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夏の終わりに届いたメール

作者: 五月雨拳人
掲載日:2013/01/03

お正月にやってた新海誠特集の「ほしのこえ」を見て、昔メールを題材にした短編を書いたことを思い出しました。

小説を書き始めた頃の稚拙極まりない文ですが、自分ではけっこう気に入っている作品なので、読んでくれた誰かの琴線に触れたのなら幸いです。

 父は、僕が生まれる少し前に死んだ。

 母の話では、父は惑星改造テラフォーミング――惑星の環境を人工的に調整し、地球に似た、もしくは人類やその他の生命体が居住可能な環境に改造する――計画の技師だったそうだ。

 だが父は遥か彼方十五光年先の、まだ名前すら正式についていない惑星の改造計画の途中で、その惑星とともに死んだ。

 地殻変動を誘発させるだけの、今では何てことない簡単な作業。だが十五年前の未発達な技術では、その何てことない簡単な作業が失敗し、結果的に星が木っ端微塵に吹き飛んだ。

 あっという間に大地に亀裂が走り、マグマが噴き出し、星が真っ二つに割れた。

 そして惑星が爆発し、後に残ったのは星の死骸――つまりはブラックホールだけ。

 だから惑星改造計画に携わった全員の、遺体も遺品も残っていない。すべては光すら逃れられない暗黒の穴の中に、いっさいがっさい吸い込まれてしまった。

 当然、父の遺品も何一つ無かった。


 終わるなと願い続けた夏休みがあっさりと終わり、またかったるい授業が始まった。

 とはいえ、僕らは学校などという旧時代のものに通ったりしない。授業は全て自宅で受ける。

 先生はカメラに向かって授業を行い、僕ら生徒はそれを端末で見ながら勉強する。

 もちろん僕らが真面目に授業を受けているかどうかを監視するために、こちら側にもカメラはついている。だけど僕らは、授業そっちのけでいかにカメラに映らないように内職をするかという事だけに血道を上げているし、先生も僕らの内職を見つける事だけを楽しみに授業をしていたりする。何と言う無駄な切磋琢磨だろう。

 そんなこんなで、いつものように授業とは別の事をしようとした僕の端末に、突然〝メールが届きました〟という表示が現れた。

 だが僕は、不自然なリアクションを起こすという間抜けな事はしない。授業中に友達からメールが届くなんて日常茶飯事だ。

 慣れた手つきでメールをスキャンにかける。

 スキャンはすぐに終了。ウィルスやスパムの類はなし。

 何の気なしにメールを開いた僕は、送信者の欄に父の名前を見た瞬間、心停止に陥りそうなくらいどきりとした。


 死んだはずの父からのメール。


 何故今頃になってこんなものが。

 驚きと疑問で混乱した僕の頭の中は、煮込み過ぎたシチューのようにどろどろになる。

 幽霊からのメール。

 霊界通信。

 などと苔の生えたレトロなフレーズが頭をよぎる。

 何を馬鹿な。この科学万能の時代。旅行感覚で宇宙に行ける世の中に、そんな非科学的な事などあるはずがない。

 ならば何も恐れる事は無い――そう頭では理解しているのだが、それでも僕はそのメールを開くのを躊躇ってしまう。

 ビビっていたわけじゃない、と言えばまったくの嘘ではないのだけれど、こんな気味の悪いメールをホイホイと開くような能天気さを、僕は持ち合わせていない。

 そんな僕がどうしてこのメールを開いたかと言うと、それは送信日時が目に入ったからだ。

 その日付は、僕の知る限り、記憶が確かなら、などとと言うまでもない。何度も母に聞かされ、なおかつニュースなどあらゆるメディアに取り上げられ、今では歴史にその名を刻んでさえいる、僕の父たちが巻き込まれた、あの惑星崩壊の日だ。

 恐る恐る、表示されたメールの本文に目を通す。


 冒頭は、母とこれから生まれるであろう僕に向けての謝罪だった。


 僕は唇を噛み締めながら、続きを読む。

 だが後に続く文章は、父の最期の言葉としてはあまりにも短く、そして拙いものだった。

 文章の短さから、恐らく惑星が崩壊しているさなか、脱出艇に乗り込む前か後に書いているのだろう。だから惑星間通信ではなく、父が個人で所有している端末の通常通信でメールを出したのだろう。惑星間通信なら、十五年もの時間差タイムラグが発生するわけがない。

 それでも、この短くも拙い文章の中には、どれだけ母を愛しているか、どれほど僕が生まれるのを心待ちにしているのかという父の想いが、これでもかと詰め込まれていた。

 そして、メールの最後にはこう書かれていた。

 神よ、願わくば無事にこのメールが愛する家族に届きますように。


 それは、あまりにも皮肉な奇跡だった。

 もし本当に神様がいるのだとしたら、父の最期の願いを聞き届けてくれたのだろう。

 ブラックホールの超重力すら振り切り、十五年という時間をかけてこのメールを僕の元に届けてくれたのだから。

 だったら代わりに父の乗った脱出艇を助けてくれよ、と思うのは僕の勝手な注文だろう。このメールが届いたというだけで、恐らく天文学的な確率の幸運なのだから。


 父が残した遺品は、何一つ無い。

 ――はずだった。

 だけど、今僕の端末の画面には、父のメールが表示されている。

 このメールを見せれば、母はどんな顔をするだろう。

 きっと今の僕のような顔になるだろう。

 モニターの向こうから、泣きながらにやついている僕を先生が注意している。

 だがそんな事は、本当にどうでも良かった。


   了

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