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追放された無能貴族、実は全属性魔法と鑑定EX持ちでした 〜婚約破棄された翌日、王国が崩壊しましたが俺は関係ありません〜(連載版)  作者: 白昼夢


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第38話:コストカットの対象、あるいは旧時代の残照

第38話:コストカットの対象、あるいは旧時代の残照




 レオン・アルヴァレスが「世界CEO」としての統治を開始してから、地上の勢力図は劇的に塗り替えられた。


 無能な王族は開拓地へ送られ、汚職役人は鉱山での労働を命じられ、代わりに鑑定EXによって「適正ランクA」と診断された平民たちが、新たな行政官として抜擢された。


 当然、これに激しく反発する者たちがいた。


「……愚かな。これほどまでに我らを愚弄するとは!」


 大陸南方の古都。そこには、レオンによって領地と権限を剥奪された元貴族や、既得権益を失った聖職者たちが集結していた。その数、およそ五万。彼らは『大陸正道軍』を自称し、空に浮かぶアルヴァレスを「神を冒涜する魔王の城」として宣戦布告したのだ。


 だが、彼らが国境に陣を敷いた瞬間。


 青天の霹靂――ではなく、空中に巨大な『鑑定ログ』が投影された。


『警告:大陸正道軍。……総兵員数52,012名。……うち、本気で戦う意思がある者は3%未満。残りの97%は、強制徴用された領民、および金銭で雇われた傭兵であると鑑定済みです』



「な、なんだこの文字は!?」


 正道軍の総帥、元公爵のボルドが空を見上げて叫ぶ。


 その直後、戦場に一筋の光が降り立ち、レオン・アルヴァレスが独り、軍勢の前に姿を現した。


「……ボルド公爵。君の行動を鑑定した結果、極めて非効率であるという結論に達した」


 レオンは武器すら構えていない。ただ、事務的な冷徹さを湛えた瞳で、五万の軍勢を見据えている。


「ふん! 貴様一人で何ができる! 我らは神の正義の名の下に、貴様の独裁を終わらせに来たのだ!」


「正義、か。……鑑定によれば、君がこの軍を動かすために使った資金は、本来なら領民の冬の備蓄に回されるべきものだ。また、君が掲げる『伝統の守護』というスローガンに共感している兵士は、背後に並ぶ騎士団のうちの三名のみ。……残りの者は、君が彼らの家族を人質に取っているから従っているに過ぎない」


 レオンが淡々と事実を「公表」する。


 鑑定EXによって暴かれた真実は、拡声魔法によって全軍の耳に届いた。


 兵士たちの間に、動揺が走る。



「だ、黙れ! 詭弁を弄するな!」


「詭弁ではない。データだ。……ボルド。君一人の自尊心を守るために、五万人の労働力が数日間停滞し、さらに数千人が死傷する。この『戦争』というプロジェクトの収支は、圧倒的な赤字だ。……よって、この企画は不採用(却下)とする」



 レオンがパチン、と指を鳴らした。





「全属性魔法・強制解任パージ



 次の瞬間、五万の軍勢が装備していた剣、槍、鎧が――一斉に「霧」となって消滅した。




 レオンが鑑定EXで導き出した「物質の結合構造」への直接干渉。

 数秒前まで重装騎士だった男たちは、一瞬にして下着同然の姿で戦場に取り残された。



「……な、なんだと……!? 我が家宝の魔剣が、鎧が……!」


「武器を失った以上、戦闘は継続不能。……さて、兵士諸君。君たちの『鑑定結果』に基づき、新たな職場を提示する」




 レオンの背後に、数千の転移ゲートが出現した。



「家族を人質に取られていた者は、左のゲートへ。アルヴァレスの直轄部隊がすでに家族を保護済みだ。そのまま帰宅し、明日の朝九時から指定の農地で働け。……傭兵諸君は中央のゲートへ。君たちの武勇は、魔物被害の多い西部の国境警備に回す。……そして、ボルド公爵」



 レオンの視線が、震える老人を射抜く。


「君のような『他人のリソースを私物化する無能な管理職』には、特別な求人を用意した。……魔力枯渇地帯の岩盤掘削だ。素手で頑張ってくれ。死なない程度に、効率よく、な」



「ひ、ひぃぃぃっ!」


 絶叫と共に、ボルドは空間の裂け目に飲み込まれて消えた。



 

 戦う前に、戦争が「解散」させられた。

 残された兵士たちは、武器を失ったことへの恐怖よりも、レオンが提示した「家族の保護」と「明確な再就職先」に、困惑と……そして、救われたような安堵を覚えていた。






 ***

 アルヴァレスに帰還したレオンを、リリアが複雑な表情で迎えた。



「……レオン様。あのような方法で軍を解体すれば、周辺諸国からの反発はさらに強まります」


「構わない。反発するたびに、彼らの『無能さ』を鑑定し、代替の利く有能な人材に挿げ替えるだけだ。……リリア、私は世界を支配したいのではない。世界という名の『ブラック企業』を、健全な収支のホワイト組織に作り変えたいだけだ」


「……そのために、ご自分が『恐怖の象徴』になるというのですか?」


「……それが、最もコストが低いからだ」


 レオンはそう言い捨てて、再び冷たい玉座に座った。


 

 リリアは、彼の背中を見つめながら、拳を握りしめた。


 レオンがやっていることは、地上の民にとっては救いだ。虐げられていた者たちが、適正に評価され、真っ当に暮らせるようになっている。

 だが、そのシステムを支えているのは、レオンの「心」を削って生み出される、膨大な演算と孤独だった。




(……レオン様。あなたは、世界をホワイトにしようとして、自分自身を真っ黒な闇に沈めているのですね……)



 フェニカが、部屋の隅から悲しげな瞳でレオンを見つめていた。


 レオンの纏う魔力は、さらに鋭く、冷たく、凍てついていく。

 


 魔王による「強制的ホワイト化」は加速する。


 しかし、その完璧な統治の裏側で、レオンの精神は徐々に「限界」という名のデッドラインへと近づいていた。


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