偶然の産物
「聖域?」
「はい、聖域です」
なるほど、ここは聖域らしい。・・・いやいや、問題は全然解決していない。なんで俺は聖域なる所に居るんだ?そもそも今日は学校に登校したんじゃなかったのか?いや、待てよ。俺は登校したか?・・・あぁ、したな。登校してそうそうチョーク投げつけられたからな。その証拠に学生服に白い粉みたいなのが少しついてるしな。俺が「うーん、うーーん」なんて唸っていると、
「あの・・・どこかご気分でも悪いのですか?」
なんて顔を覗き込みながら俺に尋ねてくる。・・・くそっ、この可愛さはいくらなんでも反則だろ。
「・・・いえ、ちょっと考え事そしていただけです」
不覚にも少し顔が赤かったかもしれない。今鏡があれば自分の顔の色を確かめてやりたい。
「そうですか・・・あの、でしたら、ここをすぐ離れてください」
「え?あの、どうしてですか?」
俺はちょっと疑問に思う。まさかここで泳ぐのかな?
「ここは聖域です。一般の方が入られる事を禁じられている域です。それに・・・貴方はアイルードの方でもなさそうですし・・・」
「あ、あいるーど??」
何だそりゃ・・・始めて聞く言葉だ。
「アイルードとはこの聖域を管理している村の名です」
あ、なるほど。つまりここはアイルードって村の管理する聖域なのね。よそ者を寄せ付けないわけだ。だから湖がこんなにも綺麗になってるのか。んで、この美少女はアイルードって村の住人なわけだ。なるほどね・・・ん?待てよ?日本にアイルードなんて村あったか?いや、俺は別に日本中の村の名前を知ってるわけじゃないし、マニアじゃない。だけどそんな特徴的な名前の村だぞ?ニュースに取り上げられてもおかしくないんじゃないか?
でもまあ、考えても仕方がない。とりあえず此処を離れようか。離れてくださいって言われてるわけだしな。
「そうですか・・・わかりました。すぐ此処を離れますね」
俺は立ち上がって先ほど湖の水を飲んだときに付いた水を手で払った。
「―――え?」
「ん?どうかしました?」
「あの・・・もしかして湖の水・・・飲みました?」
ん?飲んだのだがどうしたのだろう?・・・あぁ、聖域の水だからこの湖の水は聖水なのだろう。それをよそ者に飲まれて不快なのだろうか?でも隠すほどの事でもないよな。
「はい。一口ですが飲みました。もしかして飲んではいけない水でした?」
俺の言葉を聴いた彼女はビックリしていた。
「飲んだんですか!?体はどこも異常はありませんか!?吐き気はしませんか!?」
顔をぐいっと近づけてくる。俺と彼女の距離は、近すぎて図れません!
俺はビックリして体を後ろに反らしながら、かなり心配な目つきの彼女に答える。
「だ、大丈夫ですよ。すごくおいしかったですし。何か問題でもあるんですか?」
彼女の肩を押して俺との距離を開けさせる。・・・こんな至近距離じゃ俺の心臓がいくつあ
ってもたりない。そのうえこんな美少女だ・・・俺には耐えられない。
「この水は一般の方には毒になってしまうんです!飲めるのは【特殊能力】と呼ばれる特殊な能力を所持している人のみです。その水を飲める貴方は・・・」
彼女は喉を鳴らしてつばをごくりと飲んでいるのがよく解る。・・・明らかに勘違いだろ。確かに俺の左目は特殊な色だ。普段はそれがわからないように眼帯までつけてる。だけど、別に特殊な能力なんて無い。
「い、いえ、俺はそんな能力者じゃないですよ。たまたま毒が効かなかっただけかも」
「いえ!この湖の水は能力者じゃない人が飲むと100%死に至らしめます!それが飲める貴方は能力者なのです!」
次第に熱弁して、目が、キラキラしている目の前の美少女。
「でもですね、自分は能力なんてもってないですよ?いや、本当に」
「実は毒以外に、この湖にはもう一つ特殊な効果があるんです!」
なんか更に熱が入ってる・・・。
「いいですか?良く聴いてください。能力者というのはとても珍しい・・・というわけではないのですが、珍しいです。とてもが付かないだけで珍しいです。でも、能力者の方々も生まれたときから能力者な訳じゃないんです。」
「それじゃあ自分が能力者か気づかないじゃないか。」
「いえ、人にはいろいろな転機や危機が訪れます。そのときに能力が発動されます。例えば・・・崖から落ちたときに【浮遊能力】発動・・・それと、ちょっとしたこと。そうですね・・・コップを取りに行くのが面倒でコップを呼んでみたらコップが自分の所に飛んできた・・・なんて事で能力者であることに気づいたりするんですよ」
「へぇ、なるほどね。それが湖の効果とどう関係があるの?」
彼女は目を光らせた。どうやらその言葉を待っていたらしい。・・・てか普通に少し怖い気がする。彼女はこういうのが好きなのだろう。
「良くぞ訊いてくれました!普通能力者は【オーラ】を元にして【サイコキネシス】なるものを発動するわけです。もちろんサイコキネシスだけじゃない人が能力者には居るらしいです。自分が意識してみたらオーラを操れました・・・なんて事があるわけです。でも、それは稀です。特にコップの例はすごく稀です。つまり、オーラが発動しないから能力が使えない、サイコキネシスが使えない、オーラが操れないって事になるんですよ」
かなり俺にでも解るようにゆっくり丁寧に説明してくれる。よし、この子は性格もきっといいな。目が純粋そうだしな。
「それでですね、ここからは貴方の質問の答えになります。つまりオーラが発動すれば後は本人の能力の性質によって能力を上げればいいわけです。そこで人々が飲むのがこの聖水です!」
と、彼女は唐突に左手の人差し指を湖に向ける。
「ん?・・・あ、なるほど。この水を飲むと潜在的に篭っているオーラを開放できるわけだ。でもそれにはリスクがある」
「そうです。それは・・・この水が能力者や、潜在的能力者以外が飲むと毒になるって事です」
そう言うと、彼女は少しさびしそうな顔で俯く。どうやら自分も能力者になりたいらしいが、怖くて水を飲めないらしい。・・・っていうか――
「えっと・・・それじゃあ、俺は・・・能力者?」
全身の汗腺が開いていくのが解る。汗が吹き出てくるし。
「はい!そうです!珍しい能力者です!」
何故か自分の事の用にうれしそうに言う彼女をよそに、俺はうれしい気分になど到底なれなかった・・・なぜかって?それは―――此処が現実世界じゃないってハッキリしたからさ・・・・・。
この小説を読んだ方は意見や感想を送ってくれるとうれしいです。作者の栄養になります。