第21話 檻の中の守護獣
第21話 檻の中の守護獣
王城地下。
かつては宝物庫として使われていたという区画は、今や人の気配もなく、冷たい魔力だけが漂っていた。
石壁に刻まれた無数の魔法陣。
古代と近代の術式が継ぎ接ぎのように組み合わされ、明らかに“後から強化された封印”であることが分かる。
――王女派の仕業だ。
「……嫌な感じだな」
レオンは小さく呟きながら、周囲を見渡す。
視界の先。
分厚な結界の向こうに、小さな影が見えた。
黒く、艶やかな毛並み。
銀色の瞳。
檻の中央で丸くなっているその存在こそが――
魔術師が百年以上も守り続けてきた獣魔だった。
「……いた……」
リリアの声が、わずかに震える。
獣魔は眠っているようにも見えたが、
近づくにつれて、その呼吸が不自然であることが分かった。
魔力を、削られている。
「……これは……」
宰相アーヴェルの表情が曇る。
「獣魔を“鍵”として使うつもりだな。
魔術師の封印を解くためではない。
――無理やり従わせるために」
王家のやり口が、ありありと浮かぶ。
「結界、相当強いわ」
リリアが解析を進めながら言う。
「獣魔自身の力を抑え込む構造になってる。
下手に触れたら……命が危ない」
レオンは舌打ちした。
「相変わらず趣味が悪い。
……だが、突破口はある」
彼は静かに指を鳴らす。
【鑑定(EX)】
結界、檻、魔力の流れ――
全てが可視化される。
「獣魔はまだ、生きてる。
しかも……こちらを認識している」
その言葉に、獣魔の銀の瞳が、わずかに開いた。
じっと、レオンを見る。
いや――
その奥にある、“何か”を見ているようだった。
――その時。
空気が、歪んだ。
「……やはり、ここでしたか」
廊下の奥から現れたのは、黒衣の集団。
王国暗部――王女派の私兵だ。
「浮遊都市の皆さま。
その獣魔は、王国の管理下にあります」
その言葉に、宰相の表情が凍る。
「……まだ“王国”を名乗るつもりか」
男は薄く笑った。
「ええ。
たとえ王が失墜し、王女が追われる身となろうと――
“正統”は我々です」
同時に、結界が強化される。
獣魔が苦しそうに身を縮めた。
「やめなさい!」
リリアが叫ぶ。
だが、暗部の男は構わず詠唱を続ける。
「この獣魔を完全に掌握すれば、
封印された魔術師も従う。
――そうでしょう?」
レオンの目が、細くなる。
「……外道が」
「時間がない!」
アーヴェルが叫ぶ。
「レオン、決断を!」
一瞬の沈黙。
そして――
レオンは、獣魔に向かって静かに言った。
「聞こえるか」
結界越しに、確かな声で。
「お前の主は、まだ生きている。
彼女は――お前を、見捨てていない」
獣魔の瞳が、大きく見開かれる。
その瞬間。
檻の中で、微かな光が灯った。
――封印の奥。
魔術師の結界が、初めて“反応”した。
「なっ……!?」
暗部の魔法が、乱れる。
結界の一部が、軋みを上げた。
「今だ!」
レオンが叫ぶ。
リリアが魔力を全開放し、
アーヴェルが術式を再構築する。
だが――
完全な解除には、まだ届かない。
「……やはり、段階が必要だな」
レオンは歯を食いしばる。
「獣魔をここから連れ出す。
それが第一段階だ」
暗部の男が後退しながら叫ぶ。
「逃がすな!
王女様の計画が――!」
だが、その言葉は最後まで続かなかった。
レオンの一撃が、結界を切り裂いたからだ。
獣魔は、まだ自由ではない。
だが――
確かに、こちらを見ていた。
信頼と、哀しみと、
そして“希望”を宿した瞳で。
「……必ず、助ける」
レオンは、そう誓った。
それは獣魔に向けてであり、
封印の奥にいる魔術師に向けてでもあった。
そして同時に――
王女セシリア・ルミナスとの、
避けられぬ決戦が近づいていることを、
誰もが理解していた。




