過去の現実世界(3)
人生には幾度となくピンチが訪れるという。
確かにそうだと思う。実際、今ピンチの真っ最中。
MISSION―1 健康診断を乗り切れ
「次、杵島君。どうぞ」
健康診断が始まっていた。俺は自分の苗字が『き』で始まる事を呪った。だって呼ばれるのが早いじゃないか!俺はどうやれば左目の眼帯を取らないで済むのか、頭を抱えていた。
「杵島君。早くしなさい。後にまだ沢山人が居るんだ」
そういうと医者らしきおじさんは俺の後ろを指差した。俺は後ろを振り返ると、「さっさとしろよ」なんて目で俺を見てくる、クラスメイト達。俺は渋々医者のおじさんの前の椅子に腰掛けた。
「んじゃあ、目の検査なんだけど・・・左目はどうかしたのかい?」
来たー。いきなりの試練。がんばれ俺。此処で負けたら末代までの恥だ!
「えっとですね。実はですね。少し切ってしまって・・・」
「ほう、それは大変だね。見せてみて?」
おじさんは俺の眼帯を取ろうとする。
「いえ、俺、主治医が居るので左目は大丈夫です。右目だけ検査してください」
「う〜ん。そういう事言われてもねぇ」
確かに難しいかも知れない。やっぱりここは俺の巧みな話術で・・・。
「まあ、主治医が居るなら問題ないか。できれば診断書持ってきて欲しかったけど・・・」
「え?今なにか言いました?」
なんかボソボソ言っててよく聞こえなかった。
「いや?何も言ってないよ。・・・よし、右目も問題ないし、もういいよ」
・・・以外にアッサリ終わってしまった。
以降の健康診断は問題なかった。なんだか知らないレントゲンを撮られたりしたが、別に問題はない。
俺は一つの難関をクリアーして内心、ホッとしていた。だが次は身体測定の視力測定。これが問題だ。ま、同じような手を使えば難なくクリアーできそうだ。
MISSION―2 最後の攻防で勝利せよ
何だか文字数も少なく、たいした修羅場もなく、つまらなく進んでいるが気にしない。
んで、俺は今保険の先生の前に居る。この最後の攻防を勝利すれば俺の高校生活は約束されたも同然だ。
「―――ってな理由でですね、眼帯を外すことは許可されてないんですよ」
「そっか。診断書かなにか持ってきてるかな?」
そうか、診断書なるものが必要なのか。そりゃあ生徒の言葉なんていちいち信用してらんないのかもしれない。
「いえ、今日は忘れちゃったんですよ・・・」
「そっか・・・じゃあ右目の視力だけ測定してね」
「はい」
俺はまたまた大した事もなく事を終える。なんだかつまらない気もするし、期待はずれな気がするが、俺はこれで大満足だ。
視力の測定も終わり俺は安堵のため息を吐きながら教室に向かった。
「おい」
前から歩いてくる見覚えのある人影。・・・加藤か。
「どうしたの?」
「ん?後ろから足音が聞こえたんでね。で、どうだった?身長」
「あぁ、やっぱりあんまり変わってなかったよ。もう俺の成長期は終わりだね」
俺と加藤は今日の身体測定の保険の先生はどうとかの話で盛り上がりながら教室に戻った。そういう話はやっぱり盛り上がるんだよな・・・。
「杵島」
教室に着いた俺は、後ろから不意に呼ばれて振り返った。
「何?」
そこに居たのはクラスメイト。あんまり話したことはない。確か苗字は和田だったかな?
「それがさ妙な噂が立ってるんだよね」
「妙な噂?」
「そうそう。お前の左目の噂だよ」
俺はその言葉を聴いてドキッとした。やけに鼓動が早くなり、心臓の音が大きくなり、周りの音を遮断する。
いったいどうしてそんな噂が流れているのか・・・考えられるのはただ一つ。あの、中学で同じだった女が言ったのだろう。そんな事をペラペラ言うような奴だとは思っていなかったが、仲のいい友達に言ってしまって、それから広まったのかもしれないし、この際理由はどうでもいい。もう、煙は上がってしまっているのだから・・・。
「左目の噂って・・・何?」
「それがさ、瞳孔の周りだけ赤くて、他は普通だって聴くじゃないか。で、本当の所はどうなんだよ?」
面白半分、からかい半分で俺を見る和田(多分)。こういう奴に噂が回ったのは痛い。
「そんなわけ、ないじゃないか」
「でもさ、お前いつも眼帯してるだろ?実際なんじゃないかって、皆言ってるぜ?」
「だからさ・・・そんなのただの噂だよ」
「火の無い所に煙は立たないよ。お前の眼帯と、お前の中学の同級生って奴が証拠だよ」
和田はニヤリと気持ちの悪い笑いを浮かべる。こういう奴はクラスの中で誰かをイジメたり、誰かの悪口を言っていなきゃ気がすまない奴なのだろう。俺が最も嫌いな人種だ。
「だからさ・・・」
「いいから外せって!」
和田は俺に飛び掛って来たが、俺はそれを避ける事が出来ずに一緒に倒れてしまう。
「おい、何やってんだよ」
頭の上で誰だかわからないがクラスメイトの声がする。・・・そうだ!助けを求めよう!
「あの、たすけ・・・・・・」
「お前もこいつの眼帯を取るの手伝えよ!」
和田はマウントモジションのお状態で、俺より早く誰だか分からないクラスメイトに命令をする。
「いいね、手伝うよ」
「なっ!」
それからは最悪だった。話したくないくらい最悪だった。俺のひ弱な腕じゃ対抗で出来ずに、楽々と眼帯を取られてしまった。
その上、それから加藤と藤代にその場面で二人が教室に用事から帰ってきてしまったので、俺の高校生活は終わりを告げた。
その日から加藤は俺から離れるようになった。俺から席を離し、俺を見る眼がまるで、汚いものや化け物を見るような感じだ。話しかけても無視。クラス全体がそんな感じで、高校生活は一日にして中学と同じ状態になってしまった。そんなクラスメイトは俺の眼を【呪いの眼】
(のろいのまなこ)と名付けた。
だが、藤代だけは違った。俺にいつも同じように話を掛けてくれて、周りから何を言われても俺のそばに居てくれた。眼の事には触れない、いつも同じように笑っていてくれた。
「なあ藤代」
「ん?どうかした」
俺達はいつものように一緒に帰っていた。もう太陽は沈みかけて、町全体を綺麗な色で覆っているような時間だった。
「ごんな。俺のせいで藤代まで陰口言われるようになっちゃって・・・」
「い、いいよ。全然。私気にしてないから!」
ニコッとする藤代。でも今は、その微笑がチクリと胸を刺す。
「・・・無理しなくていいよ・・・。俺なんかと一緒に居なくても大丈夫だよ」
俺は無理をしたように微笑む。これ以上、藤代に迷惑を掛けられない。
「無理なんかっ!私朱鷺君の事がっ・・・!」
そこまで言うと藤代は顔を真っ赤にして自分の家の方へ走って行ってしまった。
「・・・俺の事がなんなんだ?」
俺はなんでそこで顔を真っ赤にしたのか分からずに首を傾げていた。それに、いきなり走られたので追いかけることすらできなかった。とりあえず、明日聞いてみよう。うん、そうしよう。
ごめんなさい。今回期待はずれだったのかもしれません。しかもっ公開が遅れて申し訳ございません。これからはもう少し早く公開できるよう、がんばります_| ̄|○ あ、あと、小説を評価してくださった方々、ありがとうございますm(__)m