第16話 今度は、守る
第16話 今度は、守る
浮遊都市《アルヴァレス自治領》の夜は、深く静かだった。
しかし、静寂の裏で、王国残党が蠢いていた。
宰相アーヴェル・グランディスは、書斎の机に手を置き、目を閉じる。
娘の微笑み。
守れなかったあの日。
胸に刻まれた痛みが、今、彼を前に押し出す。
「――もう、誰も失わない」
声は小さく、だが確かに響く。
隣で、レオン・アルヴァレスが静かに頷く。
「了解。宰相。行こう」
解析EXが二人を包む。
【残党部隊位置:地下牢付近】
【人数:10人前後】
【警戒度:中】
【戦闘予想:高】
戦略は、宰相に任せる。
今度は、彼が前に立つ番だ。
地下牢前。
かつて宰相が幽閉され、そして失意の中に沈んだ場所。
今は、王国の残党たちが秘密裏に活動している。
リリア、カイル、アリサの幻影を胸に、アーヴェルは深呼吸した。
杖を握る手に、力が漲る。
「……罠はあるな」
分析は正確だった。
残党の罠は巧妙。
魔力感知をかいくぐるために、地形を利用している。
「ならば、逆手に取る」
目が、冷たく光る。
長年の経験が、今、戦術に変わる。
突入。
宰相が先頭を切る。
魔力の結界を一振りで解き、残党の足止めをする。
「くっ……!」
敵の一人が叫ぶ。
だが、アーヴェルの動きは無駄がない。
魔法弾が壁を弾き、残党を追い詰める。
足元の罠も、瞬時に感知し解除。
背後で、レオンが支援魔法を展開する。
「さすが、宰相……!」
リリアも感嘆の声を漏らす。
だが、アーヴェルは振り向かない。
目の前の一歩に集中している。
地下牢の奥。
薄暗い通路に、残党のボス格が立ちはだかる。
剣を振るう影。
魔法を繰り出す手。
だが、アーヴェルの動きは冷静だった。
「お前たちは、守るべき者を間違えた」
一撃一撃が、無駄なく敵を制圧する。
力ではなく、知略と経験で押し込む。
残党たちは、次々に倒れ、捕縛されていく。
その中には、かつて王国に忠誠を誓った者もいた。
――だが、王女セシリアの陰謀に飲み込まれていた。
アーヴェルの目には、悲しみと怒りが交錯する。
「こんな未来は、もう終わらせる」
作戦終了後。
捕縛された残党たちは、レオンの指示で安全に拘束される。
アーヴェルは、地下牢の奥に立ち、かつての自分の姿を思い出す。
孤独に打ちひしがれ、娘を守れず、国の闇に怯えていたあの日。
しかし今は違う。
仲間と共に、未来を切り拓く。
レオンが隣に立つ。
「宰相……強くなったな」
アーヴェルは、軽く微笑む。
「いや……ようやく、立っただけだ」
胸の奥で、娘の声が響く。
――「お父様、もう大丈夫です」
その声に応えるように、宰相は頷いた。
「次は……封印された魔術師を、救いに行く」
夜空を見上げる。
浮遊都市の光が、遠く揺れる。
未来はまだ、暗くも、光でもある。
だが、もう後戻りはできない。
――今度こそ、守る。
宰相は、そう決めた。




