過去の現実世界(2)
来ては欲しくなかった日・・・・・・今日は俺の命日になるかも知れない日・・・・・・。それは・・・
【健康診断&身体測定】
死んだな俺・・・。
4月の終わりごろになるとある程度皆会話するようになる。俺も、仲の良い友達や、仲の良い異性の友達もできた。中学時代の俺では考えられない事だ。
「では、今日の帰りのHRを終わりにする。委員長。号令掛けて」
今日の帰りのHRも終わり、帰る準備を終わらす。藤代の方を見てアイコンタクトで『一緒に帰ろう』と告げる。藤代もそれを感じたのか、コクリと頷いた。もはや、俺達は普通に会話できるようになっていた。・・・それ以上かも。
あ、ちなみに、委員長と言うのは『クラス』委員長の事である。
「起立!れ・・・」
「あ、ちょっと待った」
担任の原が委員長の号令を止める。早く帰りたい連中は「なんだよ・・・」と悪態をついていた。が、担任は気にしてる素振りすら見せない。教師たるもの、この程度気にしていたらやってられないだろう。
「言い忘れていたが、明日は健康診断と身体測定を一気にやるからな。体操着を忘れないように。以上」
俺は一人でいきなり肩を落とす。後ろの人と両隣の人が「なんだ?」みたいな目で見た来たが気にしない。
「礼!」
皆、礼をして教室をでる。部活へ行く連中や、放課後にどこかの店によっていく者。皆、それぞれの行くべき場所へ向かう。そう・・・・俺を残して・・・・・。
「杵島君?帰らないの?」
「・・・ん?あぁ・・・帰るよ・・・・・」
俺は肩を愕然と落としながら教室をでる。後ろでは藤代が何かぼやいていたが、今の俺の耳には入らなかった。
「ねぇ、何かあったの?」
マイナスオーラ全快の俺は藤代を心配させてしまっているらしい。
「あぁ。あったよ。いや、厳密に言うと、ある、かな・・・」
俺の言葉にキョトンとして首を傾げる藤代。こういう可愛い仕草が男達の目を奪うのだ。俺も何度奪われているか・・・が、今の俺の眼中に入りはしない。明日の事でイッパイイッパイだ。
「ねぇ、私、力になれるかもしれないよ?話してみない?」
優しく、歩きながら俺の手を掴んで真面目な顔の藤代。俺は歩くのをやめて藤代を見る。
「ん、大丈夫だよ。明日中には解決するからさ」
いや、マジで明日中には解決する。いろんな意味で終焉を迎える。
「そっか、わかった」
そういうと藤代は俺の手を離す。今更ながら、手を繋いでいたという事に気がついた俺は、顔の温度が急上昇するのを感じながら藤代を見た。藤代は藤代で自分の行為に赤面しながら、俯いていた。
―――翌日―――
「オス、朱鷺」
今、俺に挨拶してきたのは、俺の前の席の加藤 健二。俺のこの学校の中で、同姓で一番仲のいいと俺は勝手に思っている友人である。実際、名前で呼び合っているので、仲は良い。
「うぇ〜す」
中学校時代では考えられなかった俺の挨拶の仕方。人というのは変われば変わるものだと、認識させられた。
「どうした?今日の挨拶は、やけに気合入ってないじゃないか。何か悩み事か?」
「それがね、今日の身体測定と健康診断の事なんだけど・・・・」
俺はそこまで言ってハッとした。この先を言えば、俺が何の事で落ち込んでいるのかが、バッチリ分かってしまう。「左目が赤いからさぁ。どうにかして隠したいんだよね」なんて言ってしまえば、半月で出来た友情はおそらく、脆くも崩れてしまうだろう。・・・ここは何とかして誤魔化さなければ!
「あ〜えっとあ〜、ほら!俺って身長高くないじゃん!」
「いや、高くないじゃんって力説されても・・・」
「だから身長計らえるの嫌いでさ!」
俺は自分のコンプレックスの一つを挙げて、何とか誤魔化す。
ちなみに身長は、162cmだ。・・・小さいな・・・・。
「あ、なるほどね。ま、俺は目標である身長まで達してるだろうし、ま、恨むんなら牛乳を飲むことによって、身長が伸びない事を恨むんだね」
俺に対して嫌味を言っているようだが気にしない。気にしないように努めたら、俺の右に出るものは居ないだろう・・・。ま、そんな事はどうでもいいのだが・・・。
なんとか話を逸らせた俺は加藤の雑談とサッカー部の愚痴を聞いていた。すると、
「おはよう、杵島君。加藤君」
藤代の微笑ながらの朝の挨拶。俺はこれに癒されるんだ・・・。目の前にも同じような事を考えていそうな加藤は、藤代を惚けながら見つめていた。
「やっばい・・・雑談してて思考を停止させてた・・・」
俺は加藤に助けを求めた。ここまできたら一人の力じゃどうしようもできないだろう。
「なんだよ。そんなに嫌なら仮病でも使って学校来なきゃよかったじゃん」
「そうか、そうすればよかったんだ・・・。なんで気がつかなかったんだ・・・・・」
「お前って頭良いけど、たまに抜けてるよな・・・。んじゃ、今から仮病かませば?」
こいつ・・・他人事だと思って・・・・・。
「そういう訳には行かないよ。だいたい、仮病を演じろなんて言われても、仮病使った事ないからなぁ・・・。家だったら電話で声を少し変えるだけで済んだのに・・・・・。」
「う〜ん。身長くらいそんなに気にするほどじゃないと思うんだがなぁ」
ハァ、とため息を付いて俺は横目で見る加藤。
「ま、まぁ、人にはいろいろあるんだよ」
加藤はこれ以上付き合いきれません、といった感じで前に向きなおした。
「おし、まず、健康診断からはじめるからな。出席番号順に廊下に並べ」
担任が教室に入ってきた時の一言。それは、俺にとって死刑宣告と同じ事だった・・・。