プロローグ
私の名前は夢野希美…15歳の中学三年生。
『ねぇ、希美、中の部屋の片づけ手伝ってよ。』そして、ノックもせずにいきなり人の部屋に入って来た、この方が私の母、佳苗。
父の真は休みの日になると、庭の草むしりをしている。
今日も日曜日なので、朝から草むしりをしているようだ。
『お母さん、まだムリして片付けなくて良いんじゃない?』机に向かっていた希美は、体をねじる様に椅子を回し、半身のまま、佳苗に答える。
『だって、いつまでも、そのままって訳にはいかないでしょ?』
『いいじゃない、別に誰に見せる訳でもないしさ…。
中の部屋、そんなに早く片付けたら、中の思い出まで、早く消えちゃいそうだよ。』椅子を回転させ、希美は母に体ごと向き直る。
『良いのよ! ホントは私だって、そのままにしておきたいのよ…。
でも、少しづつでも、中のことを整理して行かなきゃ、あなたや、お父さんにいつまでも迷惑かけられないし…。
それに中にだって、いつまでも私が泣いてちゃ、叱られちゃいそうで………。』佳苗は希美から一度、顔を背け、また希美に顔を戻すと、舌を出して、おどけて見せる。
『そうかなぁ…。 中のことだから、お母さんが泣いてれば「母ちゃんが泣いてる~。」なんて言って喜んで、回りに言いふらしてるかもよ~。』希美もニッと笑って見せる。
『もう、そんなこと言ってないで、早く手伝って。 私一人で片付けなんかしてたら、直ぐ泣いちゃって何にも出来なくなっちゃうから……………ね、お願いよ。』佳苗は言い終わるより早く、希美の前から姿を消した。
『もう、仕方ないなぁ。』希美は椅子から立ち上がると、自分の部屋を出て、すぐ隣の中の部屋に向かった。
中とは、私の4つ下の弟です。
7歳の時に「急性リンパ性白血病」と診断された中は、3年という長い間、病と闘い続けました。
世の中にはもっと長い闘病生活を送っている方が、大人から子供まで沢山いると思いますが、私たち家族にとって、また7歳~9歳という年齢の中にとっては、3年という期間はとても長く感じたと思います。
でももう、そんな事も感じないようになってしまいました。
去年、9歳という終わるには早すぎる生涯を終え、この世を去りました。
「急性リンパ性白血病」…血液のがんといわれる白血病の一つで、小児から成人まで発症するようですが、特に小児に発症する例が多いことから「小児がん」ともいわれています。
大きな病気もせずに生涯を終える方もいらっしゃるかと思います。
しかし、その一方で、中よりも短く、楽しいことも出来ずに、美味しい物も味わえずに亡くなってしまう子供たちもいます。
そして、中と同じように、小児がんで亡くなる子供たちが、まだまだ大勢いることを知ってもらいたいとおもいます。