激情
流れを感じる。ただ、流れを。
悲鳴と共に流れを感じる。ただ、感じる。
似ている。何に?・・・俺に。
流れが、似ている。ただ、俺に。
神
――――――――
「おい、本当にこっちで合ってるのか?」
俺と共に走っているシンラは、走っているのにも関わらず息も切らさず俺に質問してくる。普通走りながら喋れば息が持たなくないか?つまり、シンラと一緒に走っている俺は、言葉で質問に答えるのではなく、頭を上下に振ることでしか反応を返せなかった。
修行して強くなったと、言ってみてもまだまだだ。今まで生きてきた中でダラダラしてた分を、一気に挽回できるほどではなかったという事だろう。
少しばかり走っていると前方に人影が見える。なにやら人影が何かを掴んでいるように見えなくもない。
俺とシンラは走るのをやめ、その人影に向かって歩き出す。するとシンラは目を見開き立ち止まった。
「どうしたんだシンラ?早く行こう」
シンラの手を掴んで歩き出そうとする、が、シンラは頑としてそこを動かない。動こうとしない。
「どうしたんだよ?何かあるのか?」
俺の質問にシンラは答えようとしない。ただ、表情には少し変化が見られた。俺にはその顔が恐怖に歪んでいるように見える。
「下がろう・・・・・いや、逃げよう・・・・・」
シンラの顔には色濃く恐怖がにじみ出ていて、発する声は震えている。
「だから、どうしたんだって」
俺はシンラの肩を揺らしながらシンラの真正面に立つ。
「アレ・・・・・」
シンラは俺の後ろ、つまり、人影の方を指差す。
俺は人影の方に向きを変えて、目を凝らす。明かりが少なくて見にくい。人影がなんとなく男性に見えてきた所で俺は、目線を手に持っているものに移す。
―――それは―――人の―――
首だった。
「っ!」
俺は声も出ず、男の方を向いたまま固まる。シンラが固まっていた理由が今ならよくわかる。こういうくらい所で暮らしてきたシンラだ。暗いところでもよく見えるのだろう。
「ほう、我を殺しに来たのか?」
男は俺たちを見つけたのか、俺たちの方に振り返ってくる。
その顔は笑っている。
―――危険だ
「おい!シンラ逃げるぞ!」
俺は放心状態から戻ってシンラの肩を揺らす。だがシンラは動かない。
「おいシンラ!」
徐々に近寄ってくる男を警戒しながらシンラの手を掴んで逃げようとする、が、
「どこへ行こうとしてるんだ?」
手を掴んで、男に背を向けた瞬間、
男は、
俺の目の前に居た
「なっ!」
俺は飛び退き男と距離を取る。シンラの手を離したのは失敗だった。
シンラはゆっくりと振り返り、男の顔を見る。そして、視線は男が持っている首に向けられた。首は、髪が長く、どこかで見たことのあるような顔をしていた。
「ねぇ・・・さん?」
シンラが発した言葉に俺は耳を疑った。姉さんだって?シンラの家族構成を聞いていなかったので姉が居るのも驚きだ、が、
「お前がねぇさん・・・を?」
視線を姉の首から、男の顔へと移動させる。微妙に斜めから見る形になっているためによくは見えないが、その顔は恐怖から怒りへと変わっているようだ。
「ん?・・・あぁ、この女の弟か」
鼻で笑うと男はシンラの姉の首を投げ捨てた。
「お前っ!」
完全に自分を押さえ込んでいたものが弾けたのだろう。シンラは男に飛び掛った。ってバカ!呑気に見てる暇はない!止めないと殺される!
「シンラ!」
飛び掛るシンラを止めようと走る。ただ今はシンラを助けたいと、そう思った。なのに・・・
「餓鬼が・・・」
男が腰から抜いた剣は、俺が駆け寄るシンラの左胸を―――
貫いた
「ふんっ」
シンラを貫いたまま、男はまた鼻で笑った。その光景の訳がわからなくて、それ以上見たくなくて。だけど、目が離せない。
左胸に剣を刺したまま剣を振り、シンラを俺のほうに飛ばしてきた。
「・・・シンラ」
わからなくて、ただ、わからなくて。逢って数時間だけど、いい奴だってハッキリ分かってて。太陽みたいに明るい奴だって分かってて。なのに、今は、俺の腕の中で血だらけで・・・。死んでいる。
「餓鬼の分際で我に飛び掛ってくるとは笑止。つまらない殺しをしてしまった」
男はそういうと、剣に付いた血を払い、腰の鞘にしまった。
「つまらないって・・・なんだよ」
今、自分が何を考えているのかも分からなくて。ただ、体中の血が沸騰してる気がして。オーラが体中からあふれているのが分かる。
「ほぉ、能力者か」
男が笑ったのなんかどうでもよくて。ただ、念のために持っておいた剣を抜く。男も俺に合わせて、鞘に入れた剣を抜く。
「なんで・・・シンラを・・・」
一歩一歩、地面を踏みつけるように歩く。ただ、男の方に向かって。
「なんで?飛び掛って来たからに決まっておろう」
「俺は・・・シンラを止めようと・・・・・止めようとしたのに!」
俺は抜いた剣で男に飛び掛る。男の剣に比べて俺の剣は大きい。
男はすばやく俺の攻撃を防ぐ。スラム街の暗い路地に、剣と剣がぶつかり合う音が響いた。
「ほう、強い攻撃だな。武器はよくないが、一撃が重いぞ。鈍いがな」
「黙れっ!」
また、男に剣を振り下ろすも剣で防がれる。
「いいオーラの色をしておる、が、遊びに付き合ってやる筋合いもない」
男は俺の剣を弾くと一気に間合いを詰めてくる。
「ちっ!」
俺は一瞬でそれを判断してバックステップをする。が、少し遅かったらしい。
男が振るう剣が俺の胸を少し斬る。傷を擦り具合を確かめる。―――全然行ける。
とりあえず、眼帯が邪魔だ。先ほどの攻撃も、距離間があまり掴めなかった。眼帯に手を掛けてゆっくりと外す。そして、両目で男を睨む。
「―――っ!その瞳・・・『神々の瞳』か!」
「そんなの知らねぇ!」
眼帯を投げ捨てて、また、男に飛び掛る。オーラの出も調子が上がってきてスピードがあがる。
「むっ!」
男はすかさず横にステップで避ける、が俺の剣は男の肩を少しだけ斬る事ができた。
「ほぉ、やるではないか。さすが、瞳を受け継ぐ者だな。そのうえ最高種とは」
―――微笑んでやがる。シンラの姉を殺して、シンラを殺したのに、笑ってやがる。
「お前はっ!」
能力発動中で最高速度と思われる動きで男の懐に潜り込む。
「俺が殺す!」
下から振り上げる形で斬りかかる。が、その瞬間、男は俺の背後に居た。
「甘いな」
男は高々と剣を天にかざし、俺に向かって振り下ろす。
「その眼!我が貰い受ける!」
無理だと直感した。男の剣は早くて、男自体も早い。俺の何倍も、何倍も。
「悪いね。そいつは無理だ」
声が聞こえた瞬間、俺は別の所に移動していた。男のなんメートルも後ろだ。それと、誰かに抱きかかえられている感覚。
「ふ、懐かしい顔だな。フレイヤ」
「できれば拝みたくない顔だがね」
フレイヤさんは険しい顔のまま俺を下ろして、シンラとその姉の死体を観察する。
「この二人はトキの知り合いかい?」
「少年の方は俺に飯を食わせてくれたのに・・・」
そこまで言って男を睨みつける。不敵に笑っているその顔が気に食わない。
「こいつが!」
俺がまた斬りかかろうとする、が、俺の手の中からは剣が消えていた。
「バカ。感情に流されるな」
フレイヤさんの手の中には、さっきまで俺が握っていた剣が握られていた。
「止めないでください!こいつは俺が殺すんだ!」
俺がそういうとフレイヤさんは呆れた顔をして、
「バカ弟子が・・・」
ドス―――
首に受けた衝撃を最後に、俺は闇に堕ちた。