表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された無能貴族、実は全属性魔法と鑑定EX持ちでした 〜婚約破棄された翌日、王国が崩壊しましたが俺は関係ありません〜(連載版)  作者: 白昼夢


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/55

第47話:新人冒険者の初仕事、あるいは最良のパートナー

第47話:新人冒険者の初仕事、あるいは最良のパートナー





 アルヴァレスを脱走してから、三日が経った。



 俺とリリアは、アルヴァレスの直轄地から遠く離れた辺境の宿場町にいた。



「……なぁ、リリア。本当に付いてくるつもりか? 俺はこれから、ただの新人冒険者として低レベルの依頼をこなして回るんだぞ。元・魔王の秘書なんて肩書き、一文の得にもならない」



 朝の光が差し込む安宿の食堂で、俺は安物のスープを啜りながら尋ねた。

 対面に座るリリアは、慣れない冒険者用の革鎧に身を包みながらも、優雅な手つきでパンを千切っている。



「何度聞かれても答えは同じです、レオン様。……いえ、今は『レオンさん』でしたね。私のスキルは管理と実務。あなたの行く先々で発生する非効率を解消するのが、私の生涯の『天職』だと、あなたの鑑定EXも言っていたではありませんか」



「……あれは、その、管理職としての適正を言っただけで……」



「屁理屈は却下です。さあ、冷めないうちに食べてください。今日はギルドへの登録と、初仕事の選定ですよ」



 俺はため息を吐き、残りのスープを飲み干した。



 一人で孤独に、ストイックに贖罪の旅を続ける……そんな俺の計画は、彼女が隣にいるだけで、どこか賑やかな「新婚旅行」のような空気感に上書きされてしまう。

だが、不思議と嫌な気分ではなかった。





 ***

 町にある冒険者ギルドの門をくぐる。


 漂うのは、汗と酒と鉄の匂い。かつての管理局の無機質な空気とは対照的な、雑多で生々しい「労働」の気配だ。



「新人か。ここに名前と使える魔法を書いてくれ」



 受付の職員が、退屈そうに書類を突き出してきた。



 俺は一瞬、迷った。



 本名を書けば騒ぎになる。

俺は適当な偽名を書こうとしたが、リリアが背後から俺の手をピシャリと叩いた。



「レオンさん。嘘はいけません。……あなたは、自分の名前を捨てて逃げるつもりですか?」



「……。……そうだな。わかったよ」



 俺は苦笑し、素直に『レオン』とだけ記した。


 そして使える魔法の欄には、かつて世界を跪かせた「全属性魔法・鑑定EX」ではなく、こう書き込んだ。



『生活魔法、および基礎的な身体強化』



 魔王の力は、アルヴァレスのシステム維持と、世界のセーフティネットとして置いてきた。今の俺にあるのは、最小限の魔力と、社畜時代に培った「現場対応力」だけだ。



「よし、登録完了だ。初心者なら、この『薬草採取』か『下水道のネズミ駆除』が妥当だな。どっちにする?」



「……『薬草採取』で。ただし、依頼主の要望を精査させてもらう」



 俺は掲示板から一枚の依頼書を剥ぎ取った。





 ***



 町の郊外にある森。



 俺たちは、膝をついて地面に生える薬草を一つずつ手で摘んでいた。



「鑑定EXがあれば、一瞬で最上品を選別できるんだがな……」



「ダメですよ、レオンさん。自分の目と手で確認する。……それが今のあなたの『業務目標』でしょう?」



 リリアに叱咤されながら、俺は土に汚れた手で草をかき分ける。


 やがて、目的の薬草を見つけた時、俺の脳内にある「鑑定」が、かつての無機質な文字ではなく、実感として情報を伝えてきた。



(……この色、この瑞々しさ。昨夜の雨をたっぷり吸って、今が一番の旬だ。……これなら、依頼主の病気もきっと良くなる)



 それは、数字で幸福度を測っていた頃には決して得られなかった、小さな、けれど確かな手応えだった。



「……リリア。見てくれ。これ、いい出来だぞ」



「ええ。本当に綺麗ですね。……レオンさん、あなたが自分の手で誰かを笑顔にする。それは、空の上から命令を飛ばしていた時より、ずっと素敵なことだと思いませんか?」



 リリアが隣で微笑む。

その笑顔を見て、俺は初めて、自分がこの旅に出て良かったのだと心の底から思えた。



「……ああ。そうかもな。……よし、この調子で全部集めるぞ。……定時退社は死守するがな!」



「ふふ、了解です。チーフ!」



 俺たちは、夕暮れに染まる森の中で、笑い合いながら作業を続けた。

 魔王の統治は終わった。けれど、一人の男と一人の女の、新しい「ホワイトな物語」は、まだ始まったばかりだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ