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追放された無能貴族、実は全属性魔法と鑑定EX持ちでした 〜婚約破棄された翌日、王国が崩壊しましたが俺は関係ありません〜(連載版)  作者: 白昼夢


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第33話 深まる不協和音、穢された祈り

第33話:深まる不協和音、穢された祈り




 アイゼン要塞の消滅は、瞬く間に世界を駆け巡った。


 煙も残さず、轟音も上げずに、数千の兵士と堅牢な要塞が、地図上から文字通り「消滅」したのだ。


 それは、「最強」レオン・アルヴァレスが、ついにその牙を剥いたことへの、血塗られた証明だった。

 国際会議場は、怒号と混乱の坩堝るつぼと化していた。


「まさか、本当にやるとは! あれは虐殺だ!」


「アルヴァレスは、国際法を完全に無視した! これは宣戦布告に等しい!」


 各国の代表たちは、レオンへの恐怖と、彼らの自尊心を傷つけられた怒りで、顔を紅潮させていた。

 彼らが恐れていた「魔王」が、まさにその通りに行動を開始したのだ。


 その中で、一人の女が静かに、だが冷徹な視線を周囲に配っていた。

 セシリア・ルミナス。

彼女は、隣国の代表団の一員として、この会議に出席していた。


「皆様。落ち着いてください」


 セシリアの声は、清らかで、悲しみに満ちていた。

 彼女はゆっくりと立ち上がり、涙を浮かべながら語り出した。


「私は、王国という国を、レオン・アルヴァレスという男によって失った者です。彼は、口では平和を唱えながら、その内には常に、傲慢な力を秘めていました」


 彼女の言葉は、まるでかつて王国でレオンを追放した時の台詞を再現するかのようだった。


「アイゼン要塞の悲劇は、アーヴェル様の尊い死を利用し、自らの邪魔者を排除した彼が、ついに本性を現した証拠です。彼は、世界を統べる魔王となるでしょう」


 セシリアの言葉は、各国代表たちの心に、疑念ではなく「確信」を植え付けた。


 彼らの脳裏には、レオンの冷徹な断罪が、まさに「魔王の所業」として焼き付いている。


「私たちは、傍観してはなりません。アルヴァレスは、もはや人類の敵です。……私に、この世界をレオン・アルヴァレスの支配から救うための、力を与えてください」




 彼女の訴えは、国際社会をレオン包囲網へと駆り立てる決定打となった。







 ***

 アルヴァレスの評議塔。




 フェニカは、リリアと共に、国際会議の速報を映し出す水晶板を食い入るように見ていた。


「レオンの野郎……! 何てことを……!」


 リリアが悔しそうに拳を叩きつける。


 アーヴェルを殺害した相手を殲滅したレオンの行動は、リリアにとって、友の仇討ちだった。だが、国際社会の反応は、それを「大義なき虐殺」と断じていた。


「……あいつ、絶対、何も説明してないでしょ」


 フェニカが呟く。


 レオンが、アイゼン要塞の兵士たちがアーヴェルの死に関与したことを『鑑定EX』で知り尽くしていたとしても、それを「説明」するような男ではない。

 かつてのレオンなら、まだ多少は考慮したかもしれないが、今の彼は「無駄な対話」を捨て去った。


「フェニカ様……このままでは、アルヴァレスが完全に孤立してしまいます。私たち、どうすれば……」


 リリアの顔には、疲労と絶望の色が濃く滲んでいた。


「……リリア。レオン、どこにいるか、分かる?」


「いえ……アイゼン要塞の跡地から、そのまま転移で姿を消しました。どこへ向かったのかも……」


 フェニカは、胸騒ぎを覚えていた。


 レオンは、アーヴェルを殺した「元凶」を、まだ捕らえていない。


 セシリア・ルミナス。


 あの女だけが、レオンの殺意のリストから外れるはずがないのだ。







 ***

 その頃。


 セシリア・ルミナスは、隣国の地下深くにある隠された聖堂にいた。


 そこは、彼女が唯一信頼する、古くから王家と深い繋がりを持つ異端の神殿だった。


「……感謝いたします、我が女神よ。レオン・アルヴァレスは、私たちが望んだ通りの『魔王』となってくれました」


 セシリアは、薄暗い祭壇に跪き、冷たい石床に額を擦りつけた。

 祭壇の中央には、幼い少女の彫像が置かれている。

 それは、この大陸の古い伝承に語られる、**『聖女』**の像だった。


「これで、アルヴァレスを討つ『大義』は整いました。あとは、彼を止めるための『力』を、世界に示さねばなりません」


 セシリアは、ゆっくりと立ち上がった。

 彼女の背後には、ローブを纏った数名の影が控えている。

 彼らは、アイゼン要塞でアーヴェルを襲撃した、セシリア直属の魔導騎士団の生き残りだった。


「貴様ら、よく聞け」


 セシリアの声は、先ほどの国際会議場での悲劇を訴える聖女のそれとは、まるで別人のように冷たく、残忍だった。


「レオン・アルヴァレスは、今、私の居場所を探しているはず。……だが、彼が本当に欲しているのは、私ではない。私が彼から奪い、彼が失った『かけがえのないもの』だ」


 彼女は、ローブの男たちの一人に視線を向けた。

 男は、小さな木箱を差し出す。

 中には、一房の灰色の髪の毛と、乾いた血痕が残された、古びた布の切れ端が入っていた。


「……これは?」


「これは、アーヴェル・グランディスの遺髪と、血に染まった衣服の一部よ」


 セシリアは、恐ろしいほどの笑顔で、木箱をゆっくりと閉じた。


「私の計画は、最終段階に入る。世界に向けて、**『アーヴェルの魂を弔う聖なる儀式』**を執り行うわ」


 周囲の魔導騎士たちが、困惑したように顔を見合わせる。


「……王女様。しかし、それでは彼の死を公に利用することに……」


「その通りよ。私が、アーヴェルの死を、最高の道具として利用するの。そして――」


 セシリアは、祭壇に置かれた『聖女』の像を、愛おしそうに撫でた。


「この儀式には、もう一つ、大切な役割があるわ。……レオン・アルヴァレスの最大の『かせ』を、永遠に打ち砕くためのね」


 彼女の計画は、ただレオンを誘い出すだけではない。

 アーヴェルの遺品を利用して、レオンの心に決定的な絶望を刻み込む、あまりに卑劣な罠。


 それは、レオンの『鑑定EX』ですら、その意図を読み切ることのできない、深淵の悪意だった。


「さあ、世界中の民よ。アーヴェル・グランディスの魂に祈りを捧げなさい。そして、その魂を弄ぶ魔王に、憤りなさい」


 セシリアの冷酷な笑い声が、神聖な聖堂の奥深くまで響き渡った。




 

 レオン・アルヴァレスの怒りは、まだ底を見せていなかった。

 だが、彼の怒りさえもが、セシリアの手のひらの上で踊らされる『劇』の一部に過ぎないことを、彼はまだ知る由もなかった。


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