其の二 妖、出現 の巻
更新すごい間が空いてしまってごめんなさい!
文化祭で忙しかったんです…代休無しとかマジつらい…
そんなこんなでやっとこさ第二話です。これからも亀通り越してカタツムリ更新になると思いますがお許しを…
気配を感じて数十秒走れば、早くも妖の姿が見えてきた。するすると音もなく近づいてくるそれを見て、隊士達の間に緊張が走る。
妖の見た目を説明するなら…
色は黒。漆黒の一色。人間より一回り二回り大きい体躯に、目鼻も口も無いのっぺりした頭。身体にくびれは無く、ずるんと下までひとつながりになっている。
この国では、燭台に墨を拭いた雑巾を掛けたような、と例えられることが多い。
確かに的確なんだけど、なんか可哀想な例え…
また、外国から来た人の中には“真っ黒なシーツお化け”と表現した人も居た。
その国では、子供達が寝具を覆う敷布を被って幽霊の仮装をする行事があるそうな。しかもその仮装で練り歩いたらお菓子をもらえるらしい!(何てちゃっかりした楽しそうな行事!今度正卍団本部でもやってみようっと!)
話が逸れた。
とにかく形だけ見れば妖はその子供達の仮装姿に姿によく似ているそうだ。
つまり、ぶっちゃけ、見た目的にはダサい。
だってさ!こんなでも元は人間でしょ?もうちょっとマシにならないもんかね…と思う。さすがに可哀想だ。でもまぁ、人に近い容姿をしていたら斬りにくいし、このままの方がありがたいのかもしれない。
そういや、もっと人間に近い容姿を持った妖が居るらしいという話も聞いたことがある。
なんでも、妖が異形になるのは氣粒によって得た力を制御できない為だから、その制御を可能にする程の更に強い力があれば元の姿に近い状態を保つことができるんだと。
つまり、人型に近い妖が居るなら、そいつは今あたしたちが見ている妖よりずっと強い、ってことだ。
都市伝説のようなものだから、真偽の程は分からないけどね。できれば遭遇したくない代物だ。
しまった、また話が逸れた。
そんな妖の姿は、何度も何度も見ている筈なのに、もう怖がりもしていないのに、何故だか見慣れるということがない。
この世の理から外れたものであるからなのか、それは周りの景色と同調することなく浮き上がって見えて………忌むべきモノである筈なのに、どこか滑稽で哀しく感じる。
「皆!とりあえずここは戦わずに突っ切ってね!民家が無くなるあの辺りまで引き付けるよ!」
「了解!」
各々武器をとって、隊士達は妖の群れに突っ込むあたしに付いてきた。
正卍団には所定の武器というものが無い。だから隊士の持ってる得物は、一般的な刀から、弓、槍、鎌など様々な種類がある。
組織の効率性や経費やなんかを考えれば全員が同じものを持っていたほうがいいはず。それなのに各自の得物が違うのは…
それらの武器が各人の纏っている正の氣粒の一部を固めて作った、それぞれ世界に一つしかないものだからだ。
氣粒、そう呼ばれている物質についてはあたしたちにもまだ詳しく分かっていない。
氣粒は人智を越えた物質として大昔から尊ばれてきており、それ故完全に操ることができるのは帝都中央にそびえる山の頂上におわす皇族だけだといわれている。
知られているのは、それが物質を構成する原子のように目に見えない小さな粒であるということ、更にはかなりの高エネルギー体であるということ。
そして、それには正の氣粒と負の氣粒の二種類があるということ、正の氣粒と負の氣粒は互いに反発しあう性質を持つということ、それだけだ。
妖と接触しないように間をすり抜けていくと、後ろの隊士たちのほうから小さな叫びが聞こえた。振り向くと、新人隊士の一人が腕にかすり傷を作っている。戦に支障が出る程ではないし、大丈夫だよね。
「平気ですよ兵長!次は油断しませんから!」
案の定、彼は即座に手元の槌を一閃させ、妖の頭部…にあたると思われる部分をぶっ叩いた。ペポン!という音と共に槌がクリティカルヒットした途端、その傷口から負の氣粒が溢れ出し、拠り所を失った妖の身体が雲散霧消していく。
てか、ペポンって何ペポンって!お前の武器はピコピコハンマーか!
…負の氣粒と正の氣粒が磁石の対極のように反発しあう性質を利用して、あたしたちは正の氣粒そのものを固めた武器で妖を倒す。
倒す、という言い方には語弊があるかもしれない。正確に言えば、あるべき姿に戻す、と言うべきか。
正の氣粒が凝縮された武器でダメージを与えることによって、妖の身体からは負の氣粒が追い払われ、輪廻のサイクルに再び組み込まれて転生を遂げることとなるのだ。
だからあたしたちは、自分達の正統性を信じて戦うことができる。妖を殺めているのではなく、浄化しているのだと分かっているから。
妖が完全に塵と化すのを見届けると、あたしたちは更に速度を上げて走り始めた。予定外の戦闘で妖が集まってきてしまっている。とりあえず住宅地から離れなければ…!
ちなみにあたしたち正卍団員には、自分が纏っている正の氣粒を加工することができない。だから全ての団員は、入団と同時に、皇族のところで自分の持つ正の氣粒の一部を武器に加工してもらう。
形状の指定とかはできないから、妙な形の得物が返ってきてショックを受けている奴も時々見かけるんだけどね。
勇者!って感じのド派手なソードを渡されちゃった子とか超困惑してたし、さっきのピコハンも然り。んなモグラ叩きの如くにペコペコ音させてたら、緊張感もへったくれもないっつの!
やっと住宅地を抜け森林地帯に入ったので速度を緩めると、直ぐに周りを妖に囲まれた。数は増えているけど、あたしたちだって伊達に長いこと団員やってない。
ちょっと面倒ではあるけどこの程度ならケガすることもないだろう。
だけど問題は、時間…
「兵長!先に救援に行って下さい!こいつらは俺達が片付けますから!」
「駄目よ!あんたらと一緒に戦うのがあたしの仕事でしょうが!」
そう、今回の任務は妖と戦うことではなく、団員を助けに向かうことだ。たどり着くまでに時間がかかるのは命取り。
「救援要請出してるの、杜山兵長なんすよ!?」
「!!」
何てこと!
杜山梅乃。このド田舎な雰囲気醸す名の持ち主は、有能な兵長であり、そしてあたしの幼馴染みでもある。梅乃がてこずる程の相手なら、相当手強いと考えていいだろう。
「…自分の隊士置いて行く上官が居てたまるもんですかっ!!」
それでも、プライベートと任務は関係ない。私情を差し挟めば命に関わる仕事なのだ。
大丈夫。梅乃は強い。
そう信じてはいるけれど、今ある事情で不安定になっている親友が心配でない訳がない。
行ったきり帰って来ないかもしれない。あたしと梅乃のかつての頭領のように。
何が起こるかなど、誰にも分かりはしない。
此処は、そういう世界なのだから…!
「兵長!冷静になってください!」
「え…?」
「采配としてそれが一番妥当だから言ってるんすよ!出来ない事を出来るなんて言いません!兵長がこん中で一番強いんだから、強い敵の方に行くのは当たり前でしょう!」
「!!」
そうか。どうやら不安定なのは梅乃だけではなかったようだ。情に流されまいと頑なになってたのはあたしのほうだった。
「…ありがと、皆!じゃあ、ちょっくら行かせて貰うね!」
上官と部下の関係でも遠慮せずにモノを言い合える、そんな隊士を持ってあたしは幸せだ。
…あたしの生い立ちのせいもあってここまでになるのには時間がかかったけれど、今まで何度、この気のいい仲間たちに助けられてきただろう。
「待ってろよ梅乃ぉー!!」
叫びながら走り去っていくあたしを、隊士たちが呆れたような笑顔で見送っていた…
はい。設定の羅列ですねスミマセン。
こんなトンデモ設定にしてしまうとなかなか厳しいものがありますね。一つ学びました。
ここからどんどん人物も増えていくのでそのうち設定&人物まとめUPしようと思います。