其の一 ハイテンション少女、出陣 の巻
本編入ります!
「影宮地区三番街より救援要請有り!一体の妖!至急出動せよ!!」
「花宵地区一番街、三体の妖反応あり!一個小隊出動相当!」
「水里地区五番街、こちらは十体!!頭領一名引率のもと三個小隊出動要請!!」
慌ただしい声が飛び交う指令室。
部屋の中央に設置された巨大なモニターには地図が映し出され、その所々に赤い光が点滅している。
妖の出現を示すその点滅の位置を読み取って任務内容を叫ぶ指令係の周りには、ピリピリした空気を纏う隊士達がびっしり待機していた。
「うぶっ!山田!あんたもうちょいそっち寄りなさいよ!え?狭くて無理?あたしだって窒息しかけて、がぼっ!」
そんな中一際小さな身体で人混みに溺れながら、空気読めない叫びを上げる少女が一人。
………勿論、あたしのことだ。
「…自分で少女って言うなよ、しかも俺ら初対面だよな?…俺山田って名字じゃないし…」
うぉう!可哀想な奴を見るみたいな目を向けないでよ名も知らぬ山田(仮)!
だってキツいんだもん!周り中あんたみたいなムキムキ筋肉隊士でぎゅうぎゅう詰めってどういう拷問!?
「理冬!」
くだらないことで騒いでいると、喧騒の中を突き抜けて(…あ、喧騒作ってるのって大半あたしのせいだ)きりりとした声があたしを呼んだ。
「理冬!影宮地区の援護、任せられるか?」
人混みでもよく通るその声は、数多の隊士たちを纏め上げる頭領の一人である笠掛双充郎父さんのもの。
「りょーかいです、父さん!」
頭領の仕事の一つが、指令室に張り込んで、指令係から自分の隊に与えられた任務を各隊士の力量に合うように割り振ることだ。
指令係はモニターの監視で忙しいし、各隊士の力量なんて把握していられないだろう。比べて頭領なら自分の隊のことはよく分かっているから正しい采配が振れる。うちの父さんは特別に隊士思いだからなおのことだ。
「影宮地区は特に治安が悪いからな…気をつけて行ってこい。くれぐれも無茶はするなよ?」
隊士として、そしてあるときは娘として。いつもあたしを大事にしてくれる心配性の双充郎父さんに、あたしは満面の笑みで敬礼を返した。
「笠掛理冬兵長、及び笠掛小隊隊員、行って参ります!」
―――命を失った者の魂は、輪廻のサイクルに組み込まれて再びこの世界に転生する。不思議なことだけれど、これがこの世界を成り立たせている大事な仕組み。
しかし時に、輪廻のサイクルに入れずにさ迷う魂がいることもまた事実。
例えば誰かを恨んで死んでも死にきれないと思ったり。誰かへの復讐を望んだり。魂達の未練に悪意が混ざったその瞬間、そこには次第次第に負の氣粒が集まってくる。
負の氣粒を帯びた魂は輪廻の循環に弾かれ、この世を彷徨うこととなり…氣粒の力を得た魂はその力を制御しきれずに異形と化して、街の人々を襲うのだ。
人々はその異形を、妖と呼んで恐れるようになった。
負の氣粒の力に対抗できるのは正の氣粒だけ。産まれつきに正の氣粒を吸い寄せる体質を持ってこの世に生をうけた一握りの人間だけが妖の圧倒的な力に対抗できる。
だから、あたしたちは、妖と闘う。
それが、正の力を持つ者として、あたしたち正卍帝都衛団に託された使命だから―――
「ようーし!行っくわよ野郎共!!」
やる気に満ち溢れるあたしが天に拳を突き上げて大声で叫んだ……ら、隊士達は耳を塞いでいつもの言葉を呟いた。
「理冬兵長…ちっとは女らしくしましょーよ…」
むうっ!ちょっとくらいいいじゃんか!一回言ってみたかったんだもんこのセリフ!…というか
「誰が女の子に見えないって?あたしを女だと認めたくないってか!?あぁ゛!?」
「そこまで言ってないっすよ!うわ、ちょっ、やめっ!?兵長ぉっ!?」
………………一通り暴れ終わり、ささっと装備を整えて指令室を飛び出すと、あたしたちは影宮地区へ急いだ。影宮地区は、帝都の中心部にある正卍団の本拠地からだいぶ離れているから、辿り着くにはまだずいぶん走らなければならないだろう。
女らしくしろと言われてあたしが暴れるのは皆もう慣れっこになっているから、今更だれも気にしたりフォローしたりしない。この前「ちょっとはフォローしてよね!」って言ったら「だって理冬兵長だし」って言って笑われた。ちくしょー!
むしろ最近では面白がって言ってる節さえあるんだから、まったく始末に負えない奴らだ。
今走っているのはかなり栄えている地域。商店が立ち並ぶ通りには売り子の声が響き、人々が楽しげに買い物にいそしんでいる。我が国の国民は、多くの民族の血が混じっていて様々な瞳の色や髪色をしているため、人混みは見た目にも華やかで心浮き立たせるものがあるのだ。
けれどこれからずっと走っていって帝都から離れるにつれ、治安が悪くて危険な地域が現れてくる。
その中でも極めつけが影宮地区。
妖が出ずとも野盗や獣が人を傷つけ、その日その日を生きていくので精一杯。住民達は皆、食べ物や水を奪い合いながら命を繋いでいる、そんな地域だ。
その時。
進行方向から、ぶぁっと生暖かい風が吹いてくるのを感じた。それだけではない。何か、不穏で禍々しい気配…
「皆!前方に負の氣粒の気配が固まってる!妖が…三体よ!」
「理冬兵長!街中です!周辺住民に被害が…!」
「広いとこまで誘き出す!いいわね!?」
「アイサー!」
どうやら、影宮地区に辿り着けるのはもう少し後になりそうだ。向こうにいる隊士達は今か今かと助けを待って戦っているのだろう…
背に括りつけた愛刀の柄に手をかけると、あたしは足を早めた。
世界設定分からないですよね…スミマセン!
時間をかけて細かい事は書いていくので、今のところは訳分からないところがあってもスルーしていただければと思います。