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追放された無能貴族、実は全属性魔法と鑑定EX持ちでした 〜婚約破棄された翌日、王国が崩壊しましたが俺は関係ありません〜(連載版)  作者: 白昼夢


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 第四章 不協和音と喪失の輪舞曲 第27話 神威の残火

第四章 不協和音と喪失の輪舞曲


第27話 神威の残火



 物語には、二つの終わりがある。


 一つは、悪を打ち倒し、望むものを手に入れた瞬間に訪れる「大団円」。

 そしてもう一つは、手に入れたはずの平穏が、その重みによって自ら歪み始める「崩壊の序曲」だ。


 浮遊国家アルヴァレス。


 王を置かず、最高決裁者として俺が立ち、リリアが知を、フェニカが災厄を、そしてアーヴェルが理を担う。

 それは世界で最も扱いづらく、そして最も自由な「理想郷」になるはずだった。

 だが、建国の産声が上がったその瞬間から、世界は俺たちを「自由な隣人」としては見ていなかった。

 彼らが向けたのは、底冷えするような――「怪物」を見る目だった。




 ***

 建国から数ヶ月。


 アルヴァレスの外縁、雲海を望む境界線には、隣国の精鋭魔導部隊――三千の軍勢が集結していた。


 名目は「国境付近の合同演習」。だが、その魔力波は明らかに都市の結界を揺らし、露骨な挑発を繰り返している。


「……報告しろ。損害は」


 俺が静かに問うと、傍らに控えるリリアが、震える指先で水晶板を操作した。


「味方の負傷者……ゼロ。都市への物理的被害もありません。……ですが」


 リリアの言葉が詰まる。その視線の先、俺がたった今、指先一つで放った「威圧」の結果が転がっていた。


「……敵方の死者、ゼロ。ただし、展開していた三千名すべての魔導士が、脳内の魔力回路を焼き切られました。……彼らは二度と、魔法を使うことはできません。生活魔法すら、一生」


 俺が選んだのは、最も「効率的」で「平和的」な解決だった。

 誰の命も奪わず、戦う手段だけを奪う。

 視界には、スキル『解析EX』が淡々と無機質なログを流し続ける。


『解析EX:戦闘終了。敵対個体の完全無力化を確認。……警告:生存者の98%が「精神喪失」に近い状態にあります』


(誰も殺していない。これで、誰も悲しまずに済むはずだ)

 そう自分に言い聞かせた。だが、眼下に広がる光景は凄惨だった。


 かつて勇猛だった兵士たちが、まるで魂を抜かれた抜け殻のように、泥の中に膝をついて震えている。彼らの瞳にあるのは、感謝ではない。

 人知を超えた何かへの、言葉を失った空虚な恐怖。

 見守っていたアルヴァレスの民からも、歓声は上がらなかった。

 彼らは、自分たちの「最高決裁者」が、あまりにも容易く、あまりにも非情に、人の尊厳を消し去る様を目撃してしまったのだ。


「……レオン」


 重苦しい沈黙を破り、歩み寄ってきたのはアーヴェルだった。


 老宰相は、いつも通りの穏やかな足取りだったが、その背中はどこか以前より小さく見えた。


「見事な勝利だ。……だがレオン、覚えておきなさい。優しすぎる勝利は、時に剣よりも深く怨恨を刻む。君のその強さを、世界は『平和の守護』ではなく『傲慢な断罪』と呼び始めるだろう」


「……俺は、この国を王国のような血塗られた場所に模したくないだけだ」


「ああ、分かっているとも。君のその青臭いほどの優しさこそが、このアルヴァレスを繋ぎ止めている最後の希望だ。……だからこそ」


 アーヴェルは空を仰いだ。その視線の先、かつて俺たちが守ったはずの世界が、今は真っ黒な嫉妬と恐怖の色に染まって見えた。




 ***

 その頃。

 隣国の王宮。窓一つない冷たい地下室で、一人の女が狂おしいまでの歓喜に肩を震わせていた。


 亡命王女、セシリア・ルミナス。


 彼女の前の机には、レオンによって「廃人」同然にされた兵士たちの凄惨な記録が並んでいる。


「素晴らしいわ、レオン・アルヴァレス! 期待通り、あなたは最高に恐ろしい『魔王』の椅子に座ってくれた」


 彼女は、兵士たちの無残な姿を憐れむことなどしなかった。むしろ、その惨状をどう脚色して世界に触れ回るか、その一点にのみ心血を注いでいた。


「最強の力で守れるのは、形ある体だけ。……ねえ、最強の男から『正義』という看板を奪ったら、世界はどう動くかしら?」


 彼女は一枚の羊皮紙を取り出し、赤いインクで大きく印をつけた。

 狙いはレオンではない。

 レオンと世界を繋ぐ、唯一の細い糸。


「まずは、その賢しらな『理の老人』から消してあげる。……あなたの世界が、絶望で色褪せるのはこれからよ」





 ***

 夜。アルヴァレスの中枢。


 レオンは一人、執務室で自分の手を見つめていた。

 ステータスは完璧。魔力は無限。

 だが、ふと足元を見ると、聖獣ウルが震えながら、俺の服の裾を弱々しく噛んでいた。

 かつてのように元気よく跳ねることもなく、ただ何かを訴えるように、悲しげな声で鳴いている。


「……ウル。お前にも、聞こえるのか? この静かな足音が」


 均衡が、狂い始めていた。

 最強ゆえに、レオンの手が届かない場所から、静かに毒は回り始めていた。

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