第20話 獣魔の影
第20話 獣魔の影
浮遊都市の塔を離れた一行は、夜陰に紛れて王城へ向かっていた。
獣魔――魔術師が封印時に保護した存在。
封印解除の鍵であり、魔術師本人の意思と力を引き出すためには不可欠な存在。
宰相アーヴェル・グランディスは杖を握り、静かに仲間を見渡す。
「警戒を怠るな。王女派も我々の動きを察知しているはずだ」
レオンが肩越しに笑う。
「察知されて当然だ。だが、奴らが先手を打つ前にこちらが動く」
リリアが微かに魔力を放ち、周囲の結界や罠を探る。
「王女派が何を仕掛けてくるか……予測しきれないわ」
カイルも資料を確認しながら頷く。
「王城の奥は魔法障壁が多い。王女派の妨害も含めれば、慎重に進む必要があります」
城壁を越え、王城内部の暗い廊下に忍び込む。
数十メートル先に、獣魔が収容されている小部屋が見える。
透明な結界で封じられた檻の中に、獣魔は静かに座っていた。
毛並みは漆黒、瞳は銀色に光る。
強大な魔力を宿すが、封印のせいで身動きはできない。
アーヴェルは唇を引き結ぶ。
「……これが封印の鍵か」
レオンが手をかざし、解析EXで結界構造を読み取る。
「魔力が二重。しかも、王女派の干渉魔法で外から触れられないよう保護されている。
強引に解除すると獣魔も危険だ」
リリアが軽く息を吐く。
「やっぱり……慎重に行かないとね」
その時、廊下の奥から不穏な気配。
影が揺れ、何者かが近づく。
レオンは微笑みながら剣を構えた。
「来るなよ、王女派の刺客か」
カイルも魔法陣を展開する。
数秒後、現れたのは王女セシリア派の魔法使い二名。
金色の髪を揺らし、冷たい笑みを浮かべる。
「ここまで来るとは、無能貴族……いや、浮遊都市の連中」
アーヴェルは静かに杖を構える。
「……王女派か。獣魔に手を出させはしない」
一触即発の緊張が廊下に漂う。
魔法使いたちは結界を補強する呪文を詠唱し始めた。
もし成功すれば、獣魔へのアクセスは完全に遮断される。
リリアが叫ぶ。
「間に合わない! 私が結界を弱めるわ」
魔力を集中させ、獣魔の檻の結界に微弱な揺らぎを生じさせる。
しかし王女派も高度な魔力干渉で応戦する。
結界の中で獣魔が不安そうに目を光らせる。
アーヴェルは仲間たちに指示を出す。
「レオン、前方の魔法使いを抑えろ。
カイル、魔力干渉を解析して防御。
リリア、結界の揺らぎを維持しろ」
緊迫した数分。
しかし王女派も巧みに魔法陣を組み直し、攻防は一進一退を繰り返す。
レオンが剣を振り、二名の魔法使いをかろうじて押し返す。
アーヴェルは魔力解析で結界の弱点を探るが、二重結界+王女派の干渉で手詰まり状態。
「……突破口は……獣魔の意思か」
リリアが獣魔に魔力を送る。
銀色の瞳が微かに光り、封印の中で反応を示す。
アーヴェルは小声で呟く。
「君の力を、解放する準備はできている……」
獣魔が小さく鳴く。
封印に繋がる反応はあるが、完全に解除するにはまだ文献や過去の魔法知識が必要だ。
レオンは仲間を振り返る。
「次のステップだな。まずは情報収集だ。
王女派も動いてくるだろうが、我々も負けてはいられない」
アーヴェルも深く頷く。
「獣魔を救い、魔術師の封印解除に繋げる。
失敗は許されない」
闇に包まれた王城の奥で、銀色の瞳が一瞬光った。
伝説の魔術師の力と、彼女の守護獣――獣魔。
そして、浮遊都市の仲間たちの未来への決意。
次なる戦いの幕が、静かに上がろうとしていた。




