ONIYAMA
「先生が来た!逃げよう。」
学年主任の鬼山のスリッパの音に反応して3人は逃げた。
その場でうずくまる小打は3人に暴力を受けていた。
鬼山はトイレに入るなり
その光景を見て、すぐにその状況を察した。
「おい、どうした?なにかされたのか?」
大きな声がトイレに響き渡る。
「いえ、、なんでも、、ないです。」
力無い小打の声は今にも消えてなくなりそうなくらいの小さなものだった。
「誰にやられた?おい、誰にやられたんだ?」
鬼山は被害を受けた小打に対して怒るように強く言った。
「ほんとに、、なんでもないんです。ぼくは、、大丈夫です。」
泣きそうな声で小打は必死にことの成り行きを隠そうとした。
「うるさい!お前のことなんてどうでもいいんだ。おれはこの問題を解決したいだけなんだよ!言え!誰に何をされた!?」
〈あー、、そういうことか、、〉
その瞬間に、小打は大人の事情の全てを察した。
小打は全ての成り行きを鬼山に話した。
「ほー、、そういうことか!
あいつらにやられたんだな!分かった!」
鬼山は怒ったような素振りを見せながらもどこか嬉しそうな表情にも小打には見えた。
《この人は、おれのことなんて何も考えていない。自分の手柄を作りたいだけだ》
中学生の小打にもそれが手を取るように分かった。
小打から情報を得た鬼山はそそくさと現場を後にしたので
暴力を受け、痛みに苦しむ小打は1人ポツンとその場に留まることしか出来なかった。
小打に暴力をふるった3人は中学からの同級生だった。
リーダー格の縄城。
空手経験者でケンカが強いと評判。
ハーフのフランシャー。金持ちで顔も良い。
小分的存在の丸中。
ケンカは弱そうだが2人への忠誠心が強い。
鬼山は早速この3人を取り締まるべく追いかけた。
「お前らだろ、、、小打にリンチしたのは、、、」
鬼山は保健室の前でとうとう三人を追い詰めた。
「はっ??知らねえし、、、
関係ねぇだろ、てめえには、、」
フランシャーはそう言うと鬼山の足元に唾を吐いた。
鬼山はブチ切れた。
「ドスーーーーンッ!!!!」
鬼山はフランシャーに対して
右ストレートを思い切りぶち抜いた。
フランシャーは吹っ飛ばされ
廊下に叩き落とされた。
「て、、、てめえ、、何してんだよ!!」
フランシャーは叫んだ。
「はっ??
小打をいじめたのはどこのどいつだ??
お前ら、自分がしでかしたことの事実を分かって言ってるのか?」
勝ち誇ったような表情で鬼山は言い放った。
「なんだと、、、!?」
フランシャーは驚いた表情で鬼山を睨みつけた。
「もういい、行こうぜ。」
リーダー格の縄城は倒れ込んだフランシャーにそう言う
と、その場を立ち去ろうと歩いた。
「おい、、、待て!」
鬼山は鬼の形相で縄城を睨みつけ肩をどついた。
「おい、、こら、、てめえ、、、」
縄城は戦闘態勢に入った。
その瞬間、、、
「ドスーーーーーンッ!!!」
またもや鬼山の右ストレートが縄城の顔面を直撃した。
校舎中に響き渡るかのような地響きを立てて縄城はその
場に倒れ込んだ。
子分の丸中は驚きすぎて腰が抜け、その場にへなへなと
倒れ込んでしまった。
3人の中学生がその場で倒れ込み、それを仁王立ちで聳
え立つ教師がいる、、、
それは異様な光景だった。
この一件は学校中を混乱させた。
生徒の誰かが鬼山の暴力の一部始終を見ていて、警察に
通報したのだ。
パトカーのサイレンがすぐに学校に鳴り響いた。
校長の三木田は顔面蒼白で対応に追われた。
そして、、当の本人、、鬼山は
学校から逃げた、、、
「犯人は生徒に暴力を働いたあと、西の方向に向かって
逃走した。すぐに捜査員を配備してくれ。」
県警捜査一課の枕崎は
この事件の担当を担った。
「とにかく星を捕まえて、おれの手柄を上げる。絶対に
逃してはいけない。」
県警のエリートとして期待される若手ホープの枕崎はな
んとしてもこの事件で功績を上げる必要があった。
同世代のライバル達から抜きん出て
輝かしい出世街道を目指すにはここしかなかった。
枕崎はこの事件の解決に大いに燃えていた。
鬼山はとにかく逃げた。
山の奥まで走って逃げてきた。
道とは言えぬいわば、けもの道を
勢いよく駆け上っていった。
県警の配備もさすがに山への逃亡は想定外だった。
《えらいまずいことになってしまった、、おれはいじめ
っ子グループを見つけ出して天罰を下し、生徒指導とし
ての権威を保とうとしただけだったが、おれのほうが悪
者になってしまった、、、もしこれで警察に捕まってし
まったらおれはもう終わりだ、、、》
自暴自棄になってしまった鬼山は
延々と山を登っていった、、、
山を登って少し休憩しようかと思ったところに
何やら怪しげな気配を感じた。
黒い物体が目の前を遮ったように見えた、、、
鬼山は一瞬背筋が凍りついた感覚になった、、
《まずい、、、》
鬼山に緊張感が走る、、、
木の影に隠れたその物体は、、
そう、、
間違いなく、、
熊だった、、、
熊との一触即発の緊張感、、、
鬼山の額は汗とびっしょりとなった。
《まずい、、下手をするとやられる、、、どうすればい
い、、》
小さな歩幅で後退りしながら
熊との距離を図る、、
熊もグルグルというようなうめき声を上げながら鬼山を
警戒する、、
一瞬、鬼山が熊から視線を外したとき、、
熊は鬼山を目掛けて襲いかかった。
鬼山は倒れ込むように防御態勢を図る。
容赦なく熊は鬼山の頭を目掛けて鋭い爪を叩きつけ
た、、、
熊は鬼山の身体に覆い被さり
両手で鬼山の頭に強い攻撃を何度も放った。
鬼山は衝撃でピクリとも動かなくなった。
熊も無抵抗の鬼山を前にして
攻撃を緩める。
そして鬼山の反応が無くなったのを確認して
そのまま野に帰っていくそぶりを見せた。
鬼山はやはりぐったりして動かない。
熊もつまんねえなと言うような佇まいでのそのそと歩い
ていく。
その時だった、、、
鬼山は突然立ち上がり熊を目掛けて猛然と立ち向かっ
た。
背後を取り、首付近目掛けて全体重を乗せて肘打ちをか
ました。
100キロ近い鬼山の体重がそのまま熊の首に炸裂した。
突然の反撃に熊は驚き、怯んだ、、、
鬼山はたまたまポケットに入れていたコンパスを取り出
すと、またも熊の首を目掛けて
思いっきり突き刺した。
喚き泣き散らかす熊を横に
鬼山は手を止めず
何度も何度もコンパスを刺し続けた。
熊の戦意は完全に喪失、、、
そのまま熊はその場に倒れ込んだ、、、
全身が震え上がり、興奮の絶頂にある鬼山は
震える手を抑えながら
その場から離れた。
倒れた熊はもう立ち上がるそぶりも見せず、、苦しそう
にその場に沈んだ。
鬼山は、、
熊に勝ったのだ、、、
鬼山も限界の状態で戦った為にその場に倒れ込んでしま
った。
熊はもうぐったりしているのでこれ以上鬼山を襲う力は
残っていない。
鬼山はそのまま眠りについた。
どのくらい寝ただろうか、、、
鬼山は体力も回復した自分の身体に感心しながらゆっく
りと目を開けた。
木漏れ日の中で明るい陽の光が鬼山の視線に刺さった。
《明るい光だ、、、》
晴れやかな気持ちに鬼山はなった。
山の中で熊と戦い、なんとか熊を退けて眠りについてし
まったという記憶はあったのだが、目を覚ました風景は
それとはちょっと違った。
英語のような声で、騒がしい様子、、、
もう一度ちゃんと目を開けて周りを見てみた。
欧米の外国人が数人、一様に鬼山を見て何かを話してい
る。
「こいつはなんだ??」
「チャイニーズか??」
「けんかでもしたのか?」
ザワザワと欧米人達が鬼山を見て盛り上がっている。
「ここはジャパンか??」
鬼山は言った。
「アメリカだよ!何寝ぼけてんだ?」
鬼山にはそう言っているように聞こえた。
《えっ、、、ここはアメリカ??
なんでおれは今、アメリカに居るんだ??》
鬼山は呆然と立ち尽くした。
《どうやらここはアメリカで
おれ自身もアメリカにいるようだ》
鬼山は全くの幻想の中に居るようだったが
とりあえずここはアメリカなんだと自分に言い聞かせた。
《とりあえずここから脱出しよう》
人の群れの中で見せ物のようになっている自分は耐え難い。
早くここから抜け出そうと鬼山は無言でその場から離れ
ようとした。
「ちょって待て!」
どこからかそんな英語が聞こえた。
鬼山は足を止めてその声の主を辿った。
「ようこそ!鬼山先生!我々はあなたを歓迎する!」
金髪で甲高い声のその主は
長身で色男。
まさにアメリカのイイ男の代表格のような姿だった。
「初めまして、鬼山先生!」
爽やかな挨拶と共に
大きな右手を差し出してきた。
その男の名はジェファーソン・キリエと言った。
つたない英語力の鬼山だったが
どうやらその男はアメリカのサッカー関係者らしい。
アメリカの高校でサッカーを教えてほしいと鬼山はその
男にアプローチを受けた。
「いや、おれはサッカーなんて未経験だ。なぜおれなん
だ?もっと適任者がいるだろう?」
鬼山はすかさず言った。
「だめだ、鬼山。きみじゃなきゃだめなんだ。どうして
も引き受けてもらいたい。」
ジェファーソンのトーンは本気だった。
渋々ではあったが鬼山はその話を受け入れることにし
た。
アメリカはフロリダ州の小さな高校で
鬼山のサッカー生活が始まった。
英語もままならない鬼山だったが
覚悟を決めてここアメリカの地で
一花咲かせてやろうと心に決めた。
一体、なぜ山の中で熊と戦い、そして眠りについたらア
メリカに居たのか、、、
鬼山はそこの疑問は晴れないままであったが、ジェファ
ーソンの言葉を信じてとにかく今与えられた環境を全力
でやり抜こうと決めたのだ。
部員は25人くらいの普通のサッカー部だった。
練習を見た感じ、強豪という雰囲気でもなく、どちらか
と言えばどこにでも平凡なサッカー部のように見えた。
《このサッカー部を強くしたいのか?どういう意味があ
るんだろうか?》
鬼山はますます分からなくなった。
鬼山は学生時代は剣道でその腕を鳴らした。
一方で球技とは無縁でサッカーも野球も全くの素人だ。
剣道で培ってきた忍耐力や根性を
サッカーの指導に生かそうと決めた。
「初めまして。今日から君たちを指導する鬼山です。日
本から来ました。よろしくお願いします。」
鬼山はまずは軽い挨拶でサッカー指導の始まりを告げ
た。
「どうも、、、」
サッカー部の生徒の反応はみな薄いものだった。
どうも覇気が無いというか
魂がこもっていない返事だった。
皆俯き加減で高校生らしい元気を一つも感じれなかっ
た。
《どういうことだ?彼らはなぜこんなにも無気力なんだ
ろう、、、》
鬼山は不安を覚えた。
その不安の理由が就任早々すぐに分かることになる。
彼らサッカー部員達はサッカーが好きでやっているわけ
ではなく、元々はアメフトをやっていた選手が素行不良
によりアメフト部から退部の命を受けて集まってきた
いわゆる落伍者の集まりであった。
鬼山は部活の副顧問からそれを聞いた。
《なんてことだ、、、サッカー好きどころかアメフトが
好きでやっていた生徒がアメフト部を追われてたどり着
いた場所がここであったということか、、、》
鬼山は混乱した。
「よく聞け!お前ら!
お前らの過去がどうだったかなんておれには関係ねえ!
今お前らがやるかどうか!
それしかおれは興味がねえんだよ!
分かるか?」
部員をミーティングルームに集めた鬼山は力のこもった
口調で、またカタコトの英語を駆使しながらそう伝え
た。
「どんなに好きであったものも
自分の実力如何で手放さなきゃなんねえときが来るんだ
よ!
執着すんじゃねえ!
今与えられたこの環境で結果を出すしかねえんだよ!分
かるか?」
鬼山は話しているうちにどんどん感情が乗ってきて気持
ちよくなってきた。
「素人だろうが下手だろうが関係ねえ!おれもサッカーは素人だ!
でもな、、
やるしかねえんだよ!
上手くなるしかねえんだよ!
強くなるしかねえんだよ!
おれらが主役になって
高校のサッカー界に旋風巻き起こしてみせようぜ!!
こっから、、、、、
おれたちの軌跡が
始まるんだよ、、、」
鬼山は決まったと思った。
小さく冷たい風が
部員達の周りでフッと吹いた。
部員達は呆然と立ちすくんでいた。
覇気のない部員達をよそに
鬼山は怒涛の猛練習を課した。
来る日も来る日も走り込みと
ドリブル練習、実践形式も含めて
鬼山の知り得る情報の中で
反復練習を積み重ねた。
それは周りの教師からも心配されるほどの猛練習だっ
た。
「鬼山コーチ、、ちょっとやりすぎでは?」
「鬼山コーチ、それでは部員はついてきませんよ、、」
そんな声がチラホラ聞こえてきた。
《甘い!!こいつらの気持ちを変えるにはこのくらいや
らないと。おれが必ずこいつらに最高の夢を見させてや
る!》
鬼山は闘志に満ちていた。
ある日、3年生部員のステファニーが鬼山の下に来た。
「先生、僕は先生の指導は間違ってると思う。もっと部
員の気持ちとかに寄り添ったほうがいい。先生はあまり
にも自己中心的に指導をしている。
これは学生スポーツとしてあるべき姿じゃない。」
レギュラー格でありディフェンスを務めるステファニー
の理路整然とした意見を鬼山は受けた。
「ほぉ、、部員の分際でお前、偉そうだな。
誰の許可取ってそんな偉そうなことを監督のおれに抜か
してるんだ?
お前は何か大きな勘違いをしているようだな。
今日の練習はお前はグランド50周してから始めろ!
分かったか?」
ステファニーの勇気ある発言を鬼山は一蹴した。
ステファニーは呆然としてしまい、しばらくその場から
動けなくなった。
「早く行け!!」
鬼山はステファニーの膝を目掛けて右足を強打させた。
「おーっ!!!」
ステファニーは叫びながらその場に転げ落ちた。
「はやくいけ、、、」
鬼山はステファニーを見下ろしながら小さな声でそう呟
いた。
鬼山の異常なまでのしごきはその後も続いた。
「今日の試合のザマはなんだ?
お前ら本当に勝ちたいと思ってるのか?なんで同じ高校
生相手にコテンパンにやられてるんだ?
気合いが足りねえんだよ!全員グランド50周だ!今すぐ
行け!」
練習試合に負けた後は容赦なかった。
鬼山は片手には竹刀を持ち、完全に部員達にとっての恐
怖の対象となっていたのだ。
好きでもないサッカーを強制的にやらされて、なおかつ
勝つ気が無いだの気合いが足りないだの言われる部員達
にモチベーションの有る無しを問われる以前の問題であ
ることは明白だった。
鬼山は完全に孤立していた。
練習後にGKのバッカーザイムは芝生の上に身を委ね、
空を見上げた。
「この練習、、いつまで続くんだろう?」
隣で寝そべっていたFWのキングリーに呟いた。
「そうだな、、、おれらが引退するまで続くだろう
な、、、」
キングリーは元気の無い声でそう返した。
「もう限界かも、、、」
バッカーザイムは言った。
「、、、うん、、」
キングリーは返した。
夕暮れの空は
雲が何かを追いかけるように
駆け足で動いていた。
その1ヶ月後、、、
3年生FWキングリーを中心として
総勢20人の部員がグランドに集結した。
その中心の輪でキングリーは声を出した。
「もう我々サッカー部は我慢の限界に来ている。
監督である鬼山の奇行っぷりは目に余る。
我々の力でこの苦難を脱しよう。
敵は鬼山。
あいつを倒すならば何をしても構わない。
おれたちで攻撃を仕掛ける!」
高らかなキングリーの宣言に若者はみな声を荒げた。
おーっ!!!という掛け声が地響きのように響き渡っ
た。
みな、震えるような声と身体の高潮を感じていた。
「なんだ?こんなところに呼び出して。」
鬼山はステファニーのほうを見て行った。
「いや、、先生に教えてもらいたい技術があって、、」
ステファニーは答えた。
「おう、おれにサッカーを教わりたいのか?おれで良け
ればいくらでも教えてやるよ。」
鬼山は言った。
ステファニーは笑顔で鬼山に歩み寄る。
「ありがとうございます。まずは一対一の時のオフェンスですが、、、」
そう切り出したステファニーは話の途中で鬼山を至近距
離に捉えると、思い切り右ストレートを鬼山の頬を目掛
けて振り切った。
完全にノーガードの鬼山は見事にフルヒットした、、、
高校生といえど、ステファニーの一撃は鬼山にとっては
相当な攻撃だった、、、
鬼山はその場にうずくまった。
「よしよし、、見たか、鬼山!お前が調子に乗ってるか
らこうなるんだ!」
ステファニーは肩で息をしながら興奮気味に、どこかホ
ッとしたような苦笑いで鬼山を見下ろした。
「みんな!!出てこい!!」
ステファニーは号令をかけた。
しかし、、待てど暮らせど
誰も出てこない、、
「おい!!みんな早く出てこい!鬼山にとどめをさす
ぞ!!!」
興奮した様子のステファニーは更に声を張り上げて叫ん
だ。
しかし、、準備していたはずの精鋭達の影はひっそりと
消えている、、、
「な、、、なんでだ、、、?みんな、、どこへ行っ
た、、、?」
嫌な汗がステファニーの額に垂れた。
「か、、、かかったな、、、」
微妙に笑いじみたその小さな声の主は、、、
うずくまって苦しんでいる
鬼山だった、、、
「お前ら!!出てこい!!」
力を振り絞った声を出した鬼山、、、
そうすると
道の影からぞろぞろと部員達が姿を現した。
「ステファニー、、ごめんな、、」
それはGKのバッカーザイムだった。
作戦会議で話し合った仲間達は
無惨にもステファニーを裏切った。
「バッカーザイム、、どうして、、、」
呆然と立ちすくむステファニー。
「鬼山に金を渡された、、大金だ、、しばらく遊べるく
らいの、、」
バッカーザイムは答えた。
鬼山は寝転んだ状態でも不敵な笑みを浮かべていた。
「ステファニー、、悪いな、、おれはお前のほうには付
けない、、」
そう言うとバッカーザイムは
ステファニーの横腹を目掛けて渾身のキックを繰り出し
た。
ドカンという大きな衝撃が走った。
「やめろ!!」
ステファニーは声を荒げた。
バッカーザイムはファティングポーズを取り、戦闘モー
ドに入った。
そこからはキングリーなども参戦し
入り乱れる決闘となった。
ステファニー側につく部員は1人もいなくまさにステフ
ァニーはボコボコにされた。
鬼山の見るその前でステファニーは返り討ちにされたの
だ。
「なんでだ、、なんでだよ、、、」
ステファニーの目からは涙が溢れた。
鬼山の日々の言動に耐えきれず
部員みんなで話し合い
鬼山への攻撃を決めた。
にも関わらず、これに勘づいた鬼山の手回しに楽々と乗
っかり、友情という名の信頼を易々と裏切る部員達。
ステファニーはもう落胆するしかなかった。
部員の総勢10人がステファニーに襲いかかり、ステファ
ニーは文字通りボコボコにされた。
悔しさと悲しさでステファニーは号泣した。
「おれを舐めたらこうなるんだよ。分かったか?」
鬼山はステファニーに向かって呟いた。
「お前達、、よくやった。それでこそおれの教え子だ。
今日集まってくれたお前達はレギュラー決定だ。
おれの力でお前達をこれからも勝利に導いてやる。
だから、黙ってついてこい。
金にも困ったら言ってこい。
おれが全力でお前達を守ってやる。
もしも、お前達が裏切ったら
このステファニーという裏切り者と
同じような仕打ちが待ってるぞ。
こんなことになりたくなかったら
素直におれの言うことを聞け。
悪いようにはしない。」
静かに鬼山はそう呟くと
ゆっくりと目を閉じて
その場で大の字になって安堵の状態になった。
今回のステファニーの謀反事件で
結局悪者になったのはステファニーただ1人であり
サッカー部の全員がステファニーを裏切り
鬼山の支配に屈することになった。
その後の練習も当然の如く
激しさを増していった。
「もっと走って走って走りまくれー!!
おれたちは走り勝つサッカーだ!
歩いてる奴は即交代だ!
ついてこれない奴は今すぐ去れー!!」
鬼山の独裁はより強くなっていた。
キングリーもバッカーザイムも
ヘトヘトになりながら
鬼山サッカーに耐えていった。
鬼山率いるサッカー部は
ついに大会を迎えた。
毎年勝ち切ることが出来ない成績が続くこのサッカー部
を強くすることを命じられた鬼山は
なんとしてもこの大会で結果を残す必要があった。
そうでなければ鬼山自身のポストも危ういものになる。
鬼山は絶対に勝つことが求められていた。
「おい、お前ら、今日は絶対勝て。
何があってもだ。
負けたらお前らここから走って家まで帰ってもらう。
勝ったら学校休んでもいい。
おれが手を回して出席扱いにしてやる。
いいか?
お前らに負けは許されない。
絶対に勝ってこい。」
鬼山はそう言い放ち震える選手達を
グランドに放った。
試合の結果は
惨敗だった、、、
鬼山なりに育て上げてきたチームも
蓋を開けてみれば
全くの素人集団、、、
攻撃は見事に相手の守りに封印され
鍛え上げてきたディフェンスも
ものの見事に相手攻撃陣に難なく交わされた。
終わってみれば6-0の惨敗だった。
成す術もなく完封負けを喫した鬼山は
ベンチで怒りを爆発させた。
「おい、てめえら、こんな恥ずかしい試合をしやがって
ただで帰れると思うんじゃねえぞ!
おれの面子が丸潰れだ!
どうしてくれるんだ??
お前ら全員並べ!!」
そう捲し立てると選手1人1人の頬に向かってビンタを炸
裂させた。
「お前らがおれの言う通りに出来ねえからこんな結果に
なるんだよ!!
分かってんのか!!!?」
そう叫びながら鬼山は1人1人に大きな力でビンタを繰り
返した。
観客や相手ベンチも騒然とし
中にはスマートフォンで動画を撮影する者も見られた。
鬼山の怒りは相当なものだった。
この一件は大きな波紋を呼んだ。
次の日にはSNS上に大きく
この動画がアップされ
鬼山の度が過ぎるスパルタ指導が
拡散された。
アメリカ世論を大きく揺れ動かすものとなった。
「日本人指導者が体罰!」
「高校生相手に鉄拳制裁!」
「時代遅れの無能コーチ!」
たくさんの誹謗中傷が鬼山を襲った。
学校にも多くのマスコミが押し寄せることとなった。
鬼山は学校長のジェファーソンからも強い尋問を受け
た。
「どういうことをしたのかお前は分かってるのか?」
鬼山は強烈に責め立てられた。
鬼山はその場でも取り乱した。
強い叱責を受けた鬼山は
感情を爆発させた。
校長のジェファーソンに向かって胸ぐらを掴むと
勢いそのままに壁に向かってジェファーソンを押しつけ
た。
その時、ジェファーソンは壁に頭を強く打ちつけた。
強い衝撃を受けて戸惑うジェファーソンに
鬼山は一切手を緩ませることなく
その右拳を大きくジェファーソンの顔に目掛けて振り抜
いた。
ジェファーソンは意識が朦朧とした。
密室で繰り広げられる暴力行為は
収まることなく
その後も鬼山の攻撃がずっと続いた。
ジェファーソンはその場にうずくまり
動かなくなってしまった。
騒ぎに気付いた教員達が
校長室に集結し
すぐに救急車と警察に通報された。
鬼山は他の教員の制圧に抵抗することなく
落ち着いた様子で状況確認に応じた。
ひとまずは救急車と警察の到着を待つことにした。
「鬼山先生はどこに行った??」
救急車を待つ間、ちょっと目を離した隙に
鬼山の姿が無くなった。
「やばい!逃げたぞ!!すぐに探し出せ!!」
どこからともなくそんな怒声が上がり、みな一斉に騒ぎ
出した。
救急車のサイレンも響き渡る中で
鬼山の大捜索が始まった。
鬼山は一目散に逃げた。
選手を殴り、校長までも殴り
もうめちゃくちゃな暴力を振るってしまったからには
鬼山に残された道は無かった。
そう思った鬼山は山に向かってとにかく逃げた。
あり得ない音のサイレンが街中を駆け巡った。
鬼山は思った。
《おれはどうしようもない人間だ。
自分の地位や名誉の為なら
生徒を傷つけてもかまわない。
自身の為ならば
平気で生徒を利用する。
自分の思うがままに生徒を操る。
いつからおれはこんな汚い人間になってしまったんだ。
昔のおれは違った。
生徒に寄り添う教師だった。
それがなんだ?
この体たらくは、、、
どんなことがあっても生徒の味方で
いたあの頃のおれは何処へ行った?
おれという人間は
果てしもなく汚くて卑怯でどこまでも底辺な人間だ。
おれのような人間は
世の中に出るべきではない。
山の中にでもこもって
自然の中で暮らすべきだ。
人間生活をしていくべき存在じゃない》
懸命に走りながら
鬼山はそう思った。
〜完〜




