第25話 王女セシリア・ルミナスの誤算
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第25話 王女セシリア・ルミナスの誤算「王女は、理解する――すべてが遅すぎた」
暗く、湿った地下通路。
王女セシリア・ルミナスは、荒い呼吸を押し殺しながら足を進めていた。
「……くそ……っ」
指先が震える。
歯が、噛み合わない。
――あの光景が、脳裏から離れなかった。
浮遊都市。
封印が解け、
現れたのは――
少女だった。
ただの、子供。
それなのに。
「……世界が、黙った……」
隣国の干渉部隊が、消えた。
一瞬で。
抵抗も、悲鳴もなく。
魔法ですらない。
術式でもない。
“そうなった”。
それだけ。
「……ありえない……」
セシリアは、自分の肩を抱く。
あれは兵器でも、英雄でもない。
――理だ。
世界の上位に立つ、何か。
「……違う……」
自分に言い聞かせるように呟く。
「私は、間違ってない……
全部、王国のため……」
そうだ。
レオンは無能だった。
三年間、魔法適性なし。
役立たず。
王家の恥。
「……だから、捨てた」
正しい判断。
合理的。
そう、思っていた。
だが――
「……なんで……」
思い出してしまう。
婚約破棄の場で、
あの男が浮かべた、あの微笑み。
怒りも、悲しみもない。
ただ――
理解した者の目。
「……最初から……?」
震える声。
「最初から、
“私たち”が……
詰んでいた……?」
その考えを、必死に否定する。
脳裏に浮かぶ、もう一つの顔。
――宰相の娘。
「……ふん」
自然と、口元が歪んだ。
優等生。
穏やかで、聡明。
皆に好かれる。
そして――
自分より、美しい。
「……大嫌いだった」
何も悪いことなど、していない。
それが、許せなかった。
「……私の方が、王女なのに」
事故。
そう、処理させた。
誰にも知られず。
父親――宰相の心も、折れた。
「……あれは、正しかった」
はずだった。
だが今。
浮遊都市には、
宰相がいる。
レオンの隣に。
そして――
あの伝説の魔術師まで。
「……あの魔術師が……
私の傀儡になるはずだった……」
そう。
計画は、完璧だった。
二重結界。
獣魔の利用。
隣国との連携。
なのに。
「……あの“ウサギ”……」
思い出すだけで、背筋が凍る。
小さくて。
無害そうで。
それが――
鍵だった。
「……笑えない……」
自分は、何を相手にしていた?
「……私は……」
壁に手をつき、
セシリアは、肩で息をする。
「……理解、した……」
ようやく。
レオンは、敵ではなかった。
最初から――
格が違った。
だからこそ。
自分は――
「……許せない……」
理解したからこそ、
憎しみが、さらに深くなる。
「……全部、あいつのせい……」
自分が失ったもの。
王位。
名誉。
未来。
「……殺す……」
掠れた声。
「必ず……
どんな手を使っても……」
隣国との密約は、まだ生きている。
王国暗部も、完全には潰れていない。
「……私は、終わってない……」
だが――
その背後で。
闇の中、誰かが小さく笑った。
浮遊都市。
遠くで、くしゃみをするレオン。
「……ん?」
大魔術師の少女が、ちらりとこちらを見る。
「……あー」
気だるげに言った。
「まだ、虫が一匹、動いてるね」
ウサギが、ぴくりと耳を動かす。
「……ま、潰すのは――
いつでもできるけど」
そう言って、
少女は、にやりと笑った。
世界はもう、
王女の味方ではなかった。




