅乃、煙!」
「分かった離れろ理冬!」
あたしの言いたいことを即座に理解してくれた梅乃が懐から爆弾ストックのひとつを取りだし、妖に向けて投げる。妖はムカつくことに余裕こいて避けたけど、地面に着地した弾は音を立てて弾けると煙を吹き出した。
梅乃が持っている爆発物は煙幕から閃光弾まで様々だ。もちろん、用途は違えどどれも氣粒のエネルギーを凝縮して作られている。
妖の視界が奪われると共にあたしたちも妖の姿が見えなくなる訳だが、そこは腕の見せどころ。正負の氣粒の反発しあう感覚で分かる妖の位置に向け、一気に刀を振り下ろす!
…つもりだったが、突然。
「ドケ。サガ……ノ、…ル。」
爆発の残響の中、よく聞き取れなかったが低く籠った声がした。言葉のように聞こえないこともない。
「梅乃!へんな声で喋らないでよ!」
「?今のは理冬ではないのか?」
「え…」
「ソコヲ、ドケ。サガシモノヲ、シテイル。」
「!!」
こんどははっきりと言葉が聞こえた。
〈そこを退け。探し物をしている〉
そう言っている、つまり…
「うぉっ!妖が!?しゃべった!?」
「有り得ない…!妖に喋れる程の知能は無いはずだ…!」
そう。到底有り得ることではない。妖化する時に人の姿と知能を失うはずの妖が、片言ではあるが言葉を使うなんて…
「君、本当に妖?」
「ワガハイ、ハ、アヤカシ、デ、アル」
「おお!!意志疎通できたよ!」
これは凄い。
この知能は脅威だけど、時によっては話も分からず容赦なく襲ってくる奴のほうが恐ろしい事だってある。
だからこれは、妖と人間の新たな可能性が生まれたということ…!
(何というか、一人称我輩なのね…)
ちゃっかりどうでもいいことも考えながら、とりあえず会話を続けてみる。
「名前あるの?」
「ナマエ、ハ、マダ、ナイ」
「うん、どっかできいたことあるような返事だね」
まさかこいつが古典に通じているなんてことはないだろうけど。
「ねぇ、君話分かるみたいだし…ここは退いてみる気、ない?」
「ムリナ、ソウダン。ミツケル、マデハ…」
できれば人に害を与えずに大人しく帰ってもらいたい
と思って提案してみたけどやっぱ無理みたいだ。
それにしても何を捜してるっていうんだろう。人間を襲う以外の目的意識をもって行動する妖なんて…
「ム…ソノ、ハクハツ、カタナ…キサマガ、カサガケ、リト、カ?」
「え…何で…何であたしの名前を!?まさか種族の壁を越えてあたし有名人!?わお!!」
「………」
あれ、黙っちゃった。
あたしの髪色と刀の形は確かに目立つけど、妖の間にまで知れ渡るほどのことじゃないど思うんだけどな…
「理冬、種族の壁を越えて呆れられているぞ」
梅乃のツッコミが入った、その直後。
ガシュッ
「ッ!?」
「うわぁ!そんな怒んなくてもいいじゃん!」
影の凝ったような妖の身体から再び突きだした手があたしたちに向かって鋭く降り下ろされた。
地面に深く食い込んだそれは、直ぐに土から抜かれ横に薙ぐように振られる。
そしてその先に、梅乃…!?
体勢を崩して避けられない梅乃の、見開かれた目が見えた。
あたしが防ぐには遠い。
爆弾は既に尽きているようだ。
やばい。
「梅乃っ!!」
キイィィィ……ン…
梅乃は無傷だった。
呆然と妖を…妖と、その手から自分を守ったものを見る梅乃。
梅乃の前には、柔らかな白銀の光を放つ薄い物質が盾のように広がって妖の拳を防いでいる。
「理冬、氣粒の、盾か…?」
「つい出しちゃったよ…あたし、まだ、ダメなんだね…」
問う梅乃に俯きながら言葉を返して妖の方を向く。
奴は満足そうな顔で…いや、顔は無いから、満足そうな仕草で…あたしに言い放った。
「キイテイタ、トオリダ…コウゾク、イチノヒメ、カサガケリト…!!」
これまた安定の急展開ですみません
新主要キャラ梅乃ちゃん登場です
見た目に反して喋り方や戦い方は凛々しいんです
次回理冬もいろいろ新事実発覚する予定です