三十路の女
今、俺は【かなり】危険な任務を任されている。真面目にやらなければぶっ殺されるらしい。難易度としては高くはない。だけど・・・
「なんで掃除なんですか?」
訓練じゃなくて?
―――今から少し前の事―――
「はい、あと少しです。がんばりましょう」
現在、俺とアリサは山道を歩行中である。武器やら食料を俺一人で背負っているのでかなりきつい。でも、アリサ曰これも訓練らしい。ま、確かに筋力向上は望めるだろうけど・・・。
「も、目的地に着くまでに俺の体力がなくなっちゃうよ」
と、弱音も吐いてみるが、
「大丈夫ですよ。1分ぐらいなら休憩もらえると思いますから」
おいおい、「そんだけかよっ」て突っ込みを入れそうになってしまったじゃないか・・・。
「だ、大分キツイ人なんだね・・・。その【フレイヤ】って人は」
「どうでしょう?ただ、今までフレイヤさんの所に修行を志願した人は、皆逃げちゃったって聴きました。皆さん何か有ったのでしょうか?」
・・・結論から言うと、俺の今回の訓練・・・もとい、修行はかなりきついものになりそうだ。
少し歩くと小さな小屋が見えた。木でできた、綺麗なつくりの小屋だ。
「はい。着きましたよ。此処がフレイヤさんのお家です」
俺はやっと着いたのか・・・と額の汗を拭う。と、その時
「ふん、このくらいで体力が尽きるとは情けない・・・。今度の私の弟子はこんな貧弱な男なのか?」
後ろで女性の声がしたので振り返る。そこには、三十路ぐらいの女の人が腰に手を当てて立っていた。
「こんにちは、フレイヤさん。この方がこの間お話したトキさんです」
「へぇ、この貧弱小僧がねぇ」
そう言うとフレイヤさんは俺を品定めするかのように、上から下まで見る。
「よ、よろしくお願いします」
俺は逃げ腰になりながらお辞儀をする。結構威圧感のある目だ。
「ふんっ。まあ、顔は悪くはないが戦闘は弱そうだな」
威圧感丸出しの目をさらに細くする。ぶっちゃけ怖ぇ。
「でも、お話したと通り能力者です。昨日、能力が発動したらしいです」
「へぇ、それはそれは。ま、能力者として強くすればまともなレベルかね」
「はい、ではよろしくお願いしますね。トキさんもがんばってください」
アリサはそれだけ言うと、俺にバックを渡してさっさと下山してしまった。ちなみに、バックの中身はシャンプーや日常生活品だ。
「おし、さっそく訓練しようか」
「さ、早速ですか・・・」
――――――――
「だから、訓練だよ」
「いや、訓練じゃないでしょ・・・」
俺はモップを持った状態でため息をついた。以外や以外。この世界にもモップはあるらしい。それも名前も同じだ。シャンプーなど、現実世界にある物が結構ある事に驚いた。ま、今はそんな事はどうでもいいとして・・・。
「これじゃあただのお手伝いさんじゃないですか」
「文句あるのかい?」
「ありまくりです」
お互い睨みあったまま一歩も引かない・・・けど、俺、足少し震えてる・・・。
「これは訓練だよ」
「じゃあどんな訓練なんですか?」
そこまで訓練と言うなら、どんな訓練か聞かせてもらおうじゃないか。そんな一言は言えないけどね。だって怖いもん。
「これはオーラの操作性を高める訓練なんだよ」
「そんな事言われても、オーラの出し方わからないんですが・・・」
実際、発動したにはしたのだろうがよくわからない状態だったし、俺は俺で眼帯を取られまいと必死だったのだ。いきなりオーラ発動!なんて言われても、今の俺には全然出し方がわからない。
「うーん。発動はしたんだろ?」
「発動はしたにはしたのですが・・・」
俺達二人は、はぁ〜っとため息をついて肩を落とす。
「そうだな・・・まずはオーラを自由自在に出すやり方を訓練せねばならんな」
「どんな訓練をすれば良いんですか?」
俺の質問にフレイヤさんは腕を組んで「う〜ん」と唸り始めてしまった。俺自身はやる気はあまりないが、アリサの期待を裏切りたくはない。面倒見てもらってるわけだし。
フレイヤさんは少し唸った後、「滝に打たれてみる?」なんて言い始めた。実際、そんなんではオーラは出てくるようにならないらしい。自由自在にオーラが操れる人なら、絶対量の増加に繋がるらしいが・・・。
「・・・その左目・・・」
「えっ?」
突然のフレイヤさんの言葉にドキッとした。左目の事は触れてはほしくなかったが、そうも行かないらしい。
「何で眼帯なんかしてあるんだい?アリサの話だと怪我じゃないらしいじゃないか」
「それは・・」
「・・・その左目に何か隠してあるのかい?」
確信をついたフレイヤさんの言葉、全身の汗腺が開くのが分かる。額にも脂汗を掻き始めた。
「そのうろたえ方、やっぱり何かあるんだね。外しな」
「断ります。これは俺の問題なので拒否する権限はあると思います」
「いいから外しなっ!」
そう言うなりフレイヤさんは飛び掛って来た。俺はそれを防ぐために両手を前に出す。しかし、飛び掛って来たはずのフレイヤさんは両手に当たらず、壁の方へ吹っ飛んでしまった。
「ちっ!」
以外に中は広い小屋の中で吹っ飛んだフレイヤさんは壁に受身を取る。かなり手馴れた動きだった。
「やっぱり、その左目に能力の秘密が隠されているね」
「え?」
確かに、俺の左目は異常な色だが現実世界では今まで不思議な事は起こっていない。
「普通、一度能力が発動するとオーラを操れるようになるんだよ。それは、例えオーラの使い方を分からなくてもね」
「どうしてオーラの使い方が分からないのにオーラを操れるようになるんですか?」
矛盾してる気がする。オーラが操れるって事はオーラの使い方を知ってるって事じゃないのか?そんな俺の疑問に対して、答えは簡単だった。
「オーラの使い方が分からなくても、能力自体は使える。つまり、自分が空を飛んだならもう一度飛びたいと思えばいい。今回、オーラの使い方が分からないお前が、二度目の能力を発動させて私が吹っ飛ばされた。つまり、前回発動した状況は、今回のように左目に関わる事だったって事だな」
一回の能力発動でそこまで見破られてしまった。登山の時、アリサが「フレイヤさんは凄い人ですよ」ってた意味が理解できた。頭が良い。多分戦闘でも頭の働きが良いのだろう。とっさの判断力に長けていそうだ。
「ま、その左目がどんなになってようと私は気にしない。お前はその左目を変に思われるのが嫌だから見せたくないのだろう?」
「―――っ」
またもや確信をつかれた。さすがフレイヤさんと言ったところか。
「・・・はい」
「でもね、私はさっき言った通り気にしない。それに、お前さんが眼帯を外さない事には訓練の組み立てもできないよ」
フレイヤさんは腕を組んで俺を見据える。
「・・・じゃあ、取ります」
どんな目でも気にしないって言ってくれたんだ。それは嘘じゃないだろう。俺はフレイヤさんの言葉を信じて眼帯を外した。