表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された無能貴族、実は全属性魔法と鑑定EX持ちでした 〜婚約破棄された翌日、王国が崩壊しましたが俺は関係ありません〜(連載版)  作者: 白昼夢


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/55

第40話 過負荷のシステム、あるいは恋心という名の不純物

第40話:過負荷のシステム、あるいは恋心という名の不純物




 アルヴァレスの管理局(旧執務室)には、絶え間なく魔導演算の音が響いている。



 宙を舞う数万の鑑定ログ。

その中心で、レオンは一睡もせず、大陸全土から届く「幸福度」の数値を調整し続けていた。



「……レオン様。……もう、やめてください」



 背後からかかったリリアの声は、かつての凛とした事務的なものではなかった。


 震え、湿り、今にも砕け散りそうな、ただの一人の女としての懇願。



「……リリアか。……報告なら、そこに置いておけ。……今は、隣国の食料配給ラインの最適化で、0.003秒の遅延も許されない」



 レオンは振り返りもしない。


 その背中は以前よりも一回り小さく、纏う黒い魔力は、彼の命を燃料に燃え盛る黒い炎のように見えた。


 リリアは、差し出そうとした書類を握りしめた。



 彼女は、覚えている。

 かつて追放されたばかりの頃、慣れない野宿でレオンが作ってくれた、少し焦げたスープの味を。

 「ホワイトな国を作ろう」と笑った彼の、あの不器用な横顔を。

 

 最初は、その背中を追うだけで幸せだった。彼が目指す理想の歯車になれるなら、それだけで人生に価値があると思っていた。

 けれど。

 いつからか、リリアにとってレオンは「導く者」ではなく、「隣で笑っていてほしい男」になっていた。



 

 アーヴェルを失い、彼が一人で泣いていた夜。

 リリアは扉の向こう側で、自分の無力さに爪を立てていた。

 彼が魔王になっても、自分を突き放しても、それでも自分だけは彼の「一番の部下」として残ることで、彼を支えているつもりだった。



(……でも、もう、限界。……あなたの幸せを鑑定できるのは、そのEXチートじゃない。……私なのに)



「……レオン。……お願い、私を見て」



 リリアが思わず、一歩踏み出し、レオンの服の裾に手を伸ばした。


 その瞬間。




『――警告。……個体:リリア。……心拍数上昇、体温上昇。……鑑定結果:業務に不要な感情の高ぶりを確認。……接触による管理効率の低下を検知。……強制排除を開始します』



「な……っ!?」


 レオンの意思ではない。

 彼が自分自身に設定した「効率化システム」が、リリアの『愛』さえもバグとして認識し、排除しようと空間を歪ませた。



「……下がれ、リリア! ……今の私の周囲には、自動防衛が――」


 レオンが初めて、焦燥を浮かべて振り返った。


 だが、その瞬間、二人の間に割って入ったのは、小さな影だった。



「――っ、いい加減にしてよ、バカレオン!」



 フェニカが、強引にリリアを引っ張って後ろへ下げた。


 彼女の手のひらから放たれた虹色の魔力が、レオンの無機質なシステムを一時的に中和する。


「……フェニカ。……何をしている」



「何をしてるのは、あんたでしょ! ……リリアが、どんな気持ちで毎日あんたの隣に立ってると思ってるの!?」



 フェニカは、リリアを庇うように立ち、レオンを睨みつけた。


 その視線には、すべてを見抜いている者の鋭さがあった。


「……リリアの『色』はね、もうずっと前から、あんたへの重たいくらいの『好き』でいっぱいなんだよ! ……悲しくて、苦しくて、それでもあんたが幸せなら自分はどうなってもいいって……! そんな色で、溺れそうになりながらここにいるんだよ!」



「……フェニカ様! ……それは、言わないって……っ!」



 リリアが顔を真っ赤にし、崩れ落ちるように床に膝をついた。

 ひた隠しにしてきた想い。


 リーダーとして慕い、仲間として信頼し――その裏で、狂おしいほどに焦がれてきた恋心が、この最悪な状況で暴露された。



「……好き……だと?」



 レオンの瞳が、鑑定EXのノイズで激しく明滅した。

 彼にとって、リリアは「最も有能な秘書」であり「守るべき部下」だった。

 だが、その彼女が自分に対して抱いている感情が、論理や効率とは真逆の、最も「不確実で、温かなもの」であることを、鑑定EXはあえて無視し続けてきたのだ。



『鑑定不能。……個体:リリアの感情プロファイル……。……エラー。……愛……? ……再計算……』



「……計算なんて、しなくていいんだよ」


 フェニカが、泣きそうな顔で笑った。


「リリアはね、あんたに『世界』なんて背負ってほしくないの。……ただ、あんたと一緒に、あの焦げたスープを飲みたいだけなんだよ。……ねえ、リリア?」


 リリアは返事ができなかった。


 ただ、溢れ出す涙を隠すように顔を覆い、小さく頷くことしかできなかった。



 「誰よりも幸せになってほしい」。その「誰か」の中に、本当は自分も入れてほしかったという、ささやかで強欲な願い。



「…………私は」



 レオンの手が、わずかに震えた。


 鑑定EXの光が、リリアの震える肩を捉える。

 そこには、どんな数値化された幸福度よりも、リアルで、切実な「痛み」が刻まれていた。



「……私は、その感情を……受け入れる資格がない」


 レオンは再び、背を向けた。


 だが、その魔力は先ほどまでとは違い、ひどく乱れ、悲痛な不協和音を奏でていた。



「……今日は、もう下がれ。……リリア、……休暇を……、命じる」



 それは、彼が今出せる、精一杯の「優しさ(拒絶)」だった。



 

 完璧な管理社会のヒビから漏れ出したのは、一人の女の、切なすぎる恋心。

 魔王の心臓コアは、鑑定不能なその『愛』に、静かに侵食され始めていた。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ