第3話 そして俺は追放された
大広間の静寂は、そのまま王家会議室へと持ち込まれた。
王女セシリア・ルミナスの暴露――そしてガイル・フォルテスの偽装――
全てが可視化され、国の中枢にいる者たちは、事態の深刻さを目の当たりにしていた。
「……どうする、陛下?」
宰相の声が低く響く。
それは、震えにも似た声だった。
「このままでは、王国の威信が地に落ちる……いや、揺らぐのは時間の問題だ」
他の高位貴族も、視線を合わせることができない。
皆、知っている――ここで間違った判断をすれば、王国は一瞬で瓦解する。
「では……国外追放か」
王の言葉は静かだった。
だが、決意に満ちていた。
「レオン・アルヴァレス。お前を、王国より追放する」
――最高に頭の悪い決定だ。
その知らせは、ほとんど祝福に近い響きとして、俺の耳に届いた。
肩をすくめる。
「構わない」
平然と返す俺に、王も宰相も目を見開いた。
「……しかし、これで全てが解決するとは思わぬが」
「問題ない。俺はこの国に未練も義理もない」
その場にいた誰もが、俺を「無能」と思っていた。
だが、もう違う。
俺は全属性魔法、鑑定EX、そして無限魔力を手にしている。
王国にとって、俺はもう“駒”ではない。
自由の身なのだ。
追放の日。
王都の城門をくぐると、遠くで城が揺れて見えた。
いや――揺れてはいない。
確かに、世界のルールが音もなく変化したのを感じた。
翌日。王都は――崩れ始める。
それは、噂ではなく、事実だった。
セシリアが進めていた闇契約が暴走し、王都の防御魔法が連鎖崩壊した。
「……ふぅ」
俺は、遠くの丘に立ち、何もせずに眺めるだけだった。
助けられる命か?
否。
国家単位で巻き込まれる人々の救済は、俺の義務ではない。
あくまで、選択肢は個人単位だ。
目の前に広がる瓦礫の王都は、まるで砂のお城のように崩れ落ちていく。
空には煙と灰が立ち上る。
王族の威光も、英雄候補の誇りも、跡形もなく。
だが、俺には関係ない。
街道沿いに歩きながら、俺は思った。
(この世界、詰んでるな)
魔法の制限が外れた今、俺は知っている。
国の秩序も、貴族の権威も、単なる幻に過ぎないことを。
街や森、そして人々の生活――全てが、俺の手のひらで計れる。
そして、決めた。
「……冒険者ギルドに登録するか」
目的は明確だ。
力を試す。
仲間を作る。
この世界を自由に歩く。
王国の滅亡は、あくまで――背景だ。
その日の夕方。
王都の片隅で、奴隷商の檻に一人の少女がいた。
「……助けて、くれるの?」
瞳は怯え、手は拘束の鎖に縛られている。
だが、俺には分かる。
この少女の可能性は、未開放だ。
【リリア】
・種族:ハイエルフ
・才能:時空魔法(EX)
・状態:呪い拘束
「……ああ。自由にする」
呪いを解除すると、少女の表情が一変した。
泣きながら笑う――その笑顔は、仲間として迎え入れるための合図のようだった。
「ご主人様……!」
「いや、仲間だ」
小さな声でそう告げると、リリアは何度も頷いた。
俺は、肩をすくめる。
「さあ、行こう。王都の外には、まだ世界がある」
夕日が、二人を柔らかく照らした。
――追放された無能貴族の、真の冒険はここから始まる。




