成果
「ほら、さっさと起きてよね。出発する予定の時間がずれるでしょ」
朝・・・女性の声で目が覚める。少し乱暴な言葉遣いだが、気にしない。おそらくエリサの声だろうが気にしない。それさえ気にしなければいい朝だ。
俺は眠い目を擦りながら起き上がる。
「よし、起きたわね。さっさと朝食食べて、出発するわよ」
どうやら昨日言っていたことは冗談ではないらしい。
「本当についてくる気なの?危ない事に巻き込まれる可能性が無いわけじゃないんだぞ?」
「何言ってんのよ。あんたより私の方が強いでしょうが」
「でも、それは前の話だろ。今、どっちが強いか分からない」
確かにそうだろう。俺とエリサが勝負したのは前だ。俺の能力が開花される前だ。
フレイヤさんの所に言ってから3週間。短期間だが俺は成長したと思われる。体力だって筋肉だってついた。フレイヤさんとの戦闘訓練で戦闘にも慣れてきた。なにより、能力を少しづつ使えるようになってきたのは大きい。
「そう。そこまで言うなら私と勝負してみる?」
「そんな時間ないわよ」
ドアを開けて入ってきたのはアリサだ。
「喧嘩しちゃだめだよ。それに支度しなきゃ。フレイヤさんに叱られても知らないよ?」
俺達にとってその言葉は効果絶大だ。なんたってフレイヤさんは強い。流れるような動き。現実世界で言う『太極拳』みたいなものと『合気道』の重なったような技を繰り出してくる。ま、俺には『太極拳』と『合気道』の違いがはっきりわかるわけではないが。
「わ、わかったわよ。朱鷺!さっさと準備して降りて来なさいよ」
エリサはアリサを連れて俺の部屋を出て行った。どうやら、エリサもフレイヤさんの技の餌食になった事があるらしいな。
俺は一人になった部屋の中で、動きやすそうな服に着替え始めた。
「で、荷物は全部持ったのかい?」
フレイヤさんが村の出口で最終確認を行う。主に持っていくものは、食料、寝袋、テント、火が燃えるもの、だ。火自体をどうするのかはまだ秘密だ。
「はい。持ちました」
アリサは大きなリュックサックらしきバッグを掲げる。それを見た瞬間エリサの眼光が俺を捕らえる。
「ちょっと朱鷺」
「なんだよ」
「あの荷物、あんたが持ちなさいよ」
「ちょっと待て!俺はフレイヤさんから押し付けられた荷物でイッパイイッパイだ。持つならお前が持てよ」
歩くとビン同士がぶつかって鳴る音によく似ている荷物だ。それに、フレイヤさんから慎重に運ぶようにとの命令されている。
「何?あんた、アリサみたいなか弱い女の子に、あんな大きな荷物持たせるつもりなの?」
「う・・・・・・、それならさ、お前が持ってやれよ」
見たところまだまだ余裕ありそうな感じだ。
「嫌よ。私だってか弱い女の子。あんたが持つべきよ」
「・・・・・・もういいよ・・・。とりあえず、俺余裕ないから・・・」
エリサのぶっ飛んだ発言で俺は反論する気すら失せてしまった。俺はとりあえずその場を離れるために先に行ってしまったフレイヤさんと、アリサの後を追った。
「あ、ちょっと待ちなさいよ。・・・ちょっと!」
俺は無視を決め込んでエリサの前を歩いた。
――――――――――
相手が飛び掛ってくる。限界まで引き付けて、最小限の動きで避ける。フレイヤさんとの訓練で回避は特に伸びた。
「ガルルルルルルゥ!」
ヒラリと避けた俺にまたもや飛び掛ってくる。そして、同じように避けるが、今度は剣を抜いて思いっきり斬りつける。避けながら攻撃をするなんて技も山で身につけた。
「ギャウっ」
斬りつけられたモンスターはその場に倒れこんでしまった。
「おぉー。強くなったって言ってたのは本当みたいね」
「そりゃ、ね。基礎能力、特殊能力の向上だけじゃなくて、フレイヤさんとの戦闘訓練、それにモンスターとの戦闘訓練をちゃんと積んだんだ」
「ま、貧弱男としてはがんばったほうかもね」
「ほら、無駄口叩いてないで、さっさと行くぞ」
フレイヤさんはさも、倒して当たり前な口調で一人歩き出す。確かに、この程度の雑魚モンスターごとき倒せないなら、この3週間なにをやっていたんだって話だ。それより前に村の護衛としての訓練もしてきたしな。
「トキさん。強くなってくれて本当にうれしいです」
俺の隣を歩いていたアリサが満面の笑みで微笑みかけてくる。
「少しは強くなったかもね。でも、俺が弱い事には変わりないよ。これからがんばるから見ててね」
「はい!期待してますね」
女の子に期待してもらうのって悪くないね。