心
カラスの鳴く時間も終わり、月が綺麗に見える時間になって来た。
こんな時間に外のベンチに座って目を瞑ると、心が静かになって来るな。
グウゥゥゥゥゥ〜
「・・・腹減ったな・・・」
「ふぅん。腹減ってんのか」
「そうなんだ・・・腹減ってんだ・・・」
って!
「君誰?!いつからそこに??」
三人ぐらい座れるベンチに座っている俺の隣に座っている少年。気配すら感じさせなかった・・・。やるな、少年。
「んー少し前くらいから・・・かな?ま、そんなこといいじゃん。それよりさ、腹減ってんだろ?なら、飯奢ってやるよ」
少年はニカッと笑い、立ち上がった。
「ほら、行くぞ。俺達若者にはのんびりしている時間などないのだ」
なんてわけのわからない事を言いながら、一人先に歩いていってしまった。
俺はというと・・・
「ま、待ってくれ!また迷うから!」
笑いながら歩く少年と、半べそで腹を鳴らしながら歩く青年という、奇妙な絵が出来上がってしまった。
――――――――
「・・・ここが君の家?」
閑静な住宅街・・・ではなく、子供が地べたで寝ているスラム街。それが少年の家らしい。
「ん?ま、驚くよね。スラム街に住む奴が飯奢ってやるって言ってるんだから」
少年はケラケラと笑うと、レンガで積み上げた家らしき物の中に入っていった。
「そんな事はないけど・・・」
少しばかり賑やかで、働く場所もあると思っていた町の端にこんな所があるなんて、少しばかりショックを隠せない。
「さ、早く中に入った入った。今日はパンなんだ」
俺は少年に進められるまま、少年の家の中に入った。
中は以外に広く、人が2人くらい寝られるスペースは十分有る。
「なかなか快適な所だな。レンガの扉で、入るときは退けて、閉める時はレンガを元の場所に置いて、外気の進入を防ぐ所なんてイイアイディアだと思うぞ」
「そうだろそうだろ」
少年は満足気に頷きながら、端に置いておいたパンを取り出した。
「ま、一個食えよ」
「でも、これは君のなんだろ?」
「そんなの気にすんなよ。世の中助け合いだろ?」
少年はニカッと笑うと俺にパンを差し出してきた。
「んじゃ、ありがたくいただくよ」
何だかこんな空気の中で食べるパンは、不思議とおいしかった。
「そういえばさ、名前なんていうの?」
パンを食べ終わり、2人で寝っころがって居るときにふと思った。
まだ自己紹介すらしていないじゃん。
「俺の名前はシンラ。カッコイイだろ」
「ハハハ。そうだな。ちなみに俺はトキ」
「へぇトキか。いい名前じゃん」
シンラはそういうとケラケラ笑った。シンラの笑い方は、なんだか自然で、自分も一緒に笑いたくなるような感じだ。
「ん?」
笑い合っていた途中に悲鳴みたいなものが聞こえる。
「ん?どうしたんだ?」
俺の疑問の声に反応するシンラ。今・・・
「悲鳴らしき声が聞こえたんだけど・・・」
「悲鳴?」
そうなのだ。なんだか分からないけど、遠くもなく近くもない距離から悲鳴が聞こえた気がする。そのうえ、先ほどの悲鳴らしきものを聞いてから、心臓の心拍数が上がって来た。
「・・・行こう。距離は分からないけど、方角ならわかるから」
俺は立ち上がってドアとなっているレンガを退けた。
「え?ま、いっか」
シンラも立ち上がり一緒にレンガを退ける。
心臓が高鳴り、一秒でも早くその場所に行きたいと思う。
早く―――早く―――
俺はそこで、この世界で、『本当の自分を知ることになる』