第43話 再会、そして信頼の委譲
第43話 再会、そして信頼の委譲
地上へ降りたレオンたちが向かったのは、かつてレオンを「魔王」と呼んで最後まで抵抗していた、地上解放軍の拠点だった。
そのリーダーを務めているのは、かつてのレオンの右腕、カイルだ。
一ヶ月前。レオンが「全人類の幸福度を数値で管理する」と宣言したあの日、カイルは激しい口論の末、アルヴァレスを去った。
『俺は、あんたが創るホワイトな国が見たかったんだ。……国民全員を、数字で管理される「家畜」に変える独裁者が見たかったんじゃない!』
そう言い残して地上へ降りたカイルは、レオンの監視を潜り抜け、管理社会に馴染めない人々を密かに保護し続けていたのだ。
そんな彼の前に、レオンは護衛もつけず、たった三人で姿を現した。
「……何の用だ、レオン。また俺たちを『効率』という名の定規で測りに来たのか?」
カイルの声は、かつての親友とは思えないほど冷たかった。背後に控える騎士たちも、殺気立ってレオンを睨みつけている。
「……いや。謝りに来たんだ、カイル。君の言った通りだった」
レオンはそう言うと、静かに頭を下げた。
「君がアルヴァレスを降りた後、私はようやく気づいた。……私がやっていたのは、世界という名の巨大なブラック企業の経営に過ぎなかったんだと。……リリアに命懸けで止められなければ、私は今も空の上で、自分自身さえ鑑定できずに壊れていたはずだ」
レオンの言葉に、カイルの瞳がわずかに揺れた。
彼が知る「魔王」は、謝罪などしない。
だが今、目の前にいる男からは、あの刺すような威圧感が消えていた。
「……謝罪なら受け取っておく。だが、それで何かが変わるのか? あんたは今も、空から世界を見下ろす『管理者』だろう」
「だから、君に頼みたいんだ。……地上の運営を、君たちに任せたい」
レオンは、自らの手で書き記した設計図をカイルに手渡した。
「アルヴァレスは今後、一方的な命令を下す『本社』ではなく、地上の困りごとを解決するための『サポートセンター』に作り変える。……だが、地上で誰が本当に困っているのか、誰が理不尽な搾取に泣いているのか。それを判断するのは、空からの鑑定ではなく、地上で人々と共に歩める君の『目』であるべきだ」
レオンは、カイルの肩に手を置いた。
「カイル。君に、地上における『最高執行責任者(COO)』になってほしい。……私のような独裁を防ぎ、人々の自立を促すための仕組みを、君と一緒に作りたいんだ」
「……COOだと? またそんなわけのわからない言葉を……」
カイルは呆れたように笑い、だがその手はしっかりと設計図を握りしめた。
「ふん。……あんなに派手に喧嘩して別れたっていうのに、よくもまあ、そんな面の皮の厚いスカウトができるな、あんたは」
「断るか?」
「……受けるに決まってるだろ。……あんたを一人にしておくと、またいつ『残業代は夢で払え』なんて言い出すか分からないからな」
カイルがようやく右手を差し出し、レオンがそれを力強く握り返した。
***
「……良かったですね、レオン様。カイル様も、本当はずっと心配していたんですよ」
カイルと別れ、帰路につく中、リリアが安堵したように微笑んだ。
「ああ。……一ヶ月前、彼が出ていった時の私は、その理由さえも『非効率な感情論』として片付けていた。……鑑定EXは万能だが、人の心の『正解』までは教えてくれない。……これからは、もっと君たちの声を聞かなければな」
レオンは、隣を歩くリリアに目を向けた。
彼女の腕の火傷の跡が、夕日に照らされている。
自分が壊してしまったものを、一つずつ、自分の手で直していく。
それはかつて彼が最も嫌った「非効率的な後始末」だったが、今の彼には、それが何よりも尊い仕事に感じられた。
「……さて、次は旧王国の残党たちだな。……リリア、フェニカ。少し『営業』が忙しくなるぞ。……もちろん、残業代はたっぷり出すし、休日も保証する」
「やったー! ボーナスも期待していいんだよね!?」
フェニカの明るい声が、夜の帳が下り始めた荒野に響いた。
レオンは、隣で歩むリリアの横顔を見つめた。
いつか、この世界のすべてを信頼できる後継者たちに託し、自分という「魔王の残滓」を消し去る日が来る。
その時、自分はどこへ行くべきなのか。




