赤い髪の少女
いやさ、世の中には理解できない事ってのは一杯あると思うよ?現に僕は異世界に居るわけだし、能力者なんて存在もいるらしいし。でも、俺はそれを受け止めているわけよ。でもねでもね・・・これはどうよ?
「・・・なんでアリサが、俺と同じベットで寝てるんだ?」
いや、理解不能。マジで。
いつから一緒に寝てたよ?・・・夜寝る時は一人だったはずだ・・・。
―――昨晩―――
「トキさん。お疲れ様です」
玄関のドアを開けたところに居るアリサが俺に労いの言葉を掛けてくれる。・・・これだけで俺の疲れは大半吹っ飛んだ。
「あぁ・・・それにしてもかなり疲れたよ・・・あの筋肉モリモリの人・・・俺の事嫌ってるみたいだな・・・。」
「そんな事ないですよ。ただ少し訓練を厳しくするで有名なだけですよ」
・・・そんな事知っているなら、ほかの人に俺の教育係頼んで欲しかったよ。だって、あの後、剣の素振りや、腕立て、腹筋、そしていきなり実践・・・これが毎日続くのかと思うと寒気が走る。
「ハハハ、慣れるまで地獄だな・・・」
「そうですね、クスッ、がんばってください」
アリサは微笑みながら俺の心拍数を底上げする。別に狙ってるわけじゃないと思うんだけど・・・。俺みたいに女の子に免疫の無い奴だと、こんな笑顔を見せられたら心臓がいくつあっても足らないな・・・。
「もうご飯の準備は終わってます。冷める前に食べましょ」
それだけ言い残しアリサはリビングの中に入っていった。
実際、上手かった。家庭的な奴なんだな〜と、俺は考えを改めた。もうオカルト少女なんて呼ぶのはよそう。そう心に決めた、17歳の夜。
――――――
「うん、それで風呂入って一人で寝たんだ」
誰に向けてでもなく呟いた。いやはや、昨日のアリサの飯は上手かった・・・ってそうじゃない!今、問題なのはそこじゃない!アリサが隣でなんで寝ていたか!だ。
「まず此処は・・・よし。俺に割り当てられた部屋だ」
寝ぼけてアリサの寝床にもぐりこんだ・・・なんて事はなかった。
「とりあえず、此処を出るか。アリサが起きたらビックリするかもしれないしな」
アリサが俺の寝床に潜り込んだ可能性は有る、が、今は考えないことにした。もしそうじゃなかったら、アリサが起きたらビックリするだろ?俺はいそいそとベットを抜け出そうと・・・
「おい、さっさと起きろ居候やろう」
アリサではない女の声。その言葉の少し後に、扉の開く・・・
ガチャ・・・スレンダーで綺麗な顔の整い。アリサとはまた違う感じの美少女・・・だが、俺にとってその出会いは、地獄への入り口だった・・・
「で、この居候野郎はアリサに本当になっにもしてないんだな?」
髪が赤くショートカットの美少女が、ナイフ以上に鋭い視線を俺に向ける。
「はい、まったく何もしておりませんし、何もありません。神に誓います」
俺はリビングの床に土下座をして、なんとか誤解を解こうと必死である。もし誤解が解けなかったらこの女にこの場で殺されるか、筋肉モリモリさんに殺されるかも・・・。どちらにしても死ぬのは勘弁だ。
「悪いね。私、神は信じてないんだ」
ニヤッと俺を見下しながら笑う。・・・背中がゾクゾクする笑いだ。
「で、ではアリサに聴いてみてください。本っっっっっ当に何もしてません」
俺はそう言うとアリサの方に請うような目で、助け舟を期待する。・・・紅茶飲んでるし。
「ふんっ。で、アリサ。どうなんだい?」
赤髪少女が紅茶を飲んでいるアリサの方を向く。するとアリサは「ふぇ?」なんて声を上げて紅茶を置き、こちらに向きなおす。
「はぁ、あんたも当事者なんだよ?わっかってる?」
「わかってるよぉ。でも、本当に何にもなかったよ」
アリサはニコッと赤髪少女とは違い、気持ちのいい微笑を見せてくれる。
「・・・んじゃ何でアリサがこの貧弱居候野郎の布団で寝てるんだ?」
今度は俺の方を向き、ギロッと睨みつけてくる。
「そ、それは俺が聞きたい・・・」
「じゃあ何!あんたは無意識の内にアリサを襲ったわけ!?」
「んなわけあるかっ!」
先ほどまで怖さで敬語を使っていたのが嘘のようだ。
「あのぉ〜」
「「何!?」」
おずおずと手を上げたアリサは、俺たちの声にビクッとして小さくなった。
「私、ベットから落ちてないか心配だったんですよ。それで、見に行ったら気持ちよさそうに寝ていたものですから・・・」
「だから?」
「だから、そのぉ、で、出来心で・・・」
一瞬で場が沈黙化した。
「・・・まさか出来心でこんな男の布団にもぐりこんだの?」
「・・・そう」
・・・絶句。まさに、絶句、そのものである。気持ちよさそうに寝ていただけで、普通布団にもぐりこんでくるだろうか?今までアリサの行動はおかしなものが多いと思っていたがここまでとは・・・。
「・・・もういいわ。私、少し外の空気吸ってくる」
そういうなり赤毛少女はそそくさと外に行ってしまった。
「・・・そういえばさ、アリサ。彼女誰なの?」
「あ、そういえば紹介してませんでしたね。彼女はエリサ。エリサ・エスティードです」
「エリサねぇ。そんなおしとやかそうな名前とは全然違う人だね」
僕の言葉に、クスクスと笑うアリサ。・・・やっぱり笑ってる顔は可愛い。
「そうですね。でも、今、私の一番の親友なんですよ」
そういうとアリサも外に出て行ってしまった。一人取り残された俺は、
「さてと、今日は休日らしいし、ゆっくりするかな」
俺は自室の布団へと直行した。
その後、エリサに起こされて、エリサの超人的な強さでボコボコ虐められた事は、思い出したくない思い出の一つとなった・・・。