蒼の男
「油断したっ!」
トキの部屋の前を見張っていたら若い男が現れて、それから眠ってしまったらしい。
「なんて失態だよっ!まったく!」
襲撃は警戒していたが、まるで殺気、気配が感じられなかった。だからこそ、油断した。エリサとアリサも寝てしまっている。トキの部屋はもぬけの殻で、部屋の中には少し霧が残っていた。
「殺された?いや・・・連れ去られたのか?」
分からない。でも、血痕は残っていない。少なくとも、ここで殺された事はなさそうだ。
「それにしても・・・」
武器も無い。いちお反撃でもしたのか?やはり血痕が残っていないとなると反撃に失敗したと見て間違いないだろう。
『あいつ』の仲間か?いや・・・『あいつ』は単独で動く男だ。他人と一緒に行動するのを嫌う男。ならあの若い男は?・・・わからない。
「ったく。面倒なことになってきたよ!」
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太陽の光が俺のまぶたを刺激する。俺は目を閉じられなくなって目を開ける。
「やぁ、お目覚めかな?」
蒼い髪に薄く蒼い眼。確か・・・シンとか言ったか。
「ここはどこだ?・・・シン」
俺は周りを見渡す。治りかけた首が少し痛む。気絶する前に掛かった衝撃が原因だろう。俺はどうやら移動しているらしい。おそらく馬車。馬の走る音が外から聞こえる。
「僕はシンじゃなくてユキ。シンとは双子の兄弟だよ」
ユキはシンと同じ笑顔でいる。本当にそっくりだ。
「で、なんで俺は馬車なんかに乗ってるんだ?」
「ん〜ん?それは僕達の仲間になってもらうためだよ」
ユキの隣に居たシンが会話に参加してくる。ん〜。並べてみるとよく似ている。てか、シンがユキの隣に居るのにまったく気が付かなかったし。だけど、今の俺にはまったくそんな事はどうでもよかった。
「仲間?俺が?なんで?」
俺なんかを仲間にしてメリットがあるのだろうか?能力者ではあるが、たいした能力も使えない、まだまだ初心者的なところがある。そんな俺を拉致して、仲間にしてどんな意味があるのだろうか。
「君は僕と同じ。『神々の瞳』を持つものだからね。『奴ら』の手に渡る前に僕達の仲間にしてしまおうって作戦」
ユキは俺の眼帯に手を掛けて俺の赤い眼を晒す。が、俺は眼帯を取られた事よりも、なんとも言い難い不快感を感じていた。『神々の瞳』最近誰かに言われた気がする。が、思い出せない・・・。思い出せそうで思い出せない事で苛立ちを感じる。
「その『神々の瞳』を持つのはユキだけなのか?シンにはないのか?」
「僕にはないよ。持ってるのは兄さん・・・ユキだけさ」
シンがそういうとユキは、俺になにやら説明してくれるらしい。
「君はなにやらいろいろと知らないことが多いらしいね。ま、そこら辺は僕が説明しようかな」
「不本意だが、よろしく」
俺の言葉に笑みだけ返すと説明を始めた。
「まず、『神々の瞳』からね。まずこの眼は特殊なんだ。かなりね。僕達の他に『神々の瞳』を所有しているのは5人。合計7人。それも全員能力者なんだ」
「ってことはユキも能力者なのか」
コクッとうなずくユキ。ま、その『神々の瞳』を所有する俺が能力者なら、ユキも能力者なのはあたりまえか。
「でね、眼に色があるんだ。『神々の瞳』が発動すると眼の色が変わる。君の場合、片方の眼が常に発動中になってるんだけどね。普通、『ある一定以上のオーラ』を使おうとすると発動するんだ。つまり、眼の色が変わる」
なるほど、俺はその特殊な眼を持つ人たちの中で、更に特殊なわけか。
「僕の持つ色は『水色』。僕の普通の時の眼は薄い蒼だけど、発動するともう少し濃くなるんだ。ま、色が変わったとは認識できるよ。でね、他の色は、赤蒼緑黄紫白の眼があるんだ」
「俺はその中で『赤色』なわけだ」
「そうなるね。でね、眼には共通点がある。身体能力の上昇。それも使いこなせば飛躍的にあがるんだ。で、もちろん眼ごとに特殊な能力もある。僕の場合は『空気中にある塵や水分を氷に変える事』ができるんだ」
なるほど、という事は俺にもなにか特殊な能力がついているのか。実は、俺もそこら辺は感づいていた。俺は手をかざすだけで人を吹き飛ばしたことがある。身体能力の上昇だけでは不可能だ。
「他に確認できているので黄色。彼は電気を発生することができる。更に、普通の身体能力上昇に加えて、自分の電気で筋肉を刺激して、更に身体能力を上昇させる事ができるんだ。もちろん、敵に電撃で攻撃するときは、自分に当てる電気の比じゃない威力だけどね」
・・・なんか強そうだな。ユキより強そうだ。・・・って待てよ。
「なんでそんな事を知っているんだ?俺の時もそうだが・・・」
「うん?その黄色の眼を持つ者は僕達の仲間だからだよ」
「じゃぁ、ユキの所には今二人の眼が集まってることになるんだな」
「君を入れて3人だけどね」
・・・俺はまだ仲間になるとは決めていない。いきなり連れ去った連中だ。色々な話を聞かせてくれたことには感謝するが、そう簡単に仲間になれるもんじゃない。
「ま、悩むよね。いいよ、今は。とりあえず僕達のアジトに、ね」
そういうとユキはにっこり笑った。俺はその顔がやけに優しく見えた。